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元治元年
池田屋事件(録)
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飛び出したあとの記憶は、あまりない。
気づいた時には、私は沖田さんに覆いかぶさるようにして彼の前にいた。沖田さんは目を見開いている。
息苦しくて消えそうになっている意識をなんとかして引き止め、私は目線を落とす。
私の喉元から、銀色の刃が生えていた。剣で喉を刺し貫かれたのだと気づくのに、しばらくかかった。
背後でも、青年が固まる気配がした。私は力が抜けそうになる腕を動かし、沖田さんの剣をつかんだ。
そして妖術で狙いをつけて、後ろを見ずに投げた。一拍おいて、私の首から刃が引き抜かれた。
自分が投げた刀が青年に届いたかどうか確かめる前に、私は2本目の命を使い果たしたのだった。
前回おなじみの幽体離脱状態で、私は覚醒した。
今、私は沖田さんと青年がいる部屋に浮いていた。部屋内にほむろの姿が見えないが、部屋の外にいるのかもしれない。
私の体は、ちょうど沖田さんの真ん前に転がっていた。沖田さんは返り血こそ浴びていたが、生きている。
青年を見ると、首からおびただしい出血をしていた。どうやら私が投げた刀は、彼の首を掻き切って後ろの壁に突き刺さったようだ。
「くそっ。悪あがきしやがって」
はじめて青年の声を聞いたな、とかそんなことはどうでもいい。
青年は刀にべっとりついた血も拭わず刀を鞘に戻し、首を抑えながら窓から飛び降りた。私は後を追ってみることにした。
青年は致死量以上の血を流しているはずなのに、まだ生きていた。彼は誰もいない通りに降り、まっすぐ裏路地に姿を消していく。
裏の通りに新選組がいないということは、戦闘は終了したのだろうか?
青年の後を追っていくと、彼は池田屋からそこそこ離れた裏路地まで行き、そこで倒れた。彼はここで死ぬのだなと思った。
『あれ?ずいぶん無様な姿だね。お前らしくもない』
聞いたことないはずなのにどこか懐かしく思える声が聞こえた。
声が聞こえた方に目を向けたが、暗くて何がそこにいるのか見えない。
「不覚を………取った………。これで…………二回……目」
『そうだね。でもまだ大丈夫だよ』
「しばらく…………眠………る。体は…………頼……む………」
『あいよ。さっさと戻ってきてよね』
「ああ……………」
暗がりから、何かの生き物が姿を現した。それとほぼ同時に、私の魂がすごい力によって引っ張られた。
自分の体に引き戻されるまでの間、私は急に気づいた。なぜ、暗がりから聞こえたあの声が、懐かしく思えたのか。
あの声は、ほむろや七尾の声の響きと、よく似ていたのだ。
気づいた時には、私は沖田さんに覆いかぶさるようにして彼の前にいた。沖田さんは目を見開いている。
息苦しくて消えそうになっている意識をなんとかして引き止め、私は目線を落とす。
私の喉元から、銀色の刃が生えていた。剣で喉を刺し貫かれたのだと気づくのに、しばらくかかった。
背後でも、青年が固まる気配がした。私は力が抜けそうになる腕を動かし、沖田さんの剣をつかんだ。
そして妖術で狙いをつけて、後ろを見ずに投げた。一拍おいて、私の首から刃が引き抜かれた。
自分が投げた刀が青年に届いたかどうか確かめる前に、私は2本目の命を使い果たしたのだった。
前回おなじみの幽体離脱状態で、私は覚醒した。
今、私は沖田さんと青年がいる部屋に浮いていた。部屋内にほむろの姿が見えないが、部屋の外にいるのかもしれない。
私の体は、ちょうど沖田さんの真ん前に転がっていた。沖田さんは返り血こそ浴びていたが、生きている。
青年を見ると、首からおびただしい出血をしていた。どうやら私が投げた刀は、彼の首を掻き切って後ろの壁に突き刺さったようだ。
「くそっ。悪あがきしやがって」
はじめて青年の声を聞いたな、とかそんなことはどうでもいい。
青年は刀にべっとりついた血も拭わず刀を鞘に戻し、首を抑えながら窓から飛び降りた。私は後を追ってみることにした。
青年は致死量以上の血を流しているはずなのに、まだ生きていた。彼は誰もいない通りに降り、まっすぐ裏路地に姿を消していく。
裏の通りに新選組がいないということは、戦闘は終了したのだろうか?
青年の後を追っていくと、彼は池田屋からそこそこ離れた裏路地まで行き、そこで倒れた。彼はここで死ぬのだなと思った。
『あれ?ずいぶん無様な姿だね。お前らしくもない』
聞いたことないはずなのにどこか懐かしく思える声が聞こえた。
声が聞こえた方に目を向けたが、暗くて何がそこにいるのか見えない。
「不覚を………取った………。これで…………二回……目」
『そうだね。でもまだ大丈夫だよ』
「しばらく…………眠………る。体は…………頼……む………」
『あいよ。さっさと戻ってきてよね』
「ああ……………」
暗がりから、何かの生き物が姿を現した。それとほぼ同時に、私の魂がすごい力によって引っ張られた。
自分の体に引き戻されるまでの間、私は急に気づいた。なぜ、暗がりから聞こえたあの声が、懐かしく思えたのか。
あの声は、ほむろや七尾の声の響きと、よく似ていたのだ。
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