幕末☆妖狐戦争 ~九尾の能力がはた迷惑な件について~

カホ

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元治元年

白雪の記憶(壱)

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 元治元年末。

 その日の早朝、私はいつもよりずっと早く目を覚ました。

『おはよう、雫。今日は早いな』
(うん、おはよう。なんか、目が覚めちゃった)

 ぐいーっと伸びをして、私はふと部屋の外が白いことに気づいた。

(ねえ、ほむろ。部屋の外、白くない?)
『む?当然じゃ。雪が降ってるんだから』
(雪!?)

 なんですと!京にきてから初めての雪ですよ!

 こうしちゃいられない。早く着替えて、雪景色を見ないと。

 私は急いで服を着替え、一目散に部屋を飛び出した。

(わあ………!)

 あたり一面の銀色に、私は大きな感嘆をあげた。もちろん心の中ではあるが。

 私の部屋が面している中庭はすっかり雪に覆われていた。いつも土や石畳だった場所も、今は全部が真っ白だ。

 私は東京で生まれ育ったから、あまり雪を見る機会がなかった。だから今、こんな綺麗な雪景色を見れてかなり嬉しい。

(東京って、雪が降っても積もらないのよね。すぐに解けちゃうし)
『とうきょう、ってなんじゃ?』
(江戸のことだよ)
『なるほど。確かに江戸はあまり雪が降らぬな』

 空からは、まだ真っ白な雪の華が舞い落ちている。それを見つめていると、意識だけが勝手に時を遡っていく。

(ほむろ、遊んでおいでよ)
『なんじゃ?急に』
(いいから。食事の時間はまだまだでしょ?だったらその辺散歩しておいでよ)
『…………』

 ほむろは何か言いたげにしていたが、やがて塀を乗り越えて離れて行った。

 その姿を見送り、私は再び雪の舞い散る空を見上げる。

 私が生まれた日も、東京では雪が降っていたらしい。

 両親から聞いた話だったが、母が病院に緊急搬送された時はまだ降っていなかったのに、私を産んで病室に戻ってきたら降っていたらしい。

 本当かどうかは知らないけど。

 父はその現象を大いに喜び、雪の子という意味で雪子と名付けようとしたらしい。その話を初めて母から聞いた時は、そんな安直に名前をつけられずによかった、と安堵したものだ。

 雪は、嫌いじゃない。しんしんと降り積もる雪は神秘的で、見ていると自分だけ別世界にいるように感じる。穢れとは無縁な、清らかなものになれるように錯覚する。

 私は、つくづく雪と縁がある人間らしい。初めて世界に生を授かった時に、祝福するように降っていたのは東京の初雪であり、私に大切な思い出をくれたのも雪であった。

 そして………。




 両親が亡くなったのもまた、雪の降りしきる夜だった。
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