76 / 78
後日談
お正月 ②
しおりを挟む
外は寒いからと、羽織りを着て境内に向かう。
オレたちは社務所だが、皇貴先輩たちは境内のあちこちで案内や清掃をしていると陽菜が言っていた。
が、なにせ人が多くて人混みに埋もれた先輩たちを見つけるのは骨が折れそうだ。
と、思っていたけど、不自然な人集りに近寄ったら1人目は意外に早く見つけた。
「あ、楓兄いた。……むぅ」
白衣の裾を掴まれたりベタベタ触られていて、それを見た瑠可のほっぺたが風船のように膨らんだ。
「あの、ちょっと……わっ、る、瑠可⁉︎」
「楓、浮気はしちゃダメだからね!」
女子の群れを掻き分け、瑠可は楓兄に抱きついた。
「浮気?…する訳ないだろ。あの時誓った言葉忘れたのか?」
「忘れてない。忘れてないけど……」
「なら、俺を信じろ。瑠可」
「うん。うん」
その甘い雰囲気に、群がっていた女子が波のように引いた。
付け入る隙のない2人に、女子どもは楓兄へのアプローチは諦めたようだ。
んで、中心にいる2人はオレの存在を忘れたようだ。
「楓兄、瑠可、オレ行くね」
「わっ、結季くん、ごめっ……」
「結季、瑠可はちゃんと送るから、お前は知らない人にフラフラついて行くなよ」
「そこまで子供じゃないからっ!」
楓兄には腹が立ったけど、瑠可が幸せそうだからいいか。
オレはその場を離れた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「すみませーん」
「はい?」
初詣客で多い境内を見て散策は諦めて社務所に戻ろうとしたところに声を掛けられた。
振り返ると大学生くらいの男が3人いた。
ちょっと顔が赤い?
「トイレどこですかー?」
「案内してくれない?」
「それよりバイト何時に終わるの?」
不躾に顔を寄せてきた男たちからは酒の匂いがした。
楓兄に「知らない人について行くな」と言われたそばからへんや奴らに絡まれるオレって…。
「トイレはあちらです。案内板もありますから、それに沿って行けば着きますよ」
後退りながら説明するが、手首を掴まれてそれ以上下がることができなくなった。
「じゃあ、一緒に行こ」
引き摺られるように両サイドから引っ張られた上、後ろからも押された。
瑠可がいる時じゃなくて良かったけど、面倒だな。
人数でも力でも勝てないから、隙を見て逃げ出さないと。
「どうかされましたか?」
人気が少なくなった所まで行くと声を掛けられた。
「あ……」
という間に、オレは3人の男から引き剥がされた。
オレを隠すように立つ人を見上げる。
「あっ?俺たち、その巫女さんにトイレに案内してもらってんの。返してくんない?」
「お断りします」
「あ゛?」
「せ、先輩」
あからさまに機嫌が悪くなった男たちに臆することなく立つ望月先輩はどこまでも冷静だった。
「お手洗いはすぐそこです。もう案内は必要ありませんね。私たちは仕事がありますのでこれで失礼します」
「ちょっと待てよーー」
パシーンっ
伸ばしてきた男の手を望月先輩の手が弾いた。
ただそれだけだったけど、男たちは怯んだ。
ここまで怯えさせている望月先輩の表情が気になったけど、先輩の背中に隠れているオレには見えなかった。
「クソッ」
そんな捨て台詞を吐いて男たちはトイレに向かわず去っていった。
「望月先輩、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
手を取り怪我がないか確認してくれた望月先輩の顔は無表情だったけど、少しだけ眉が下がっていた。
「赤くなっていますね。もう少し早く駆けつけられていれば…」
「イヤイヤイヤ、ベストタイミングです。オレ逃げれなくて……、望月先輩が来てくれなかったらたぶんヤバかったです」
「そう、ですか。それなら良かったです」
「っっ!」
それは一瞬で、鳥肌が立った。
心臓がバクバク落ち着かない。
あの笑顔はヤバい!
「如月くん、顔が赤いですけど本当に大丈夫ですか?」
「あ……」
不意打ちにオレの顔は真っ赤になった。
どうやって誤魔化したら……。
「あーいたー!おーい」
そんな空気を蹴り飛ばす声が聞こえた。
____________________
公開予約の設定をしてしませんでした。
申し訳ありません。
次は0時の公開です。
(予約済み)
オレたちは社務所だが、皇貴先輩たちは境内のあちこちで案内や清掃をしていると陽菜が言っていた。
が、なにせ人が多くて人混みに埋もれた先輩たちを見つけるのは骨が折れそうだ。
と、思っていたけど、不自然な人集りに近寄ったら1人目は意外に早く見つけた。
「あ、楓兄いた。……むぅ」
白衣の裾を掴まれたりベタベタ触られていて、それを見た瑠可のほっぺたが風船のように膨らんだ。
「あの、ちょっと……わっ、る、瑠可⁉︎」
「楓、浮気はしちゃダメだからね!」
女子の群れを掻き分け、瑠可は楓兄に抱きついた。
「浮気?…する訳ないだろ。あの時誓った言葉忘れたのか?」
「忘れてない。忘れてないけど……」
「なら、俺を信じろ。瑠可」
「うん。うん」
その甘い雰囲気に、群がっていた女子が波のように引いた。
付け入る隙のない2人に、女子どもは楓兄へのアプローチは諦めたようだ。
んで、中心にいる2人はオレの存在を忘れたようだ。
「楓兄、瑠可、オレ行くね」
「わっ、結季くん、ごめっ……」
「結季、瑠可はちゃんと送るから、お前は知らない人にフラフラついて行くなよ」
「そこまで子供じゃないからっ!」
楓兄には腹が立ったけど、瑠可が幸せそうだからいいか。
オレはその場を離れた。
❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎
「すみませーん」
「はい?」
初詣客で多い境内を見て散策は諦めて社務所に戻ろうとしたところに声を掛けられた。
振り返ると大学生くらいの男が3人いた。
ちょっと顔が赤い?
「トイレどこですかー?」
「案内してくれない?」
「それよりバイト何時に終わるの?」
不躾に顔を寄せてきた男たちからは酒の匂いがした。
楓兄に「知らない人について行くな」と言われたそばからへんや奴らに絡まれるオレって…。
「トイレはあちらです。案内板もありますから、それに沿って行けば着きますよ」
後退りながら説明するが、手首を掴まれてそれ以上下がることができなくなった。
「じゃあ、一緒に行こ」
引き摺られるように両サイドから引っ張られた上、後ろからも押された。
瑠可がいる時じゃなくて良かったけど、面倒だな。
人数でも力でも勝てないから、隙を見て逃げ出さないと。
「どうかされましたか?」
人気が少なくなった所まで行くと声を掛けられた。
「あ……」
という間に、オレは3人の男から引き剥がされた。
オレを隠すように立つ人を見上げる。
「あっ?俺たち、その巫女さんにトイレに案内してもらってんの。返してくんない?」
「お断りします」
「あ゛?」
「せ、先輩」
あからさまに機嫌が悪くなった男たちに臆することなく立つ望月先輩はどこまでも冷静だった。
「お手洗いはすぐそこです。もう案内は必要ありませんね。私たちは仕事がありますのでこれで失礼します」
「ちょっと待てよーー」
パシーンっ
伸ばしてきた男の手を望月先輩の手が弾いた。
ただそれだけだったけど、男たちは怯んだ。
ここまで怯えさせている望月先輩の表情が気になったけど、先輩の背中に隠れているオレには見えなかった。
「クソッ」
そんな捨て台詞を吐いて男たちはトイレに向かわず去っていった。
「望月先輩、ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
手を取り怪我がないか確認してくれた望月先輩の顔は無表情だったけど、少しだけ眉が下がっていた。
「赤くなっていますね。もう少し早く駆けつけられていれば…」
「イヤイヤイヤ、ベストタイミングです。オレ逃げれなくて……、望月先輩が来てくれなかったらたぶんヤバかったです」
「そう、ですか。それなら良かったです」
「っっ!」
それは一瞬で、鳥肌が立った。
心臓がバクバク落ち着かない。
あの笑顔はヤバい!
「如月くん、顔が赤いですけど本当に大丈夫ですか?」
「あ……」
不意打ちにオレの顔は真っ赤になった。
どうやって誤魔化したら……。
「あーいたー!おーい」
そんな空気を蹴り飛ばす声が聞こえた。
____________________
公開予約の設定をしてしませんでした。
申し訳ありません。
次は0時の公開です。
(予約済み)
17
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
奇跡に祝福を
善奈美
BL
家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。
※不定期更新になります。
【完結】選ばれない僕の生きる道
谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。
選ばれない僕が幸せを選ぶ話。
※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです
※設定は独自のものです
※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
もう殺されるのはゴメンなので婚約破棄します!
めがねあざらし
BL
婚約者に見向きもされないまま誘拐され、殺されたΩ・イライアス。
目覚めた彼は、侯爵家と婚約する“あの”直前に戻っていた。
二度と同じ運命はたどりたくない。
家族のために婚約は受け入れるが、なんとか相手に嫌われて破談を狙うことに決める。
だが目の前に現れた侯爵・アルバートは、前世とはまるで別人のように優しく、異様に距離が近くて――。
【完結】この契約に愛なんてないはずだった
なの
BL
劣勢オメガの翔太は、入院中の母を支えるため、昼夜問わず働き詰めの生活を送っていた。
そんなある日、母親の入院費用が払えず、困っていた翔太を救ったのは、冷静沈着で感情を見せない、大企業副社長・鷹城怜司……優勢アルファだった。
数日後、怜司は翔太に「1年間、仮の番になってほしい」と持ちかける。
身体の関係はなし、報酬あり。感情も、未来もいらない。ただの契約。
生活のために翔太はその条件を受け入れるが、理性的で無表情なはずの怜司が、ふとした瞬間に見せる優しさに、次第に心が揺らいでいく。
これはただの契約のはずだった。
愛なんて、最初からあるわけがなかった。
けれど……二人の距離が近づくたびに、仮であるはずの関係は、静かに熱を帯びていく。
ツンデレなオメガと、理性を装うアルファ。
これは、仮のはずだった番契約から始まる、運命以上の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる