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千年の夜の覚めぬ夢
第1話「極楽行きのスローボート」
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この先は漆黒だ。
漕ぎ出してみれば夜の海は暗く物悲しい。
「まるで棺桶ね」
奇妙な帽子をかぶった女が呟く。
「それか宇宙船だ」
と喋ったのは帽子そのものである。
「ものは言いようね」
それでも女はその言い回しが気に入ったようで、少し笑みをみせた。
「はやく、フカフカのベッドで寝たいわ」
「この任務中は期待できないと思うよ」
「わかってる。早く任務を終わらせるってこと!」
流線型の船の内部は、揺れに対して常に水平を保つように設計されている。
「そろそろ目的地周辺の海域だよ」
「巡視船は? 」
「大丈夫。あちらからは角度的に見えないはず。それよりも気をつけた方がいいのは……」
そこまで言って帽子は黙る。
「?」
「月子、ソナーの網にひっかかってる。音を立てたら自動で魚雷にやられる」
「はあ?そんなこといったって、エンジンを止めたらそれこそ、棺桶じゃない!」
「しぃー、いくら防音してるからって騷いだら聞こえちゃうよ」
エンジンを止めると、さらに静寂が広がる。
「どれくらい黙ってればいいわけ? 」
「わからない。」
「……最悪。こんど少佐にあったら一発殴らないと気がすまないわ」
「そうだね。無事に帰還するためにも今はおとなしくしていよう」
「ほんっと、最悪!」
女はハンドルを、苛立たしげに蹴っとばした。
ガコッという音がして、自動操縦モードが解除されたが、その事に二人は気が付かなかった。
「月子、補陀落渡海は知ってる?」
「フダラク?何それ?」
「昔、海の向こうにある極楽浄土を目指して僧侶達が海を渡ろうと船を出したんだ」
「ふーん。極楽浄土ってリゾート地の事だっけ?」
「リゾート地というか理想郷かな。ちょうど、この船くらいの大きさの船に30日分の食糧と水をつめこんで、櫂も帆もない船で南方の浄土を目指したんだ」
「私達が向かってるのは理想郷どころかディストピアなんだけどね」
「まぁ、そうかもしれない」
帽子は女の言葉を否定しなかった。
「それで、彼らはその理想郷にたどり着けたのかしら? 」
女が訊ねると、帽子は一瞬考えて答えた。
「もちろん」
「そっか、それなら良かったわね」
女は目的地を前にして、お預けをくらっている今の状況を有意義に過ごす方法を思いついた。
「じゃあ私もちょっと楽園に行ってくるから、何かあったら起こしてね」
「何かあったら困るんだけどね」
「家宝は寝て待てって言うでしょ」
「……さすがにワザとだよね」
帽子は間違いを訂正するべきかどうか悩んだ挙げ句、スルーすることにした。
女は寝息を立て、棺桶のような宇宙船のようなこの船は完全に沈黙した。
漕ぎ出してみれば夜の海は暗く物悲しい。
「まるで棺桶ね」
奇妙な帽子をかぶった女が呟く。
「それか宇宙船だ」
と喋ったのは帽子そのものである。
「ものは言いようね」
それでも女はその言い回しが気に入ったようで、少し笑みをみせた。
「はやく、フカフカのベッドで寝たいわ」
「この任務中は期待できないと思うよ」
「わかってる。早く任務を終わらせるってこと!」
流線型の船の内部は、揺れに対して常に水平を保つように設計されている。
「そろそろ目的地周辺の海域だよ」
「巡視船は? 」
「大丈夫。あちらからは角度的に見えないはず。それよりも気をつけた方がいいのは……」
そこまで言って帽子は黙る。
「?」
「月子、ソナーの網にひっかかってる。音を立てたら自動で魚雷にやられる」
「はあ?そんなこといったって、エンジンを止めたらそれこそ、棺桶じゃない!」
「しぃー、いくら防音してるからって騷いだら聞こえちゃうよ」
エンジンを止めると、さらに静寂が広がる。
「どれくらい黙ってればいいわけ? 」
「わからない。」
「……最悪。こんど少佐にあったら一発殴らないと気がすまないわ」
「そうだね。無事に帰還するためにも今はおとなしくしていよう」
「ほんっと、最悪!」
女はハンドルを、苛立たしげに蹴っとばした。
ガコッという音がして、自動操縦モードが解除されたが、その事に二人は気が付かなかった。
「月子、補陀落渡海は知ってる?」
「フダラク?何それ?」
「昔、海の向こうにある極楽浄土を目指して僧侶達が海を渡ろうと船を出したんだ」
「ふーん。極楽浄土ってリゾート地の事だっけ?」
「リゾート地というか理想郷かな。ちょうど、この船くらいの大きさの船に30日分の食糧と水をつめこんで、櫂も帆もない船で南方の浄土を目指したんだ」
「私達が向かってるのは理想郷どころかディストピアなんだけどね」
「まぁ、そうかもしれない」
帽子は女の言葉を否定しなかった。
「それで、彼らはその理想郷にたどり着けたのかしら? 」
女が訊ねると、帽子は一瞬考えて答えた。
「もちろん」
「そっか、それなら良かったわね」
女は目的地を前にして、お預けをくらっている今の状況を有意義に過ごす方法を思いついた。
「じゃあ私もちょっと楽園に行ってくるから、何かあったら起こしてね」
「何かあったら困るんだけどね」
「家宝は寝て待てって言うでしょ」
「……さすがにワザとだよね」
帽子は間違いを訂正するべきかどうか悩んだ挙げ句、スルーすることにした。
女は寝息を立て、棺桶のような宇宙船のようなこの船は完全に沈黙した。
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