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旦那様と私の辞職理由
しおりを挟む「ではシュレイザー様、長きに渡り、お世話になりました。
どうぞ奥様、大旦那様、大奥様へも、宜しくお伝えくださいませ。」
私は精一杯のカーテシーをすると、シュレイザー様の前を辞しました。
本日分の仕事を終えた今日、私はこの公爵家を退職するのです。
え? いよいよバルトル様と婚姻……?
違います。
実は、実家の男爵家に嵐がやって来まして、ボロ家だったので屋根が飛んでしまったの。
そこで、急に大金が必要になったのです。
そうなると、公爵家の侍女をするだけではもちろん足りません。
金持ちな変態ジジィの後添いを大旦那様(シュレイザー様のお父上)にご紹介頂こうと思ったのですが、生憎とそういったお知り合いはいらっしゃらないのですって。
だから私、先日、高位貴族専門の娼館へ面接に行きまして、実家の屋根の修理代と同等の金額を前借り致しました。
だから私はこれから、娼館で働くのです。
幸いにも私はまだ生娘ですし、まだ成人から2年しか経ってません。
《嫁き遅れ》と言うにはまだ早いですから、純潔を散らしたところでどなたかの愛人にでも身請けして頂けないかと思案中です。
そういった男女の行為は怖いけれど、実家の両親や弟妹が安心して暮らせる家のためです。
頑張りますよ!
さて。
公爵家は、お屋敷から門までのアプローチはかなりの距離があります。
馬車で移動するのはもちろんのこと、お屋敷が丘の上にあるせいか、間に挟む庭園や並木で、お屋敷から門は見えないです。
普段は、使用人専用の裏口しか使うことができませんが、最後となる今日だけは表の門を使うよう、シュレイザー様から仰せつかりました。
私は公爵邸が確認できるギリギリの場所で振り返りました。
外壁も屋根も真っ白で、近付くと細かな彫刻が施されている美しい建物を目に焼き付けると、再び進行方向へ顔を向け、歩き出そうとした時でした。
「エリサ嬢!!」
目の前に、息を切らして走って来たと思われる豪奢な服装の男性が現れました。
聞き覚えのある声に、一瞬胸が撥ねました。
いや、ビックリしただけです。
膝に両手をあててハァハァと呼吸を整えられると、以前よりは丁寧に整えられた、金に近い茶髪の尻尾が跳ねます。
そして、息が整ったのでしょうか。
男性が顔を上げました。
案の定とでも言うのか、それはバルトル様でした。
最後にお会いしたのは、約2年前。私の成人した、あの誕生日です。
バルトル様は青年からまた少し大人になられ……………………とても素敵な紳士になられていました。
これからパーティにでも行くような、輝く白地に錦糸の刺繍が施された豪奢な服装が似合っていましたが、詰め襟の上着の襟元を少しだけ緩められて、そこへ汗が滴って、何だか少しだけ色気を感じました。
たぶん私、見惚れて朱に染まっていたと思います。
でも、心の中で夕日のせいにして、バルトル様の次の言葉を待ちました。
「エリサ嬢。君の身は、私のものとなった。」
私としては、恋愛モノのお話のように、ピンチを救って愛の告白をしてくれる方が良かったのですが…
私はちょっぴり残念な気持ちになりました。
──どうして残念な気持ちに?
私が首を傾げていると……
「君の実家の修繕については、今朝、業者を手配した。もう午後には作業を始めているので安心してくれ。
それから、君が給金を前借りした娼館だが、金は少し上乗せして返金扱いとなった。
もう、君とあの娼館とに関わりはないので安心してくれ。
そして……」
そこまで言われれば嫌でもわかります。
私はバルトル様に対して、実家の修繕費と娼館への支払い分の借金を背負ったのだということです。
つまり、私は借金のカタに、バルトル様に売られたのです。
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