歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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代わりの聖騎士との3人暮らし

隣村から

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日課を終えて神殿に戻る途中のこと。
神殿側から下りてきた荷馬車が目の前で停車すると、わらわらと下りてきた男らに囲まれたの。

ラウは私と男らの間に入り、いつでも剣を抜けるように少し腰を落とす。
とても逞しい背中だったわ。

「お前が《歌姫聖女》か?」
「お前の返答次第では、一緒に来てもらわないといけなくなるぞ。」

男達は覆面代わりにスカーフで鼻から下を覆っている。
でもそのスカーフは花柄や暖色系で…これは自分たちのものではないわね。
利き手に小型のナイフ…いや、包丁?を握っている。

「だからどうしたと言うのだ。聖女様を手荒に扱えば、お前達の土地の神の怒りを買うことになるぞ!」
「そんなもの、そこの聖女が本物なら、聖女が癒やすだろう!」
「だから、おら達と一緒に来い!」

返答は、してもしなくてもどちらにしても男達と一緒に行かなければならないらしい。

「……どちらにしても聖女は行かせない。」

ラウは言うなり剣を抜く。

「ラウ!」
「俺の使命は、聖女様の護衛だ。」
「それなら…」

私は、ラウの左手を掴んでサッとしゃがむと、次の瞬間走り出したの。

相手はスカーフのせいで視野が狭いし、私はこの道に慣れてる。馬車は真後ろに進むことはできないもの。
絶対に追い付かれないと考えたの。
ちゃんと考えたのよ? でも…

「おい聖女様。遅い!抱えるぞ。」
「ぎえぇぇぇーーー!!!」

ラウは左手1本で私を小脇に抱えると、神殿に向けて飛ぶように走ったの。
そうして私とラウは、神殿の勝手口へ飛び込んでしっかりと鍵を掛け、礼拝堂側の扉へ走る。
台風対策並みの太い閂を差し込もうとしたところで、向こう側からバタンと扉が開き…
ギリアン爺が誰かを先導して入って来たの。

私は扉横の壁に貼り付くようにして呼吸を整えながら、どんどん入って来るギリアン爺とお客を見ていたわ。
お客は男の団体だったのに、皆女物のスカーフを首に巻いていたの。不思議よね。
しかも、ギリアン爺は何故かお説教モードなの。
お客方はなぜかギリアン爺に対してヘコヘコしていたわ。

ある程度真ん中の通路を進んだところで、ギリアン爺はこちらを振り返って、私と目が合ったの。

「セアリア、そんなところに居たのか。こちらは隣村の代表団じゃと。この間の嵐で大雨が降ったらしく、村の畑が全滅してしまったそうじゃ。」

ギリアン爺が言えば、その後ろで男らがウンウン頷いている。

「そちらは先程、俺と《歌姫聖女》殿を襲ってきたのだが?」

扉を挟んで向こう側に居たラウの言葉に、ギリアン爺の後ろでは皆が皆ブンブン音がしそうな勢いで頭を振っている。

「まさか!」

言ってギリアン爺が振り返れば、男らはもっと激しく、首がもげて飛んで行きそうに頭を振る。

「《歌姫聖女》が嘘を付いたとでも?」

ラウが言えば、男らはガックリと肩を落として見るからにしょんぼりとした。

そのやり取りを見ていれば、何だか怖いだけではないのかもと思ったの。
それにたぶんその嵐って、私のせいなのかもと思ったのよ。

「それなら…ちょっと歌ってみましょうか?」

私はおずおずと申し出て、でももうお腹も空いたし、ギリアン爺や男らを迂回するように礼拝用のベンチが並ぶ壁側の通路を通って祭壇の前まで行くと、その前に跪いて、女神様に祈りを捧げるように『芽吹きの歌』を歌ったの。

今回は最初から最後まで真剣に、目を閉じて、女神様に頭の中で隣村のことを語り願いながら歌ったわ。

コンサートでソロに入るところでは、なぜか背中が温かくなって、コーラスも入ったようでいつもより気持ち良く歌えたわ。
そうして最後まで歌い上げて瞼を上げ、立ち上がって振り返ると、私の背中側でラウが聖騎士の剣を捧げ持つようにして、私を守ってくれていたの。

足の悪いギリアン爺や男らも、その場で膝を付いて祈りの姿勢になっていて、とても静かで、不思議な空気だったわ。

それで、どういう訳か隣村の男らは私に何の興味もなくなったように静かに神殿を出て行ったの。






少し騒ぎになったのは、翌日だったわ。
日課の散歩に行こうと、今日はラウも一緒に出ることになったの。

勝手口の扉を開けると、昨日の男らに加え女性や子どもまでがその辺りをすっかり囲んでいたの。

「俺が先に…」

先に出たのはラウだったのだけど、私の姿が見えるなり男らや女らや子どもらは、ザザザーッと音がするように跪いたの。

「《歌姫聖女》様に、最大の感謝を!!!」

とても驚いたけれど、女神様に私達の祈りは通じたみたいで嬉しい出来事だったわ。


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