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離・婚前旅行 9日目に目覚めたのは
しおりを挟む「さぁ、いつまで眠っているの? 起きなさい!」
「は、はい!」
旅の9日目、私は狭くて日当たりの悪い部屋にベッドが1つというところで目を覚ましました。
鎧戸を開けると、未だ夜明け前という時間帯。
バタンッ!
扉が勝手に開いたと思ったら妙齢の女性がズカズカと入ってきて、壁だと思っていたところをギィっと開けると、中に掛かっていたメイド服を私に投げて寄越しました。
「さっさと着替えなさいよ! 初日から仕事に遅刻するつもりなの?」
「あ、いいえ! すぐに支度します!!」
私はその場でその時に着ていた寝間着を脱ぎ捨て、すぐにメイド服に着替えました。
髪はぐるぐると捻るように巻き、布で包んできゅっと結ぶ。
メイド服の入っていた扉の中から前掛けを取ると、シュッと音がする程、しっかりと解けないように紐を結びました。
廊下に出ると先程の女性が待ち構えていて、私はその女性の後に続いて廊下を歩きます。
「あんたの持ち場はココよ!」
言われるなり渡されたのは、たくさんの洗濯物の山と1つの石鹸。
同じ部屋の、他の女性たちを真似てカゴに洗濯物を詰めると背負い、来たのとは別の扉から向こう側へ出ました。
日はまだ昇ったばかりで眩しい中を前を歩く女性と共に進めば、洗濯場に辿り着きました。
私よりも前に到着し既に洗い始めている女性たちの邪魔にならない場所を陣取ると、雪のように冷たい水に洗濯物を漬けて、洗い始めました。
公爵家に奉公に出てすぐの頃を思い出しました。
「でさぁ、奥様は目論見が外れて、旦那様に離縁されたらしいよ。」
「やっぱり、大それたことやって本当に大丈夫かって思ってたんだよね。」
「ねー。案の定だわよね。」
「で、この洗濯物の山は、全部奥様とお嬢様たちが置いて行ったものなんだって。旦那様がぜーんぶ売りに出すらしいよ。」
「へぇー。それじゃ、少しでもイイ値がつくように、優しく洗わなきゃね。」
「いんや。激しく洗ってビリビリになった体で、もらって帰っちゃおって、さっきから相談してんのよ! だって、この屋敷に女っ気がなくなるなら、あたしたち洗濯婦だってこんな人数いらないだろ!」
「言えてる! クビになる前に盗んで消えた方が金になるだろうね。」
「「「アハハハハ……」」」
先輩の洗濯婦たちのお喋りには、邸の情報が盛り沢山です。
ここはどこかの貴族のお屋敷で、どうやら最近当主夫妻が離縁されたようですね。
ご子息様の話はなくご息女様方の話はありましたので、当主夫妻の間に子どもは女子だけだったようですね。
「まぁったく! アタシは最初からわかってたさ! 隣の領地のボンボン…えっと、バル、バル…」
「バルトルだろう?」
「そうそうそれそれ! 初恋拗らせて、初恋相手以外と婚姻するくらいなら一生独身で良いとか、弟が侯爵家を継げばいいとか、前に噂になってたじゃないか!」
「あったね、そんな話も!」
「だもの! ウチのお姫ぃさんたちが相手にされる訳がないってのよ!!」
「「「ガハハハハ…」」」
え? バルトル様? ということは、もしかしてここは昨日の伯爵邸なのでしょうか。
邸の裏側とは言え、全然気付きませんでした。
「だからさ、アンタ! 旦那様と奥様がアンタを逆恨みしてここに連れて来られたみたいだけどさ、気にすんじゃないよ!」
「そうそう。だからこんなこともしなくてヨシ!」
「それに、あんたにゃ取り分なんていらないだろ?」
急に私を振り返った先輩洗濯女さんたちは私の背負ってきたカゴを取り上げて言いました。
「皆さん、私のことを?」
「あぁ、昨日、洗濯物を片付けながらちゃんと見学させてもらってたわよ!」
「アイロン部屋は表に向いてんの! あの部屋暑いから、いつでも窓開けっ放しなんよ。」
「だから、一言一句逃さず聞いたよ! 面白かったぁ! アハハ…」
「そうだったのですかぁ…」
私は何だか、心が温かくなりました。
「ならば、皆様への感謝として、洗濯お手伝いしますわ!」
私は洗濯の手を止めないまま、今後どうするべきか考えることにしたのでした。
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