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隣国からの侵攻
侵攻
しおりを挟むそれからの日々は、とても穏やかな日々が続いていたの。
誘拐されたり、急に魔法を使われたり、心身共に疲労…っていう感じで、まったりと過ごしていたわ。
私でそうなんだもの。ギリアン爺からしたら、疲労なんてもっと感じているだろうと思って、仕事をお願いすることはなく、できるだけのんびりと過ごして貰うようにしていたの。
たとえば祭壇の、これまでは全部を任せていたのだけれど、供物を選びに麓まで降りるのも膝に負担の掛かりやすい下りだけラウの背負子で運ばれたり、供物の運搬をラウが代わったり、日の出頃の朝の祭壇作りや日の入り頃の夕方の祭壇作りかどちらかを代わったり、代われるように仕事を教えてもらったり…
でも、ラウと私でいくら代われるようになっても、逆にギリアン爺の仕事を奪ってしまうような、引退させようと願っているような、そんな風に伝わってしまったのかな。ギリアン爺は逆に疲れた表情が増えたようになってしまったのが、とても心配だった。
そのうち、山の木々はすっかり葉を落とし、もうそろそろ雪が降って来るなぁと日に日に実感するような、朝の空気に冷たさが混ざるようになった頃……
そしたらある朝、ドカンと雪が降ったの。
例年なら、雨にみぞれが混ざったとか、晴れた日にちょっと風に小さな氷が混ざってるなとか、前兆みたいなものがあるハズなのに、そんなことも全くなかった。
…とは言え、麓では子らが雪にはしゃいで走り回ったり、大人達は埋もれた畑に慌てて囲いをしたり、山の神殿でも慌てて壁や屋根に囲いを作ったり、作業をしたの。
でも、そのドカン雪はその後も数日続いてしまい、あっという間に子どもの背丈程も積もってしまったの。
大人達は一応冬支度はしていたものの、このまま降り続くのは食料が足りるかどうかと、雪を掻き分け相談したりしていたそうなの。
その日もそんな、麓の男たちが村長の家に集まり、家には女と子ども、老人達しか残って居なかったらしく、そこを狙われたようだった。
隣国から侵攻され、あっという間に村人達は村を追われた。
そうして彼らが避難してきたのは山の上の神殿。
追ってきた隣国の兵もいたけれどそれは村の男衆とラウが戦って、奇跡的に1人の犠牲者も出さなかったの。
けれど、その晩のこと…
物音がして目が覚めると、私の部屋、窓の近くに人影が1つ。
「お前が《歌姫聖女》だな。我々と一緒に来てもらおう。」
突然の男声に、枕を抱き締めてベッドから飛び降りると、廊下側の扉へと走ったわ。
その時の足音が響いたのでしょうね。扉をドンドンと叩く音とともに、私の名前を呼ぶラウの声がしたの。
用心のためにと内側からも鍵穴に鍵を差し入れて回すタイプの鍵を解錠すると、剣を抜いたラウが飛び込んできた。
でもそんなのは敵兵も予想がついたのでしょうね。大股でやって来た敵兵は、ラウが廊下へ私を逃がすため背中を向けた一瞬を狙って、背中に一太刀浴びせたの。
「う…」
その場に膝を付くラウを廊下側へ引っ張ると勢い良く扉を閉め、今度は外側から鍵穴に鍵を差し込んで施錠した。
その時には外の見張りをしていた村の衆が灯りとともに駆け付けた合図の笛がそこまで来ていたから、敵兵は逃げたみたいだった。
私は、ギリギリ気を失わずにいたラウに肩を貸して、ギリアン爺のところへ連れて行ったわ。
ギリアン爺の指示で、掛布団を広げた床の上にラウを俯せに転がすと、傷の程度を見るためにラウの背中のシャツを切り裂いたの。
見えたのは、浅いけれど広範囲の傷と、脇腹に近い場所にあった歪に丸い古い傷痕。
その瞬間、
「キャアアァァァァーーーーーーーー!!!!!」
私は叫び声を上げると、意識を飛ばしてしまったの。
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