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しおりを挟む朝食を終えると、準備をして冒険者ギルドへ向かう。
私はいつもアルバイトしている時の通勤服である、様々な耐性のついた作業服で行こうとして、母のお下がりだという伝説級のバトルスーツを着て行くことに…しようと思った時もあったわ。
でもね、残念なことにデコルテラインがしっかり見えるミニ丈のドレスっていう、魔女っ子のお色気担当の変身後みたいなデザインでね…
あれって、胸の引っ掛かりがないと、ずりずり下がってきちゃうわけ。
最終的に、着付けてくれた母も諦めて…
結局当初の予定通り、私は様々な耐性のついた作業服(ツナギ)で冒険者ギルドへ向かったの。
リュークさんは朝食の時と全く同じ服装だったんだけど、あれじゃそのまま依頼を受けることはできないんじゃないかしらって心配になったわ。
冒険者ギルドに到着すると、私の着付け中に出勤した父が早々に受付カウンターへやって来て、ギルマス直々に手続きしてくれたの。
私は補助魔法師で、リュークさんは魔法剣士で登録した。
最初はみんな平等に採集系の依頼のみ受けられる《梅》スタートだけど、実力があれば翌日だって、魔物によって性質を書き換えられた獣である魔獣討伐のできる《竹》や、毒や麻痺の特性を持つことが多い魔物そのものの討伐ができる《松》にも上がることができるって言われたわ。
それから早速リュークさんとパーティ登録をして、父のすすめで1番下のランクの薬草採取を受けることにしたの。
この土地の案内を兼ねて、今後の職場にあたる森へ向かう。
道すがら、自己紹介や雑談をして仲良くなって来いっていう意図みたい。
「あの木々の生い茂ったところが《森》なんです。あちらへ向かいますよ。」
「わかりました。」
リュークさんは、父から《初めての冒険者セット》なる、皮の防具と剣のセットを身に付けて私の隣を歩く。
私の身長はリュークさんの胸の高さまでしかなく、でもリュークさんは歩幅を合わせて歩いてくれていた。
「あの。リュークさんの方が、私よりも年上ですよね? もっと砕けた口調にしていただけませんか?」
私は、一番最初に言いたかったことを伝える。
「それなら君もだよ、キャス。僕は今、家名を持たないただの《リューク》なんだ。だからリュークと呼んでくれないか?」
「ならば私への言葉も丁寧にしないでください!」
「わかったよ。ふふ…かわいいね。」
眼鏡の向こうのリュークさんの微笑みに、つい見惚れてしまう。
「え…」
私の頬はきっと朱に染まるなんていう可愛らしいものではなく、真っ赤っ赤だったろうと思う。
そんな、リュークの言動にいちいち赤くなってるような初々しい時期もありました。
でも今はもう…
「リューク! 回復したわ。」
「サンキュ! 本当にキャスは魔法発動が手早い。」
「来るわ。今度の魔物は火に弱かったわね。」
フワンッ
「炎の付与ありがとう。テアァーーー!!」
ギュゥィンッ
キシャアァァァ…
「探知してみたけれど、今のが最後みたい。」
「ありがとう、キャス。本当に優秀なパートナーになったな。」
リュークは私の肩を抱くと額にキスをする。
私はすっかり慣れてしまって、お礼だけを受け取る。
「うふふ…、こちらこそ。今日もお疲れさま、リューク。」
私は、少し赤くなりながら背伸びをして彼の頬に唇を当てる。
これは、竹ランクに上がった初めての討伐から続く、感謝の表し方。
正直私は慣れないし、たまに夜寝る前にリュークの唇の感触を思い出してニマニマしたりもしてる。
パーティを組んで半年。
私達パーティのランクは《松》の一番下まで上がっていた。
今ではリュークも自前の鎧と武器で闘っている。
ギルドの近くに家を借りていて、家では魔法の研究ばかり。
私も魔法を見せたりやってみたりしているし、朝食と夕食は私の家に食べに来ているの。
まぁ昼間はこうして討伐依頼を熟しているから、夜寝る時以外はずっと一緒にいるのだけど。
だからリュークのことは、《兄》として考えていたの。
でも私達のそんな関係は、《あの人》の言動で変化することになった。
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