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隣国からの侵攻
前の自分が死ぬ時の記憶 怪我やらもろもろ苦手な方は、今回お休み
しおりを挟む私は夢を見ていたの。
できたらもう見たくない、前の私の記憶だった。
私はその世界で《世界の歌姫》と呼ばれており、いいえ、《姫》だなんて烏滸がましいほど、50代に限りなく近い40代の喪女だったわね。移動の際にはいつでもSPに守られていたわ。
あの日も、プライベートジェットの最後のタラップを踏んだ私は、エアターミナルに向けてSPに囲まれて歩いていた。
「ぅおおおぉぉぉぉーーーー!!!」
突如聞こえた雄叫びに、乱れる陣形、鳴り響く銃声、それから…
SPが1人減り2人減り、そしてとうとう最後の1人となった。
私を背中に庇いながらも勇敢に悪漢に立ち向かうのは、同年代のトム。
「ぅわあああぁァァァーーー!!」
最初の雄叫びと同じ声がした次の瞬間…
ピューン…ピューン…トトットッ…
殺傷能力の割に、とても軽い音だったのを憶えてる。
最初の数発は避けていたと思う。でも何発もの銃弾を受け、トムは私の目の前で崩れ落ちたの。
「トム!!!」
脇腹に近い背中の傷は、1番最後に至近距離から撃たれたようで、いつもの黒いジャケットにも貫通して穴が開いていたの。
堪らず私は駆け寄ると、トムの手を握った。
けれど瞳は揺らぐことなく、既に光を失っている。
私の手でトムの瞼を下ろすと、レクイエムを歌い始めた。
雑談なんてあんまりしなかったトムだけれど、1度だけ聞いたことがあったのだ。
『願わくば、最期の時は心安らかに逝きたい』と。
そして、トムの願いを叶えることに必死で周囲を全く見ていなかった私は…
「愛しているよ、リィン…」
ドッ
襲撃犯は私と背中を合わせると、長い刃物を自分の腹から私の胸へと突き刺した。
カハッ
あっという間に血の赤に染まる私の膝。
襲撃犯が前のめりになり私達を繋ぐ刃物が抜けたので、私は這うようにしてトムに近付き、両手で彼の大きな手を握ってその手にキスをしたの。
──貴方の背中、頼もしかった。ありがとう。大好きよ。
それから、長く長く暗転。
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