旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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離・婚前旅行 7日目の午後は伯爵邸で

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リリサとレレキは、私の従者として宿で借りた馬車に一緒に乗っていました。
けれど伯爵邸に到着して馬車を降りると、レレキは宿でお留守番とのこと。
帰りはバルトル様の乗ってきた馬車が伯爵邸で待機中とのことで、そちらに一緒に乗って帰ることになっているそうです。

従者であるリリサにエスコートしてもらい、私は待ち構えるキャセリーヌ様の元まで向かいました。

「本日はお招きくださり、ありがとうございます。」

《お茶会の場合は、あまり堅苦しくないご挨拶をした方が和やかに始まることができます。
けれど、きちんとご招待を受けたお礼は述べなければなりませんよ。》

私はきちんと教えに従ったはずでした。
しかし伯爵夫人の表情は硬く、ただ一言《ようこそ。》と言っただけで私に背中を向けてずんずんと邸内へ行ってしまいました。

《「ようこそいらっしゃいました。どうぞお入りください。」と言われてから邸の中へ入りましょう。入ることを許可されていない邸内へ入るのは、マナー違反ですよ。》

私は今、許可をされたのでしょうか。

「んー…」
「奥様?」
「今、私は《邸内へ入ることを許可された》のかしら。王妃様のお茶会では、《許可なく邸内へ入るのはマナー違反》と、キャセリーヌ様に習っているのよ。」
「はぁ。でしたら、こちらでお待ちになれば宜しいかと。」
「そうよね。待つことにするわ。」

私とリリサは、そのまま伯爵邸の扉の前で待機することに致しました。

まぁ私は元々公爵家の使用人でございましたから、こうして微動だにしない立ちん坊は得意です。
どうやらリリサもその様子。
私達はそのまま暫く、夫人から許可が出るまではと立ち続けました。

すると、夫人が邸内に入ってしまってからどのくらいが経ったでしょうか。背後から馬の嘶きが聞こえ、そのまま馬車の車輪が小石を撥ねる音が聞こえてきました。

「どぅ…。」

馭者が馬車を私達の背後に停める声がすると、2人分の男性の声が近付いて来ました。
それから、足音と共に背後から何かが覆い被さって来ました。

「エリサ。今日のデイドレス姿もイイね。」

耳元で囁くのは、聞き覚えのありすぎる熱を孕んだバルトル様の声。

──腰に当たるこの硬いものは、紳士として大丈夫なのでしょうか。

「でも、どうしてここにいるの? お茶会は?」
「実は、キャセリーヌ様の教えに《許可なく邸内に入るのはマナー違反》というのがありまして…
私、まだ夫人から《ようこそ。》としか言われていないのです。
それで、こちらに、待機しておりました。」

バルトルはリリサへ視線を送り、リリサが頷くと、そこで初めて後ろを振り返りました。

「伯爵、こちらは私の妻のエリサです。」
「エリサでございます。宜しくお願い致します。」

私はこの伯爵家当主の顔は見ないまま、カーテシーを致しました。
そしてもちろん、《許可なく顔はあげません。》

するとバルトル様が不意に私の腰を抱きました。
驚きに顔を上げると、バルトル様は
「どうしたの? 体調が悪い?」
と。

「バルトル様、妨害はおやめください。私はキャセリーヌ様から、《貴女は《夫》こそ侯爵家の方ですが未だ当主の御子息の夫人でしかありません。つまり、貴女はまだ《侯爵夫人》ではありません。婚家ではなく実家の男爵家の方が適用されるのです。》と教育を受けております。
ですから私の身分は現在リリサの少し上かと。伯爵の許可なく顔を上げるのはマナー違反では?」

バルトルの顔を見れば、何だかとても怒っていらっしゃいます。

「そんな!」

慌てた様子の伯爵は、片手に大きな石のついた指輪を2つずつ嵌め、夜会衣裳のように服にもたくさんの宝石を散りばめた、ギラギラとしてよく肉の付いた男性でした。

その大きな体躯が素早くバルトル様のところまで移動し、足元に縋るようにして大きな声で懇願しています。

「私の妻がなんということを! 決して、神に誓って私はこんな、貴方様を貶めるようなこんなことを考えてなどおりません!!」

その時です。

「バルトル様だわ!」
「バルトル様ぁ、お待ち申し上げておりました!」
「さぁ、邸へお入りになってくださいまし!」

姦しいお嬢様たちが私を押し退けるようにバルトル様との間に入り込むと、バルトル様の腕に腕を絡ませ、甘え声で迫っていました。

私はその異様な光景を、リリサの腕の中で見学していました。

押し退けられ突き飛ばされ、地面にキスしてしまいそうなところを抱き止められたのです。
リリサの運動能力は、素晴らしいですね。


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