歌姫聖女は、貴方の背中に興味があります

325号室の住人

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隣国からの侵攻

祈りの歌

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前の自分の最期の記憶を思い出したの。
目が覚めたのはギリアン爺の部屋だった。

あの傷痕は、トムの弾痕と同じ位置だった。
もしかしたら、ラウはトムだったのかもしれない。
私、またトムに助けられた。いいえ。またトムを助けられなかったのだわ。

《(私を)守るためなら自分を犠牲にする》

なぜもっと早く思い出さなかったの?
これは、私のSPだったトムが、いつも口にしていた言葉だったじゃないの。

もし、早く思い出せていたら…
私、ラウを救えたのかもしれないのに……



暫く呆けていた私だけれど、今回はまだ最期は見ていないことに気付く。

両頬をパシンと叩くと顔を洗って、着替えずにそのまま部屋を出ようと扉を開けば、目の前にギリアン爺がいた。
そのまま部屋に戻って、話すこととなった。

「セアリアよ。目が覚めたようで良かった。ラウが傷を負ったのはショックだったろうと思うての。起こさなかったのじゃが…
まさか3日も目を覚まさないとは」
「へ?」

私は素っ頓狂な声を出してしまって、慌てて口を両手でふさぐ。

ギリアン爺は少し頬を緩めてからまた真面目な表情に戻ると、

「わしが癒しの聖女を緊急要請しての、彼女の見立てでラウはは大きな処置室のある中央神殿へ、転移陣で運ばれたのじゃ。」

「ラウが…」

ラウには、もしかしたらもう会えないと思っていた。
でもそれは、《この世界で》という意味だった。
けれど、ラウはまだラウのままで生存している。
トムと同じ場所に傷痕があっても、トムはトムだし、ラウはラウだ。

「ギリアン爺、私、『祈りの歌』を歌いたいわ。」

私は女神の祭壇の前で跪き、祈りの姿勢をとると、まずは女神像に祈りを捧げた。
ラウの怪我のこと、前の私やトムに、今の麓の村の状況や村人達のこと、ギリアン爺のこと…

それから気持ちが昂ってきて、静かに歌い始めた。
祈りの姿勢のまま目を閉じて歌うと、声が神殿内の壁や天井や窓ガラスを震わせる。

それから、建物の向こうへ滲み出した歌声が外側から建物を包みこんだようになると、雪に囲まれて寒かった神殿内がふわっと暖かくなったの。

その時に内に居た私達は気付かなかったのだけど、私は無意識に女神の力と聖女の力とを混ぜ合わせて結界のようなもので神殿を覆っていたようよ。

それはのちに《女神のドーム》と呼ばれるようになるのだけど、もちろんその時の私は気付いていなかったの。


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