旦那様と私の、離・婚前旅行

325号室の住人

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離・婚前旅行 9日目の再会? エリサ視点→バルトル視点

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立ち上がった私には、後ろから突撃されるように何かが覆い被さり、荷台の床に倒れ込みました。

けれど打ち付けられる衝撃や痛みはなく、代わりにとても安心する匂いに包まれました。

視界の端では、先日侯爵家現当主への私の手紙を受け取ってくれた《影》の男性のシルエットが、目にも止まらぬ速さでリリサの腕をこちらへ引っ張ってリリサと場所を代わると、男の手を蹴り上げたのが見えました。

──彼が現れたのなら、もう大丈夫。

なぜか安心して、私はそのまま気を飛ばしました。






毛布の塊が急に縦に伸びるものだから、俺はレレキの合図を待たずにその毛布の塊を抱き締めて荷台の床に倒れ込んだ。

エリサが怪我をしないように、倒れ込む時には俺が下敷きになる。

先日の、傾く馬車から地面へ跳び下りた時に比べたら、少し息が詰まる程度の衝撃。
倒れる瞬間には頭を持ち上げて受け身を取ったので、今回は怪我らしい怪我はないと思う。

俺の腕の中には、毛布越しに感じる人間の重み。
毛布に鼻を埋めるが、嗅げるのは鼻が曲がりそうな獣の臭いのみ。

そのうち、

「ウゲッ!」

馭者台に居た男のものであろう短い叫び声ののち荷台の前が落ち込むように傾く。

俺は体勢を立て直し、荷台に腰を下ろし膝の上に毛布の塊を載せて、上体全てでエリサを庇った。

そのうち荷台が動力源を失くしてゆっくりと静止すると、エリサの状態を確かめるべく荷台の床に毛布の塊を横たえ、1枚1枚ゆっくりと毛布を捲っていく。

すると、中からくったりと気を失ったエリサが出てきた。

ひっつめの髪を解き、襟元も緩めてやる。

──エリサ…こんな粗雑なメイド服でさえ似合っている。

俺は、エリサの右手を両手で包んでキスをした。

「エリサ、目覚めてくれ。君の声が聞きたい。」

俺はエリサの右手を自分の額にあてて祈った。






それから、侯爵家から本物の馬車が来た。

こちらには、あの治療院に本来在籍している医師と治療師、薬師と食事人が乗っていた。
彼らは俺たちとは入れ違いに急患を、現在の治療院の中では比較的設備の整った辺境伯領の治療院へ、侯爵領を通り抜けて送って行った帰りだったそうだ。

こちらの治療院でベスは留守番をしており、侯爵領の治療院ではどうしても辺境伯領へ行きたくないガルが留守番する理由を探していたため、《じぃ》に連れられて伯爵領へ来てしまったのだそうな。

ちなみに、治療師、医師、薬師は、領主の許可なく領を出入りしてはいけない。
彼らは領主が雇い主の専門職であり、彼らの希少な知識は領の財産扱いとなるのだ。

そのため契約違反を犯しており、ガルは既に解雇されていた。
領の治療院では寮暮らし。
荷物は規約に則り既に処分されているそうな。
ベスをどこへ連れ帰るつもりだったのやら……

こちらの治療院所属の彼らは、侯爵領の領主による解雇通知を預かるために急遽、辺境伯領からの帰りに侯爵領主邸に滞在することになってしまった。

それで《じぃ》によるエリサ連れ去りが起きてしまったとのこと。



侯爵領主親父殿に苦情を言ってやる!」

俺がそう息巻いた時だ。

侯爵領の方から、白に金の縁取りが基調の、エレガントな馬車が俺の前に停まった。

肩より少し長い髪を、紫色のリボンで結った馭者が優雅に降りて扉を開ける。
いや、俺としては誰が出て来るか、とっくに知ってたけどな。

扉が開き、実用的な茶色の編み上げブーツがステップにかかる。

──やっぱりな!

実家の母だった。


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