学生だけど、魔術学院の音楽教授で最終兵器な先生を好きになってしまいました。

茜部るた

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第8楽章 好きな声音 4

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 町全体が農業で成り立っているノースロックは、そこまで土地が肥えているわけでもなく、天候でかなり収穫が左右される。
 人口も減っているし、今は辛うじて町だけど、この先どうなるのかわからないような田舎だ。
 ピアノを持てるような家は当然少ない。

「町長が凄くいい人で、町に1つの学校の初等部2年の時に、もっと勉強しなさいって言われたんです。それで自分の息子と同じ家庭教師をつけてくれて、町長の家にあったピアノも好きなだけ触れせてくれたんです」

「それは恵まれてるね」

「はい。町長がいなかったら、私はずっとあの田舎の中にいたと思います。感謝してもしきれないです。でもそうなら先生もどこでそんな音楽の才能が開花したんですか?」

「僕の村には学校すらなかった。村の集会場で大人が読み書きと簡単な計算を教えるくらい。ある時どこかの酔狂な貴族が集会場にピアノを寄付したんだ。みんな珍しがったけど、当然誰も弾けない」

 コールディアはスプーンに豆をすくいながら話を聞く。
 ノートヴォルトとの付き合いは長いが、こうして私事を話すのはお互いに初めてかもしれない。

「母が唯一ピアノの弾ける人間で、その時は勉強を教えていたのも母だった。最初は村の子供全員ピアノに群がって、最後まで残っていたのが僕だった。楽譜なんてないから、母が教えてくれた簡単な音楽知識だけで見様見真似の曲を書きなぐっていたのが始まりだ」

「教養のあるお母さんだったんですね」

「…僕はピアノに夢中になり、娯楽のない村ではいつの間にか人だかりが出来、やがて僕には父と呼べる人が現れた」

 パンをちぎりつつ話の先を待つ。
 だけどその先を彼が話すことはなかった。

「…ごちそうさま。懐かしい味だった。ちなみにブルークランプではチーズが大量に乗るんだ。牛の数が人より多いからね」

 話の先は聞いてはいけないのかもしれなかった。
 興味はあったけど、彼の子供の頃の話が少し聞けただけでよしとした。

「ノースロックは牛はそんないなかったけど、豆だけは大量でしたね。たまに物凄く不作になって、そういう時は乾燥豆を戻して使うんですけど、少し変な風味になるから苦手でした」

「あれは僕も苦手」

「あはは。まさか先生と共通点があるとは思いませんでした」

「僕は少し2階にいる。片付けたら先に風呂にでも入って。着替えは…僕のしかないけど何か適当に使って」

「お風呂…お湯をたくさん使っても怒られませんか?」

「なにそれ?」

「アパートのボイラー、大量に使うと水になるんです。管理人に怒られます」

「溢れるくらい使っても問題ない」

「やった」

 彼女はその後、勝手知ったる他人のクローゼットからラフなコットンの夜着を拝借すると、アパートの共有バスルームより広いバスタブのお湯を本当に溢れさせて堪能した。
 ノートヴォルトの話の続きは気になったが、もしかしたらあまり明るい話ではないのかもしれない。
 聞きたい気もするし、聞けない気もする。
 それでもどうしても知りたい気持ちの方が勝ってしまうくらいには、異性として意識し始めていた。
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