旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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旦那様と私の嫁入り

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「だから…」

旦那様は言うと、上着のポケットから指輪の箱を出されました。

見覚えアリアリの箱を開けると、そこには見覚えアリアリの親指の先ほどの青い宝石のついた指輪が鎮座しています。

そして、旦那様は跪きつつ片膝を立てました。

「エリサ嬢。私と婚姻しよう!」

「…………………………」

私は、すぐに返事することができませんでした。

そりゃ、娼館に行くつもりだったのですもの。
もちろん正式な婚姻は諦めておりました!

それが、旦那様に借金のカタに売られたと同じ意味とはいえ、どうやら婚姻できそうなのです。

その点で言えば、嬉しいです。

けれど……

「わたくしの身元引受人になってくださるということですか。
ありがとうございます、旦那様。」

「《旦那様》ではなく…………と。」
「はい? 旦那様?」

旦那様は少しだけガッカリしたような顔をして…
けれど私の手を取り、右手の薬指に指輪を嵌めた。

「これでエリサは私のものだ。身も、できたら心も……」

お話しの後半がいつも聞き取りにくいバルトル様は、立ち上がると少しニヤリとされ、そのまま私の右手をとって歩き出す。

──借金を踏み倒されるのが余程悔しいのね。そんなに手を引かれなくても逃げないのに。

そうして私は門前に控える侯爵家の馬車に押し込められ、侯爵家ではなく王城へ連れて行かれた。

貴族の場合にあまり例はないそうだけれど、その場で書類にサインし合い、私とバルトル様は、書類上、婚姻を済ませた。

「今すぐには無理だ…でも1年待ってくれ。
わた…いや、俺とエリサの立派な婚姻お披露目会を開こう。
エリサも言葉を崩してくれるとありがたい。」

確かに婚姻している証として、内側に婚姻証明の彫られた指輪が窓口で支給され、受け取ると、

「互いの左手薬指に嵌めてください。」

窓口の文官の指示で指輪を嵌め合う。

旦那様が私の右手を取ろうとして、
「そちらは右ですよ。左手にしてください。」
と、文官から注意されて赤くなっているのが、少しかわいらしい。

「旦那様、これからお世話になります。頑張って、借金返しますね。」
私が言うと、窓口の文官から生温かい視線を受けた。

「エリサ、愛してる。」
チュッ

旦那様は、契約婚ではないと証明するかのように文官の前で私に口付ける。

──人前なのに信じられない!

背の高い旦那様を睨み付けると、

「その上目遣い………
誘っている…誘っているよな?」

何やらまたもボソッと呟かれる。

「何かおっしゃいまして?」

首を傾げれば、今度は横抱きにされる。
暴れようが暴れまいが、旦那様には関係ないようだった。

そのまま、生温かい視線らに見送られて横抱きのまま馬車に乗り込んだ。

大人が横になっても全然不快にはならないサイズの馬車になんて初めて乗ったわ。

それにしても…

「あの…わたくし一人で座れます。」
「………………」
「あの、旦那様?」
「バルトルと。」
「バルトル様?」
「バ・ル・ト・ル!」
「バ…バルトル。」
「んんっ…なんだい? エリサ…」

──何なの? すごくキラキラしい。

「そんな顔で見つめないでくれ。俺の理性が吹き飛ぶ。」
「はい?」



結局、馬車が侯爵家に着くまでそのよくわからない問答は続いた。

そして横抱きのまま、私は侯爵家のエントランスから中へ入り…
(普段の用事は裏口から済ませます)

何故かそのまま階段を駆け上がり、一番奥の部屋の扉を開け、その中の扉を二枚ほど抜けると、私はふわりと横たえられた。

そして上からバルトル様が覆い被さった。

天蓋の薄いレースのカーテンの向こうに、サイドテーブルの上のランプの温かなオレンジだけが揺らめく中、バルトル様にキスを落とされた。

触れるだけで唇が離れると、バルトル様は私を見下ろして言った。

「エリサ…愛している。今日は初夜だよ。」

その時のバルトル様の笑顔は、本当に美しかった。


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