99 / 119
元治元年
白雪の記憶(壱)
しおりを挟む
元治元年末。
その日の早朝、私はいつもよりずっと早く目を覚ました。
『おはよう、雫。今日は早いな』
(うん、おはよう。なんか、目が覚めちゃった)
ぐいーっと伸びをして、私はふと部屋の外が白いことに気づいた。
(ねえ、ほむろ。部屋の外、白くない?)
『む?当然じゃ。雪が降ってるんだから』
(雪!?)
なんですと!京にきてから初めての雪ですよ!
こうしちゃいられない。早く着替えて、雪景色を見ないと。
私は急いで服を着替え、一目散に部屋を飛び出した。
(わあ………!)
あたり一面の銀色に、私は大きな感嘆をあげた。もちろん心の中ではあるが。
私の部屋が面している中庭はすっかり雪に覆われていた。いつも土や石畳だった場所も、今は全部が真っ白だ。
私は東京で生まれ育ったから、あまり雪を見る機会がなかった。だから今、こんな綺麗な雪景色を見れてかなり嬉しい。
(東京って、雪が降っても積もらないのよね。すぐに解けちゃうし)
『とうきょう、ってなんじゃ?』
(江戸のことだよ)
『なるほど。確かに江戸はあまり雪が降らぬな』
空からは、まだ真っ白な雪の華が舞い落ちている。それを見つめていると、意識だけが勝手に時を遡っていく。
(ほむろ、遊んでおいでよ)
『なんじゃ?急に』
(いいから。食事の時間はまだまだでしょ?だったらその辺散歩しておいでよ)
『…………』
ほむろは何か言いたげにしていたが、やがて塀を乗り越えて離れて行った。
その姿を見送り、私は再び雪の舞い散る空を見上げる。
私が生まれた日も、東京では雪が降っていたらしい。
両親から聞いた話だったが、母が病院に緊急搬送された時はまだ降っていなかったのに、私を産んで病室に戻ってきたら降っていたらしい。
本当かどうかは知らないけど。
父はその現象を大いに喜び、雪の子という意味で雪子と名付けようとしたらしい。その話を初めて母から聞いた時は、そんな安直に名前をつけられずによかった、と安堵したものだ。
雪は、嫌いじゃない。しんしんと降り積もる雪は神秘的で、見ていると自分だけ別世界にいるように感じる。穢れとは無縁な、清らかなものになれるように錯覚する。
私は、つくづく雪と縁がある人間らしい。初めて世界に生を授かった時に、祝福するように降っていたのは東京の初雪であり、私に大切な思い出をくれたのも雪であった。
そして………。
両親が亡くなったのもまた、雪の降りしきる夜だった。
その日の早朝、私はいつもよりずっと早く目を覚ました。
『おはよう、雫。今日は早いな』
(うん、おはよう。なんか、目が覚めちゃった)
ぐいーっと伸びをして、私はふと部屋の外が白いことに気づいた。
(ねえ、ほむろ。部屋の外、白くない?)
『む?当然じゃ。雪が降ってるんだから』
(雪!?)
なんですと!京にきてから初めての雪ですよ!
こうしちゃいられない。早く着替えて、雪景色を見ないと。
私は急いで服を着替え、一目散に部屋を飛び出した。
(わあ………!)
あたり一面の銀色に、私は大きな感嘆をあげた。もちろん心の中ではあるが。
私の部屋が面している中庭はすっかり雪に覆われていた。いつも土や石畳だった場所も、今は全部が真っ白だ。
私は東京で生まれ育ったから、あまり雪を見る機会がなかった。だから今、こんな綺麗な雪景色を見れてかなり嬉しい。
(東京って、雪が降っても積もらないのよね。すぐに解けちゃうし)
『とうきょう、ってなんじゃ?』
(江戸のことだよ)
『なるほど。確かに江戸はあまり雪が降らぬな』
空からは、まだ真っ白な雪の華が舞い落ちている。それを見つめていると、意識だけが勝手に時を遡っていく。
(ほむろ、遊んでおいでよ)
『なんじゃ?急に』
(いいから。食事の時間はまだまだでしょ?だったらその辺散歩しておいでよ)
『…………』
ほむろは何か言いたげにしていたが、やがて塀を乗り越えて離れて行った。
その姿を見送り、私は再び雪の舞い散る空を見上げる。
私が生まれた日も、東京では雪が降っていたらしい。
両親から聞いた話だったが、母が病院に緊急搬送された時はまだ降っていなかったのに、私を産んで病室に戻ってきたら降っていたらしい。
本当かどうかは知らないけど。
父はその現象を大いに喜び、雪の子という意味で雪子と名付けようとしたらしい。その話を初めて母から聞いた時は、そんな安直に名前をつけられずによかった、と安堵したものだ。
雪は、嫌いじゃない。しんしんと降り積もる雪は神秘的で、見ていると自分だけ別世界にいるように感じる。穢れとは無縁な、清らかなものになれるように錯覚する。
私は、つくづく雪と縁がある人間らしい。初めて世界に生を授かった時に、祝福するように降っていたのは東京の初雪であり、私に大切な思い出をくれたのも雪であった。
そして………。
両親が亡くなったのもまた、雪の降りしきる夜だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる