旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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離・婚前旅行 9日目 昼食の食堂にて

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「さぁ、これで干し終わりだ!」
「昼を食べに行くよ。アンタもおいで! ここの使用人食堂は、他家に比べても美味しいって評判なんだよ。」
「はい。ご相伴に預かりたいと思います。」

洗濯婦達は丁寧に洗濯したドレスの袖の部分を竿に通して干すと、ぞろぞろと歩いて邸の方へ向かった。

「どっちにしろ、ドレスが乾くまでは動けないからね。」
「アタシ達、クビになる前に逃げるって言っても、宿も足もないからね。逃げるのは明日の明け方って決めてるの。」
「3食しっかり食べてからの方が、明日もたくさん歩けるってモンよ!」

使用人用の食堂は広く、座席がどこまでも続いていたけれど、半分程度が埋まっています。

「こっちだよ!」

世話好きの洗濯婦の1人が、トレーの在り処から食堂のシステムまで面倒見てくれて、私も小さな器の野菜スープを取って、席につきました。

私の目の前には洗濯婦が3人座っていて、皆さん私のことを心配そうに見てくださっている視線を感じました。

「アンタ、それだけかい?」
「はい。食欲がなくて。」

野菜スープを木匙で少しずつ掬って口に運ぶ。
けれど、具の野菜しか口にすることができませんでした。

「あら、アンタ……そうだ。この水を飲んでごらんよ。」

私は透明なグラスに入った無色で無味無臭の水を飲もうとしましたが、なぜか飲む気になれず、そのままグラスをテーブルに下ろしました。

「ふふふ…ねぇ。」
「そうだね。」
「やっぱり。」

洗濯婦の女性方は何やらコソコソとし始めました。
私は首を傾げます。

「でも……」
「だろうね。……」
「うん。……」

私の方をチラチラと見ながら何かを話し続けています。
そのうち誰かが立ち上がり、厨房の奥へ消えました。

戻ってきた女性は2つの器を持っていて、こちらに差し出されました。

カタリッ

1つ受け取った方には、

「こちらはお茶ですか?」
「あぁ。口の中が少しサッパリするお茶さ。アタシもこれでやり過ごしてたからね。」
「え?」

すると、他の女性たちもウンウンと頷きながら、飲んでみろと手を振りました。

そっと器に顔を近付けます。
先程の水とは違って、何もイヤな感じはしませんでした。

コクリと1口飲んでみて…

「あっ……飲めました。」

私はそのままゴクゴクと飲み干しました。
両手で包むように持っていたのもあって、冷えていた体が内側から温められたのがわかります。

自然と頬が緩みました。

「ほら、果物なら食べられるだろ?」
「体を冷やすから、ちょっとだけな。」

女性の1人が、もう片方の器をこちらに押しました。
中には歩き出した子どもの手くらいの大きさの、真っ赤な果実が入っていました。

「これは、この邸の庭の木から朝もいだばかりのやつだよ。お貴族様はこの木の花にしか興味がないみたいでね。食べてみな。」
「はい。」

これまで見たこともなかったのですが、赤が食欲を刺激して食べてみることにしたのです。

ジュル…

小さく齧り付いただけで口の端から溢れた汁が流れ出すほどに果汁が多く、私はコクコクと飲みながら食べなければなりませんでした。
けれどお陰で、体の渇きがすっかりと充たされたようで、ホッとしました。

「いいかい? 体を冷やすようなことは、絶対にしちゃいけないよ。」
「はい。」
「立ちん坊もダメだ。」
「はい。」
「できたら外へは出ないように。」
「はい。」
「それから、水分は大事だよ。水が飲めないなら、そうやって他のもので摂らないと。」
「はい。」
「でもペルペルラの実は、1日1個だ。摂り過ぎると食べられるようになってから困るのはアンタだ。」
「はい。」

そうして、私は昼食の休憩を終えた。


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