幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

なんかすごいのが来た(参)

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 アンビリーバボーな伊東さんの登場から数刻。今、空は綺麗な夕焼け色である。

 私は今日作り終えた分の薬を山??さんのところに届けに行く途中である。ほむろは今、部屋で私の代わりに七尾から報告を聞いている。

 このあとの予定は確か……伊東さんの歓迎会の準備だったかしら?これを届けたら勝手場に顔を出してみよう。

(あ)

 ちょうど正面の廊下の角から、派手な格好の伊東さんが出てきた。

 伊東さんと私は、なぜかしばらく黙って見つめ合った。え。何この乙女ゲーに良くありそうな状況。

 用があるし、先を急ごう。私は伊東さんに一礼してその横を通り抜けようとした。

「ちょっと、お待ちになってぇ」

 やんわりと肩をつかまれて振り向かされた。伊東さんの顔には笑みが貼り付けられていたが、その目は何を考えているのか全く読めない。

「あなたはなぜ、ここにいるんですの?」

 ええー、それ聞くー?いろんなベクトルで答えられないんだけど。だって口利けないし、事情は人間離れしてるし。

「隊士、というわけではないようですわねぇ。剣の心得があるようにも思えませんわ。ここは君みたいな子がいてはいけない場所だと思いますわよぉ?」

 うん、私もそう思います。

「あなたは、ここで何をしているのかしら?」

 そんなこと聞かれても困るんだって。私はただの医務係であって、それ以上でもそれ以下でもないんだが。

 伊東さんは弁舌に優れ、学識も高い。もしかしたら、この何も読めない不気味な瞳が、伊東さんの本当の素顔なのだろうか………?




「何してるんですか?伊東さん」




 今度は庭の方から別の声が聞こえた。声のした方を見ると、夕日を背に石灯篭に寄りかかっている沖田さんの姿を見つけた。

「おやぁ、沖田くんではありませんか。別にたいしたことではありませんのよ?隊士にしてはずいぶんお美しい方ですから、気になっただけですわ」
「へぇ……。伊東さんって、男色家だったんですね。知りませんでしたよ」
「まぁ………。沖田くんは冗談がお上手ですわねぇ」

 あれ?なんだろう、この二人の間に立ち込めている黒いモノは。なに、バトってるの?

「君、ごめんなさいねぇ。いきなり呼び止めてしまって」

 沖田さんと睨み合いという名の戦闘中だった伊東さんが、急に私にそう言ってきた。

 あまりに急だったので、私はついついピシッと直立してしまった。

「うふふ、可愛い子ですわねぇ~。それじゃぁ、お務め頑張ってくださいな」

 …………伊東さんに可愛いって言われると、変。すごく、変。褒め言葉が褒め言葉に聞こえないとか、伊東さんなんかすげえな。

「君、何もされてない?」

 伊東さんの姿が完全に曲がり角の向こうに消えると、沖田さんはまっすぐこちらに近寄ってきた。

 私は沖田さんに向かって頷く。

「そう?ならいいんだけど」

 沖田さんは、伊東さんが消えた先をジッと見つめている。

「雫ちゃん、伊東 甲子太郎には注意しなよ。君みたいなへにゃっとして、無防備のない子はすぐに食べられちゃうよ」
「…………」

 無防備で悪かったですね。

 思わず突っ込んでしまった。

 ご親切に忠告してくれた沖田さんに、私はしっかりとうなずき返したのだった。
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