旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

文字の大きさ
35 / 55

離・婚前旅行 9日目の馬車の中 エリサ視点、バルトル視点が交互になります

しおりを挟む

「ちょっと! 道が違うわ!!」

厳しい女声と共に、頭が馬車の床に落ちて目が覚めました。

「良いんだよ!」
「いいえ。イザベラ先生が指定したのは《治療院》だったはずよ。何故通り過ぎてるの?」

──リリサが馭者と争っている?

「このままこの女を王妃様に届ければ、たんまり謝礼金が手に入るんだよ。」
「は?」
「オレは王都の騎士だ。女! 平民侍女の分際でオレに指図するな!」
「何ですって?」



リリサは、自分の読みの甘さに辟易とした。
──ヤバイヤバイヤバイ…また奥様を危険な目に遭わせてしまうわ!!

リリサは慌てて、治療院に向けて小さな鏡で合図をした。








「バルトル様! 大変です。馬車が道を逸れて行きます。」

治療院内、俺たちの存在に全く気付かないベスとガルを眺めながら心を病みそうになっていた俺は、窓辺に立っていたレレキから衝撃の報告を耳打ちされて窓辺に向かう。

すると、1台の幌馬車が猛スピードで市街のメインストリートを爆走して侯爵領とは逆の方向へ進んでいた。

「馬はあるな? 追うぞ!!」

俺は足早に治療院を後にすると、道案内を兼ねるレレキの後を追った。

レレキは飛ぶように馬を駆ける。
俺もレレキを見失うまいと手綱を捌く。






「その言葉に二言はありませんね? 騎士ですもの。」
「おう! 己の剣に誓ってやるぜ。この馬車は治療院には行かねぇ。行くのは王都で、王妃様の元だ。」
「ならば、仕方がありません。」

リリサは荷台に立ち上がると、荷台の後ろへ向かいました。
戻って来た時には、大きな棍棒を軽々と持ち上げておりました。

「奥様。良いですから、毛布に包まって身を低くなさっていてください。」

この馬車は急拵えのようで、元々の二人乗りの馬車の後ろに幌付きの荷台がロープで繋がれていました。

リリサは馭者台と荷台とを繋ぐぐるぐる巻きのロープのところへポケットから取り出した折りたたみ式の小刀を突き立てると、その柄に向かって振り上げた棍棒を振り下ろしました。

「んあっ! 何をしやがる、女!」
「………………」

コーンッ コーンッ コーンッ…

リリサは男への返答さえせず、何度も棍棒を振りかぶっては小刀に打ち下ろします。

私は頭からスッポリと被った毛布の隙間から、こっそりとリリサと男を見ることしかできませんでした。






コーンッ コーンッ コーンッ…

馬車は町を抜け、周囲に人の気配が疎らになっていた。

馬車の真後ろまで追い付いた俺とレレキは、幌の一番うしろから荷台を覗いた。

リリサが棍棒を振り下ろし、荷台部分と本来の馬車の形である馭者台部分とを切り離そうとしているのがわかった。

荷台には他に、大小の木箱と大きな毛布の塊が載っている。
エリサはどこだ? この馬車ではないのか?

レレキは馬から器用に荷台へと音もなく降り立った。
木箱に身を隠しながら、俺を呼ぶように指で合図してくる。

多少足が震える俺も、腹に力を入れると馬から馬車へと跳び移った。

揺れる荷台をたたらを踏みながらもレレキの居た木箱の後ろへ身を潜めた。
ちなみにレレキは既にもう1つ前の木箱の後ろへと移動している。

リリサはレレキや俺の動向に気付き、棍棒を打ち下ろす瞬間にレレキにサインを送った。

レレキは応えると俺の方へ一度後退した。

「バルトル様。どうやらあの毛布の塊が奥様のようです。私が合図をしたら、迷わず毛布を抱き締めてください。」
「わかった。」

レレキは再び1つ前の木箱の裏へ戻った、その時だった。






トドメとばかりにリリサが棍棒を打ち付けようとした時です。
馭者の男が手綱を片手だけに持ち替えたのが見えました。
そのまま腰に挿していた短剣をサッと抜くと、リリサに向かって投げ付けようと振りかぶったのです。

「危ない!!」

私は咄嗟に立ち上がり、叫びました。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

優しい雨が降る夜は

葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン 無自覚にモテる地味子に 余裕もなく翻弄されるイケメン 二人の恋は一筋縄ではいかなくて…… 雨降る夜に心に届いた 優しい恋の物語 ⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡ 風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格 雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン

大人になったオフェーリア。

ぽんぽこ狸
恋愛
 婚約者のジラルドのそばには王女であるベアトリーチェがおり、彼女は慈愛に満ちた表情で下腹部を撫でている。  生まれてくる子供の為にも婚約解消をとオフェーリアは言われるが、納得がいかない。  けれどもそれどころではないだろう、こうなってしまった以上は、婚約解消はやむなしだ。  それ以上に重要なことは、ジラルドの実家であるレピード公爵家とオフェーリアの実家はたくさんの共同事業を行っていて、今それがおじゃんになれば、オフェーリアには補えないほどの損失を生むことになる。  その点についてすぐに確認すると、そういう所がジラルドに見離される原因になったのだとベアトリーチェは怒鳴りだしてオフェーリアに掴みかかってきた。 その尋常では無い様子に泣き寝入りすることになったオフェーリアだったが、父と母が設定したお見合いで彼女の騎士をしていたヴァレントと出会い、とある復讐の方法を思いついたのだった。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

白い結婚なので無効にします。持参金は全額回収いたします

鷹 綾
恋愛
「白い結婚」であることを理由に、夫から離縁を突きつけられた公爵夫人エリシア。 だが彼女は泣かなかった。 なぜなら――その結婚は、最初から“成立していなかった”から。 教会法に基づき婚姻無効を申請。持参金を全額回収し、彼女が選んだ新たな居場所は修道院だった。 それは逃避ではない。 男の支配から離れ、国家の外側に立つという戦略的選択。 やがて彼女は修道院長として、教育制度の整備、女性領主の育成、商業と医療の再編に関わり、王と王妃を外から支える存在となる。 王冠を欲さず、しかし王冠に影響を与える――白の領域。 一方、かつての夫は地位を失い、制度の中で静かに贖罪の道を歩む。 これは、愛を巡る物語ではない。 「選ばなかった未来」を守り続けた一人の女性の物語。 白は弱さではない。 白は、均衡を保つ力。 白い結婚から始まる、静かなリーガル・リベンジと国家再編の物語。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

戸を開いたその先に。~捨てられ縫い姫は、貧乏進士(実は皇帝)に溺愛される~

若松だんご
恋愛
――すまない! 少し休ませてもらえないか! 今日は、門の前で訪れる男性を待つ日。「婿取りの儀式」 門を開け、招き入れた男性を夫とする。 そんなしきたりに従って、家の裏門で訪れる予定もない相手を待っていたのだけれど。 ――すまない。連れの具合が良くないんだ。 やや強引に、ぐったりした連れの少年を抱えて入ってきた青年。 十のときに母が亡くなり、父が連れてきた義母と異母姉。 実の娘なのに、屋敷の隅に追いやられ、もっぱら縫い物ばかりさせられていた。 その上、幼い頃からの許嫁だった人からも婚約破棄され、彼は異母姉の夫となった。 「こんな男を夫にするのか!」 彼らに出会ったことで、父親から勘当されたリファ。 そんな彼女を助けてくれたのは、今日が婿取りの儀式だと知らず飛び込んできた青年。 ――身の振り方が決まるまで。 妻にする気はない。自由にして構わない。 セイランと名乗った青年は、頼る先のないリファに、とりあえずの暮らすところを提供してくれた。 地方から省試を受けるため上京してきたというセイラン。彼の従者で、弟みたいな少年、ハクエイ。 彼らと暮らしながら、少しずつ自立のために縫い物仕事を引き受けたり、彼らのために家事に勤しんだり。 家族に捨てられ、婚約者からも見捨てられ。 悲しみに、絶望しかけていたリファは、彼らと暮らすことで、少しずつその心を癒やしていくけれど。 ――自立。 いつかは、彼らと別れて一人で暮らしていかなくては。いつまでも厚情に甘えてばかりいられない。 そう思うのに。 ずっとここで暮らしていたい。ハクエイと、……セイランさんといっしょに。 ――彼女の境遇に同情しただけ。助けたのは、ちょっとした義侠心。 自分の運命に、誰かを巻き込みたくない。誰かを愛するなんてことはしない。 そう思うのに。 ずっとここで暮らしていたい。ただの進士として、……彼女といっしょに。 リファとセイラン。 互いに知らず惹かれ合う。相手を知れば知るほど、その想いは深まって――。 門を開けたことで、門をくぐったことで始まる、二人の恋の物語。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

処理中です...