金の野獣と薔薇の番

むー

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番外編 瑠可/楓

番外編 Luka-10

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あの日から1週間以上経った。
篠崎さんからは変わらず毎日メッセージが届いた。
ボクは通知のメッセージを見るだけで、画面を開いて返信できないでいた。

そして、楓兄とまた連絡を取るようになった。


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

夏休みの最終日。
寮に戻ると少し前に戻ってきた結季くんと玄関で会った。

「結季くん、久しぶりー、わっ!」
「瑠可、会いたかった!」

結季くんに抱きつかれて驚いたけど、嬉しくてぎゅっと抱き返した。
少しの間そうしていると、頭にポンと手が乗って、森林のような匂いが鼻腔をくすぐった。

「そんなとこ突っ立てたら邪魔だろ。ゆうは荷物持ってけ」
「はーい」

見上げると優しい目がボクを見下ろしていた。

「瑠可、ちょっと振りだな。身体は大丈夫か?」
「……うん。なんともない、よ」

あれから2週間経った昨日、検査薬で調べて
妊娠していないことが分かった。
そのことをすぐ楓兄に電話で報告すると「良かった…」とほっとした声が聞こえた。
その声にボクもやっと安心して涙が出た。

なんだろう。
メッセージや電話は普通にできたのに本人を目の前にすると恥ずかしくて、心臓が痛いくらいドキドキする。
あ、でも電話も少しドキドキしたかも。

「瑠可、ゆうが呼んでるぞ」
「えっ、ああ、じゃあね、楓兄」
「ああ」

手を振ると手を振りかえしてくれた。
そのやり取りだけで、くすぐったい様な気持ちになった。

「瑠可、オレもしかして邪魔した?」
「そそそそんなことないよっ」

廊下の角から顔を覗かせたニヤニヤ顔の結季くんに揶揄われたボクは慌てて否定した。

「そう?あ、瑠可、話がしたいから後で部屋に行っていい?」
「うん、待ってるね」


❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎

コンコンコン

「るーかー」

晩ご飯の冷凍ドリアを電子レンジに入れてると、思いのほか早く結季くんが部屋に来た。

「瑠可、ご飯食べた?」
「ううん。これから食べようと思ってたよー」
「なら良かったー」

そう言う結季くんは大きなお皿に乗ったお好み焼きをボクに見せた。

「これ、お好み焼き…だよね?」
「そ、如月家のお好み焼きはフライパンサイズなんだ。一緒に食べよ」

結季くんを部屋に招き入れて、電子レンジの冷凍ドリアは明日以降に食べることにしてラップをして冷凍庫へ戻した。


「これ、結季くんが作ったの?」
「ああ、生地から作ったんだ。まあ、隠し味的なもんはないけど。あ、すり下ろした山芋入ってるよ。これが美味いんだ!」

包丁で切り分けて皿に乗せてくれた。
ユラユラ揺れる鰹節を見ながらパクッと食べる。

「うん、すっごく美味しい!」
「マジで!やったー」

ボクの感想に結季くんは嬉しそうに笑顔でお好み焼きを食べ始めた。


「瑠可」
「ん?」

食後のお茶を飲んでいると結季くんが真面目な顔でボクを見た。

「かなり迷ったんだけど……。この前、瑠可がピルを持ってきて欲しいって連絡くれた時のこと聞いていい?」
「あ……、あの時は楓兄に連絡してくれてありがと。ごめんね、実家で楽しんでいるときに」
「そんなことは別にいいよ。むしろ、駆けつけられなくてごめん。瑠可が大変な時に傍に行けなくて悔しかった」

辛そうな顔の結季くんに、嬉しくてついクスリと笑ってしまう。

「瑠可。笑い事じゃないだろ」
「うん。でも、結季くんの気持ちが嬉しくって…」
「………」

手に持っていたマグカップをテーブルに置いて、深呼吸してから口を開いた。

「楓兄からはどこまで聞いたの?」
「どこまで…というか、『ホテルで瑠可にピル飲ませて家に連れて帰った。瑠可、ちゃんと眠れてたし、家に帰したから大丈夫だ』しか教えてくれなかった…。それだけじゃないのは分かってるのに…」
「ふふっ、楓兄は優しいね」

あんな出来事、結季くんには聞かせられなくて楓兄は話さなかったのかもしれない。
ちょっと結季くんが羨ましいけど、なんかいいなって思った。

「うーん。それ、瑠可限定だと思う」
「えっ…?」
「楓兄、オレにはそこまで優しくないよ。瑠可だから……瑠可の身に起きたことだからオレには話さなかったんだと思う」
「………」
「瑠可……辛かったんだよね?」
「……うん……すごく辛かった…」


ボクはあの日に起きたことを結季くんに話した。
何度も言葉に詰まったけど、結季くんは最後まで聴いてくれた。

「何、篠崎のおっさん。クソだな」
「ボクが……ボクの覚悟が足りないまま付き合ったのがいけないんだよ」
「違う。いい歳したおっさんが、オメガの人権を無視した発言するのがダメなんだよ。バースが違うだけで、オレたちも同じ人間だ」

結季くんはキッパリと言い切った。
結季くんの番の皇貴先輩は、結季くんとは対等な関係らしく、時々、結季くんがグーで殴って叱ることもあると話してくれた。
そんな結季くんが頼もしくて、今傍にいてくれているのが嬉しかった。

「あのね、結季くん」

ボクはあの時感じた気持ちを結季くんに話した。
話していたら涙が止まらなくて、結季くんはずっと背中をさすってくれた。

「瑠可。その時の気持ち、ちゃんと考えてさ……本人に伝えた方がいいよ」

そう言って微笑む結季くんに、ボクは頷いた。

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