歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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代わりの聖騎士との3人暮らし

隣国からの打診と誘拐

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隣村の人々と別れ、その日も日課の散歩に出たわ。
今日は出発前からいろいろあったから出発が遅れて…
だからどの畑も田んぼでも、村人たちがその日の仕事を始めてしまっていたの。
だから、今日は村人たちのリクエストに応えたのよ。それでいつもよりも帰るのが遅くなってしまったの。

山の上の神殿まで帰ってくると、今日は神殿の正面の入口にとても豪華な意匠の馬車が停まっていたの。

ラウが警戒して、私を背に庇いながら扉を開くと…
神殿の奥、祭壇の前で派手な衣装の人がギリアン爺と話していたの。
ギリアン爺は足が悪いからね、立ち話で少し辛そうに見えたの。

「おぉセアリア、ラウもおかえり。」

ギリアン爺の声で、派手な衣装の人が振り返ったの。
その人はギリアン爺よりも少し年下、でも孤児院がくっついてる神殿の神官よりは年のいった男の人だった。
でもギリアン爺と比べると、だいぶお腹は出てたわね。

「おぉおぉ、そなたが《歌姫聖女》殿か?」
「はい。」

私が返事をすれば、その派手なお爺さんは私の前に跪いたの。

「《歌姫聖女》殿。無理を承知でお願いしたい。どうか我々の国へ参ってはくださらぬか?」
「我々の、国?」
「えぇそうです。この山の向こうにある国です。いかがだろうか。」

私は視線を泳がせて、ラウに掴まりながら礼拝用のベンチに掛けてこちらを心配そうに見ていたギリアン爺に視線で問うた。

「セアリアが昨日女神様に捧げた歌は、隣国の田畑でも効果を発揮したそうじゃ。」
「えぇ、左様でございまして…」

お爺さんは揉み手で頷く。

「是非、我が国へ参られよ。さすれば、聖女様を中央の神殿で保護致しましょう。そのような服ではなく、毎日美しい絹のドレスも身に着けて頂ける。豪華な食事もお約束しよう。いかがかな?」

「あの…私は別に、そういう生活は望んでいません。
ただ、お世話になっているギリアン神官や麓の村人たちにお礼はしたいと考えているのです。
だから…」
「ならば、国境からすぐの村の神殿へ滞在してはいかがか? きっとこの村までなら女神の慈悲も届こう。
さて、そうとなったら善は急げだ。」

お爺さんが右手を上げると、そこへ似たような衣装の男らが入って来て、ベンチを倒しながら私のところへ向かってきた。

驚いてしまって足がすくむ私の元にはどこをどう通ってきたのか剣を抜いたラウが居て、少し後退しながら私とギリアン爺を背に庇って勝手口方面を目指した。

私はギリアン爺の体を支えながら祭壇の奥の勝手口を目指して歩く。
背後ではラウと後から現れた男達の剣の交わる音が響く。

──私はラウの足手まといになる訳にはいかないわ。

先に勝手口から出てしまおうと、扉に手を掛けた時だった。
扉が外から開かれ、私は扉の外へ投げ出される形となった。

「セアリア!」

戸口で、ギリアン爺を支えたラウが私の名を呼ぶ。
でもその時には既に、その向こうからやって来た聖騎士によって私は昏倒させられ、その身は別の聖騎士によって馬車に乗せられていたの。

「《歌姫聖女》が心配なら、我々と一緒に来てもらおう。」

ラウは私を人質に取られ、従うしかなかったと、のちに話してくれた。
私とラウとギリアン爺は、同じ馬車に乗せられ外から鍵を掛けられ、そのまま山の神殿を発ったということだった。


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