辺境の国のダルジュロス

蜂巣花貂天

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千年の夜の覚めぬ夢

第2話「ドルフィンジャンプ」

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暗闇に浮かぶ一隻の小型船舶で女が1人夢を見ていた。

夢の断片は霧のように掴みどころがない。

「月子、月子!起きて」

「どうしたのよ、ハヌマーン」

「囲まれてる」 

「巡視船? 」

「いや、これは魚影かな」

「なーんだ、びっくりさせないでよ」

女は寝起きの為が機嫌が悪い。

「この魚影に紛れて岸に近づけないかな? 」

「なるほど、やってみようか」

女が寝ている間に、船は好奇心旺盛なイルカの群れに囲まれていた。

「イルカに仲間だと思われたのかな」

「おんなじ哺乳類なんだから、間違いではないね」

「そういう意味じゃないんだけど、まぁいいか」

船をゆっくり発進すると、イルカ達もついてくる。

「いける!」

目的の入江まであと少しという所まで迫る。

「月子!」

「わかってる」

船はスピードを緩めていく。

つけられそうな、ちょうどよい岸は無い。

あまり近づきすぎると、監視の目に引っかかる可能性もあり慎重に近づく。 

「ハヌマーン、見張りは?」

「大丈夫。やっぱりこっちが裏だったね」

「油断しないで」

「あと少し!接岸するよ」

「とうちゃーく」

ハヌマーンと呼ばれた帽子が宣言する。

「あ……れ?えぇー」

勢い余って、ハンドルを握った拍子に、スピードがあがる。

「わーなにやって……」

接岸するはずが、船体が大きく傾き前のめりに岩礁にぶつかる。

その衝撃で、女は操縦席から投げ出され、そのタイミングで、ハッチが開ききってしまう。

ガラスの扉に激突した女の額からは血が流れ、意識を失ってしまった。

船は側面を地面に擦った為、大きく壁が破損している。

「月子~月子~!」

なんとか目を覚まさないかと、帽子は呼びかけを続けた。

人気のない入江とはいえ、不用意に物音をたてるのは得策ではなかった。

さらに最悪な事に、脱げた帽子がハラリと砂地に落ちる。

「駄目だ、起きて月子!起きろ!」

声は届かない。

ザッザッザッ。

どこからか、足音が近づいてくる。

「ほう、変わったデバイスだ」

つまみ上げられたのか、ハヌマーンの視点が急に高くなる。

「やめろ!離せ!」

「おい、こいつを俺の道具箱に入れておけ」

「わかりました!」

指示を受けた男は無造作に帽子を掴み、その場を離れていく。

「アンドロイドにしては精巧にできている。血液まで再現しているのか」

「船長、この女もしかして人間じゃないですか? 」

「まさか、わざわざ海を渡ってきたのか。イカれてやがるな」

月子を一瞥し、品定めをするような目で見る。

「恐らく、あのイルカに紛れて侵入してきたのでは? 」

「かもしれんな、これは厄介だが」

「報告しますか? 」

「バカか、こんな面白い漂着物。黙ってもらっておくに決まってるだろう」

「よろしいのですか? 」

「上手くいけば、切り札になるかもしれない」

「女は船に運ぶ。ただし、両手は縛っておけ」

「わかりました」

二人がかりで女を捕らえ、後ろ手にして手首を縛っていく。

「こいつは、高く売れそうだな」

「妙な気はおこすなよ、傷物にでもしたら代わりにお前らに身体を売ってもらうからな」

「ご冗談を……そんなことしませんよ」

下卑た笑みを浮かべた男に船長と呼ばれた男が釘をさす。

「俺にもツキが回ってきたかな、よし引き揚げるぞ。奴らが嗅ぎつける前に撤収だ! 」

数名の男達は、そのまま夜の森の中に消えていく。

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