盛れない男爵令嬢は前世からの願いを叶えたい (終)

325号室の住人

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私はキャス。前世の記憶を持った男爵令嬢よ。

前世ではもちろん異世界転生モノのアニメやラノベが大好きだった。
特に、召喚されたり剣に選ばれた勇者と、彼に献身的に補助魔法を掛ける女子魔導師との恋愛要素アリのファンタジーが大好物だった。

でも、生まれた時から現在まで全くどのファンタジー小説やゲームにも被ってない。それどころかこの世界は異世界転生女子をヒロインにしたラノベの世界だと途中で気付いて、しかも私、ヒロインじゃない!

とは言え、女子魔導師になる夢は捨てきれず、ヒロインにはならない方向で、魔法や剣の鍛錬はしてきたの。

幸いにもココは国の中心部から見たらド田舎だし、《魔物》が出たり、魔物によって元々の性質を書き換えられてしまった獣である《魔獣》が多く生息する森も近い。
父は男爵の位は持ってるけど、どちらかと言えばそちらは副業?ってぐらいで、本業は元冒険者のギルドマスターだと公言している。
そんな環境だったから、冒険者達の小遣い稼ぎとして私の先生を引き受けてくれる人は多かった。
冒険者としてやって行くのに必要なモロモロはしっかり身に付けることができてると、多少親バカ感のある父からも言われていて…
来月成人して本登録するのが待ち遠しいなぁって思っていたの。

でもね、ある日冒険者ギルドで武器のクリーニングのアルバイトをしていた時のこと。

私は重大なことを思い出してしまったの。

前世で勇者の隣に立つのは、たいてい童顔に爆乳な女子。
それに引き換え私は………………童顔だけどお胸が全く育っていなかった。
母がスタイル良い(見た目悪女系の)美魔女だから、きっとその時期になったら育ってくるんだろうって、その部分は何の心配もしていなかったの。

試しに、お胸の辺りにリンゴを当ててみる。

でも、この田舎町にランジェリーショップなんてないし、前世みたいなカップ付きのタンクトップなんてモノもなく、ブラの代わりに布を巻く程度で…どうしたって前世みたいな《寄せて上げる》も《上げ底》も、できなかったの。

……ってことは、私みたいにただの村娘と化した田舎の男爵令嬢の未来って…?







その日の夕食の時、私は母に自然さを装って尋ねてみた。

ちなみに父は、夜はいつもギルドで過ごしているので留守だ。
だいたい、父はそういうことに疎い脳筋だから、逆に父の前では話さない。変に暴走しそうで…

「ねぇ、母さん。私の結婚相手なのだけど…」

すると母は私の顔をまじまじと見て言った。

「好きに選びなさいよ。ウチは《男爵家》って言っても名ばかりだから、貴族でも平民でも冒険者でも、好きにしなさい。」
「そうなの…。」
「それから、ギルドのことも考えなくていいわ。跡継ぎが必要とか、《次のギルマス》が婿とかないからね。あぁだからと言って、所帯持ちと聖職者はダメよ。」
「わかってる!」
「あと、生涯独身もやめてね。母さん、孫を抱くのを楽しみにしてるんだから。」
「……うん。」

自室に戻ってベッドに寝転ぶと、自分の将来について考えた。

・やっぱりヒロインとして、王都で学園生活を過ごす。

でも、学園は貴族の御子息御息女様が成人の18歳まで通う場所。
私は来月で成人の18歳になるわ。いくらヒロインの鉄板が《男爵令嬢が学園に編入してくる》だとしても、残り1ヶ月で何ができるって言うのかしら?
却下ね。

・貧乳でも、なりたかったポジションを目指してみる。

童顔は認めるけど、全然かわいらしさはないからな…
だいたい、父がギルマスだから《ギルマスの娘は成人》とかってわかるけど、体型に顔に見た目は完全に子どもよ。
勇者と2人きりのパーティで相方が子どもなんて、絶対に他所の女が絡んで来るわよね。
でも私には爆乳が無いから、勇者に迫れないしそんな女が途切れることなんてなくて…
そんなのずっと見せ続けられるなんて、絶対にイヤだわ。
却下!

そうねぇ…まずは、来月成人したら冒険者ギルドで本登録をする。
とりあえず誰かパーティを組んでくれる人が現れるまでは、薬草採取のミッションをこなしながらポーション作りつつ運営側のお手伝いでもしようかしら。

むふふ…

そうして、その日はそのまま眠ってしまったの。








それから約3週間後…
私、とうとう成人になったわ!!

誕生日の朝、ベッドで1つ伸びをすると、顔を洗おうと階下へ下りる。
井戸で顔を洗ってタオルを顔に当ててポンポンッ、で、顔を上げた時だった。

いつもならこの角度に朝日が眩しくて、お日様のパワーを体いっぱいに浴びるんだけど、今日は何故か影…

「…ん?」

首を傾げた時だった。

頭の上、右から声が降ってくる。
「キャス、誕生日おめでとう。今日お前が本登録したら、彼がパーティを組んでくれるそうだ。」
とは父の声。

すると頭の上、正面から声が降ってきた。
「よ、よろしくお願いします。」
聞き覚えのない低音だわ。

そしてすぐに後ろから母の引き笑いの爆声に包まれてしまって…

こんな誕生日の朝って一体?


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