幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

池田屋事件(質)

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 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 沖田は、自分の前で剣に貫かれている雫を呆然と見上げた。

 亥の刻、近藤さんたちと一緒に踏み込んだ池田屋の二階で、謎の浪士を見つけたのがさっきのこと。

 その浪士は、外で斬り合いが行われているというのに、まるで何事もないように窓から京の街を見下ろしていた。

 見たところ長州の仲間というわけではないようだったが、池田屋にいたということは、新選組にとっては敵だ。

 そのまま斬り合いになったが、逆に圧倒された。純粋な剣技では自分の方がはるかに上だが、相手はそれを上回る腕力でこちらの攻撃をねじ伏せてくる。

 蹴り飛ばされ、とどめを刺されそうになった時、彼女が突然飛び出してきた。そのおかげなのか、浪士の刀は沖田まで届いていない。

 刺した本人である浪士も、雫の登場に面食らって止まっている。

 口から血の塊を吐きつつも、雫は懸命に意識をつないでいた。その瞳が一瞬虚空をさまよったかと思うと、次の瞬間鮮やかな金色に変わった。

 驚いて見守る中、雫は沖田の刀に手を延ばした。そしてそれを掴むと、後ろにいる浪士に向かって投げた。

 刀はまっすぐ浪士の喉笛に向かって飛んだ。気づいた浪士はよけたが、よけきれずに首を切られた。

 すでに息をしていない雫から刀を抜き、悪態をつきながら浪士は窓から逃げて行った。あの怪我では長くないだろう。

 沖田は重い体を引きずり、目の前に横たわる雫に近づいた。

「雫、ちゃん………」

 どうして、と続けようとした。どうして自分を犠牲にしてまで、僕をかばったのか。それを聞こうとした。




 しかしその先の言葉は続かなかった。




 まるで沖田の声に反応したかのように、雫がうっすらと目を開いたからだ。

 雫はしばらくぼーっとしていたが、やがてその瞳が動き、沖田を捉えた。

 沖田の姿を認めると、雫は安堵したように小さく笑った。そしてそのまま静かに目を閉じた。息は、ちゃんとあった。

 まただ。あの時と同じだ。

 目の前で息を引き取ったはずなのに、さっき雫は確かに目を開けた。

 なぜ。

 なぜ君は、息をしている。

 僕の目の前で確実に命の灯火を消した君が、なぜ僕の目の前で再び息を吹き返した。

 人が死んで蘇るなど、見たことも聞いたこともなかった。そんなことがあり得るものなのか。

 もう何がなんだかわからない。頭がグラグラして、吐きそうだ。

「総司!大丈夫か!総司っ!」

 入り口のふすまを開けて、土方さんが血相を変えて飛び込んできた。息が苦しくなってきた。胸部を蹴られた影響だろうか。

「雫ちゃん、を………」

 なんとかそれだけ言って、沖田は意識を手放した。
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