歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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ギリアン神官(爺)と山の上の神殿

女将の手技と前の記憶

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前世の記憶を頼りにお風呂に入っていると、急に大女が入って来た。

「お前が聖女かい?」
「はぃ…」

小さい声ながら肯定すれば、

「そうかいそうかい。なら、あたしの頑張りで聖女サマの気分もきっと上がるだろうさ。誠心誠意、磨かせてもらうね。」

そう言いながら指をバキバキ鳴らしながら近付いて来た。

私は若干ビビりながら深呼吸をして気持ちを落ち着けていると、優しく髪に触れられたの。

「あんた、まだ子どもだってのにその石鹸でずいぶん上手に洗えたもんさね。
でもまぁ、この石鹸じゃ1回で汚れは取れるけど、潤いに必要な油分まで流れちまう。それじゃあ切れるし絡まるし…ホラ、子どもの髪は細いからね、これから補修をしていくよ。」

後頭部と首との境というような場所をバスタブの縁に引っ掛けられたタオルの上に引っ掛け、頭皮マッサージから何から、前世で言うエステみたいな感じかしら。
…というのも、
「あたしの手技は気持ちいいよ。そんな隈こさえて! 寝ちまいな!!」
と言われて、あんまり記憶がない。

何度かお湯を足してもらったようで、体はポカポカ肌ツルツル髪ツヤツヤで目覚めることができたの。



終わると、旅行鞄に入れていた洗いたての下着を身に着ける。
孤児院で着ていたワンピースに着替えようとしたら、先程の女将が、
「できたらこっちを着てくれないかい? 申し訳ないけどこのフロアのお客には貴族も居るんだ。
それに、あんたがそのワンピースでこの宿を出れば、『聖女様の扱いとしてアレはない』って、ウチの格を疑われちまう。
思い出の品だろうに、すまないね。」

私はかぶりを振って、女将が持ってきたお金持ちのお嬢さんが着そうなワンピースを着せてもらったの。
髪も毛先をすいてもらったら、そこには男装が似合いそうな女の子がじっとこちらを見ていたわ。

「大人っぽい顔つきだけど、あんたまだ奉公前だろう?」
「はい。」
「それじゃ髪はおろして、紅はささないよ。」

髪は、どっちにしても肩につかない程の長さしかない。
でもいつもとは違って、ちゃんと女の子に見えた。

「すごい! ちゃんと女の子に見える!」
「そうだろそうだろ。あたしに任せな。」
「はい。よろしくお願いします!」
「ほら、できたよ。」

鏡の中には、いつもみたいに目の細い男顔じゃなくて、女の子がいた。

「ほら姿勢が悪い。もっと、上から糸で吊られてるみたいに…そうそう。ほら、見違えた。」

女将の言う通りにすれば、さっきまでよりも凛とした雰囲気のお嬢様がいた。

「ほら、そのままギリアン爺のところへ行くんだよ。」

女将は扉を開くと、私の右手を引いて…

「おぉ歌姫聖女様、美しい。後光が見えます!」
「うむ。美しく仕上げてもらって良かったのぅ。さぁ、食事にしよう。」

ダドゥもギリアン神官も褒めてくれて、とってもうれしかったわ。






食事の後には、お茶を飲みながらお茶を飲む時のマナーを教えてもらい、それから明日の予定を教えてもらったの。

明日は朝食後に聖女のお仕度をして、雪道用の馬車で神殿のある山へ向かうとのこと。
ダドゥは、私のお仕度の間に買い出しに行くとのこと。
ギリアン神官はあちこちに手紙を書かないといけないらしい。

馬車で向かっても途中までしか行けないので、以降は荷物を持って徒歩になるとのこと。

私は、そこまで聞くとすっかり眠くなってしまった。
部屋に戻ると旅行鞄から出した寝間着に着替え、すぐにベッドに入るとすぐに熟睡してしまったみたい………………






私は、夢の中でまた前世の自分になっていた。
今日は歌のステージではなく、前の私よりも地味な服装に黒い眼鏡を掛けている。
私よりもだいぶ体の大きな黒のスーツの男3人に囲まれながら、人の波の中を歩いていたわ。

「歌姫ぇ、好きぃ!!」
「サインちょうだぁーい!」

人の波はどうやらファンらしい。
ファンらはやたらに私に手を伸ばして来るけれど、私を囲む男らがやんわりと断っている。

「歌姫ぇー!!」

あ、今右の方からフルフェイスのヘルメットを被った若い男がこちらに近付いて来た。

「歌姫、こちらへ。」
「トム!」

私を囲む男らは陣形を変えて、ヘルメットの男が私に近付かないように守ってくれる。
目の前の屈強な背中の持ち主は、トム。
黒髪に褐色の膚、私と同年代の男性で、いつも私を最後に守る盾になる人だ。

「うわっ、オレはただ歌姫に手紙を…」
「確保! トム、先に歌姫をホールの控室に頼む。私は警備にこいつを引き渡してくる。」
「わかりました。」

私はトムの背中に守られながら、コンサートホールの楽屋口へ入る。
中はシンと静まり返っていて、先程までとは別世界だった。

私はホッとしてトムにお礼を言えば…
「いえ、仕事ですので。」
ずいぶん素っ気ない返しだった。

でも、先を歩くトムの耳が赤くなっているのが見えて、ちょっとかわいいなと思ったのだった。


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