66 / 95
最終章 Side:愛梨
3話
しおりを挟む「人間って、恋してる相手とそうじゃない相手の前では、全然表情が違うんだよ。でもその表情って、鏡を見てるわけじゃないから、自分にはわからないの。第三者が見たら丸わかりなのにね」
ふふふ、と玲子と同じ笑い方をした友理香に、どう返答していいのかと言葉を詰まらせた。まるで『雪哉に恋してるでしょ?』と言われているような気分になる。
「友理香ちゃんは……」
「あ、私の事なら、全然気にしなくていいよ?」
一瞬きょとんとしたものの、友理香はまたすぐに美しい薄紅牡丹のような笑顔を綻ばせる。愛梨の言葉を先読みした友理香が、何でもない事のように胸を張った。
「雪哉にはこの前、ちゃんとフラれたから」
「え、ええっ!?」
「ていうか、別に初めてじゃないよ。雪哉にフラれたの」
意外な事実をさらりと述べた友理香に、また驚いてしまう。あっけらかんとフラれたと口にする友理香に傷付いている様子はなく、むしろ晴れ晴れとしているようにさえ感じられる。
「本気で自分磨きして、本気で告白して。雪哉もちゃんと振ってくれるから、本気で再チャレンジするの」
「す、すごいバイタリティだね。私には真似できそうにない……」
「そう?」
口で言うのは簡単だが、友理香は難易度が高めの恋愛をしている気がする。自分の本当の気持ちに気付く事すら怖がっている愛梨とは全然違う。無邪気で、一生懸命で、強い恋心だ。
同時に、この美貌と一途な恋心を向けられても、全く心が動かないという雪哉にも驚いてしまう。愛梨が男だったら、絶対に友理香のことを好きになってしまうと思うのに。
「でも私、今回はズルしちゃったから……。雪哉は格好良くて目立つから色んな噂の的になるけど、今まではどんな噂になっても、誰に迫られても絶対振り向かなかったの。だから私、愛梨が雪哉の想い人だって気付いて悔しかったんだ」
友理香の言葉に納得感を得る。最初に通訳室で雪哉と距離が近かったのを目にした時、友理香は雪哉には詰め寄ったが、愛梨にはあまり反応を示さなかった。友理香の中では、周囲の女性が雪哉に好意を寄せるのはそのぐらい普通の出来事なのだろう。
けれど雪哉がそれに応じている所は初めて目にした。だから驚いて、慌てて雪哉を問い詰めた。そして後から雪哉の想い人が愛梨だと気付き、雪哉にとっては重大で迷惑な、愛梨にとっては困ってしまうけれど可愛らしい嫉妬をしてしまった。
「振り向いて欲しい相手の想い人を陥れようとするなんて、フェアじゃないよね」
「そうかな? 私は、それも本気の証だと思うけど……。あぁっ、でももう放置はしないでね…!? 私、ほんと日本語も怪しいんだから!」
愛梨は友理香の本気度を知った。
その本気度を示す方法を間違えてしまっただけで、雪哉に対する友理香の想いの強さは、紛れもない本物だった。慌てて手を振ると友理香が可笑しそうに笑い出す。
「ふふっ、愛梨は優しくて良い人だねぇ」
「えぇ? 私は友理香ちゃんの方がいい子だと思うけど。美人で、真っ直ぐで、純粋で」
「えへへ、ありがと。あ、でも雪哉の事は諦めないからね!?」
そう言った友理香の瞳の中の恋する流れ星は、きらきらと無垢で美しい。自由意思に身を任せて降り注ぐ流星群のような輝きは、大人になって素直さを失った愛梨ではそもそも勝てる筈がないと思う。
それに愛梨は、勝ちたいとも思っていない。雪哉と今以上の関係になりたいなんて。
思って、いないから。
「うん、友理香ちゃんのこと応援してる」
けれどその言葉を聞いた友理香は、何かを悟ったように曖昧な笑顔を零すだけだった。
「ところで愛梨、韓国語に興味ない?」
「へっ!?」
急に話題を転換した友理香の台詞に驚き、再び声が裏返る。突然、何を言い出すのかと思えば。
「今回のプロジェクトが軌道に乗ってワークサイクルが安定したら、社員向けのビジネス語学講習会が始まる予定なの」
企業側でも喋れる人材を育成しないとね、と言う友理香に、ぱちぱちと目を瞬かせる。
確かにSUI-LENには語学に堪能な人材が少ない。だからこうして外部から通訳を派遣して貰っているが、それもずっと続く話ではない。
いずれは派遣通訳を頼らなくてもプロジェクトを運用出来るように、在籍する社員にビジネス語学の知識を与え、他言語に触れる機会を設ける。そうする事で既存の社員を育成していく事も、彼ら派遣通訳の仕事の1つらしい。
「当初から事業計画に入ってたし、来月には講習会の案内と参加希望者の聞きとりがあると思うんだ」
「えっ、それ友理香ちゃんが講師するの?」
「そうだよ。だから愛梨も私が担当する講習会受けてみない?」
「へ……?」
「もちろん会社のためもあるけど、この機会に韓国語覚えてさ……玲子と3人でアイドルのコンサート観に韓国旅行に行こーよ!」
「えっ……ええっ!?」
友理香の提案につい驚きの声を上げてしまう。ほんの数分前に『雪哉の事は諦めない』と言ったばかりなのに、恋愛とアイドルのコンサートは別物らしい。まぁ、それはそうなのだろうけれど。
(ほ、ほんとタフだなぁ……)
思わず苦笑いが漏れる。友理香の煌めきと行動力と体力は常に無尽蔵で、何から何まで愛梨の1つ歳下ではないみたいだ。
11
あなたにおすすめの小説
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
それは、ホントに不可抗力で。
樹沙都
恋愛
これ以上他人に振り回されるのはまっぴらごめんと一大決意。人生における全ての無駄を排除し、おひとりさまを謳歌する歩夢の前に、ひとりの男が立ちはだかった。
「まさか、夫の顔……を、忘れたとは言わないだろうな? 奥さん」
その婚姻は、天の啓示か、はたまた……ついうっかり、か。
恋に仕事に人間関係にと翻弄されるお人好しオンナ関口歩夢と腹黒大魔王小林尊の攻防戦。
まさにいま、開始のゴングが鳴った。
まあね、所詮、人生は不可抗力でできている。わけよ。とほほっ。
【完結】僕ら二度目のはじめまして ~オフィスで再会した、心に残ったままの初恋~
葉影
恋愛
高校の頃、誰よりも大切だった人。
「さ、最近はあんまり好きじゃないから…!」――あの言葉が、最後になった。
小島久遠は、新たな職場で、元カレとまさかの再会を果たす。
若くしてプロジェクトチームを任される彼は、
かつて自分だけに愛を囁いてくれていたことが信じられないほど、
遠く、眩しい存在になっていた。
優しかったあの声は、もう久遠の名前を呼んでくれない。
もう一度“はじめまして”からやり直せたら――そんなこと、願ってはいけないのに。
それでも——
8年越しのすれ違いは、再会から静かに動き出す。
これは、終わった恋を「もう一度はじめる」までの物語。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~
吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。
結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。
何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる