約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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最終章 Side:愛梨

3話

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「人間って、恋してる相手とそうじゃない相手の前では、全然表情が違うんだよ。でもその表情って、鏡を見てるわけじゃないから、自分にはわからないの。第三者が見たら丸わかりなのにね」

 ふふふ、と玲子と同じ笑い方をした友理香に、どう返答していいのかと言葉を詰まらせた。まるで『雪哉に恋してるでしょ?』と言われているような気分になる。

「友理香ちゃんは……」
「あ、私の事なら、全然気にしなくていいよ?」

 一瞬きょとんとしたものの、友理香はまたすぐに美しい薄紅牡丹のような笑顔を綻ばせる。愛梨の言葉を先読みした友理香が、何でもない事のように胸を張った。

「雪哉にはこの前、ちゃんとフラれたから」
「え、ええっ!?」
「ていうか、別に初めてじゃないよ。雪哉にフラれたの」

 意外な事実をさらりと述べた友理香に、また驚いてしまう。あっけらかんとフラれたと口にする友理香に傷付いている様子はなく、むしろ晴れ晴れとしているようにさえ感じられる。

「本気で自分磨きして、本気で告白して。雪哉もちゃんと振ってくれるから、本気で再チャレンジするの」
「す、すごいバイタリティだね。私には真似できそうにない……」
「そう?」

 口で言うのは簡単だが、友理香は難易度が高めの恋愛をしている気がする。自分の本当の気持ちに気付く事すら怖がっている愛梨とは全然違う。無邪気で、一生懸命で、強い恋心だ。

 同時に、この美貌と一途な恋心を向けられても、全く心が動かないという雪哉にも驚いてしまう。愛梨が男だったら、絶対に友理香のことを好きになってしまうと思うのに。

「でも私、今回はズルしちゃったから……。雪哉は格好良くて目立つから色んな噂の的になるけど、今まではどんな噂になっても、誰に迫られても絶対振り向かなかったの。だから私、愛梨が雪哉の想い人だって気付いて悔しかったんだ」

 友理香の言葉に納得感を得る。最初に通訳室で雪哉と距離が近かったのを目にした時、友理香は雪哉には詰め寄ったが、愛梨にはあまり反応を示さなかった。友理香の中では、周囲の女性が雪哉に好意を寄せるのはそのぐらい普通の出来事なのだろう。

 けれど雪哉がそれに応じている所は初めて目にした。だから驚いて、慌てて雪哉を問い詰めた。そして後から雪哉の想い人が愛梨だと気付き、雪哉にとっては重大で迷惑な、愛梨にとっては困ってしまうけれど可愛らしい嫉妬をしてしまった。

「振り向いて欲しい相手の想い人を陥れようとするなんて、フェアじゃないよね」
「そうかな? 私は、それも本気の証だと思うけど……。あぁっ、でももう放置はしないでね…!? 私、ほんと日本語も怪しいんだから!」

 愛梨は友理香の本気度を知った。
 その本気度を示す方法を間違えてしまっただけで、雪哉に対する友理香の想いの強さは、紛れもない本物だった。慌てて手を振ると友理香が可笑しそうに笑い出す。

「ふふっ、愛梨は優しくて良い人だねぇ」
「えぇ?  私は友理香ちゃんの方がいい子だと思うけど。美人で、真っ直ぐで、純粋で」
「えへへ、ありがと。あ、でも雪哉の事は諦めないからね!?」

 そう言った友理香の瞳の中の恋する流れ星は、きらきらと無垢で美しい。自由意思に身を任せて降り注ぐ流星群のような輝きは、大人になって素直さを失った愛梨ではそもそも勝てる筈がないと思う。

 それに愛梨は、勝ちたいとも思っていない。雪哉と今以上の関係になりたいなんて。

 思って、いないから。

「うん、友理香ちゃんのこと応援してる」

 けれどその言葉を聞いた友理香は、何かを悟ったように曖昧な笑顔を零すだけだった。


「ところで愛梨、韓国語に興味ない?」
「へっ!?」

 急に話題を転換した友理香の台詞に驚き、再び声が裏返る。突然、何を言い出すのかと思えば。

「今回のプロジェクトが軌道に乗ってワークサイクルが安定したら、社員向けのビジネス語学講習会が始まる予定なの」

 企業側でも喋れる人材を育成しないとね、と言う友理香に、ぱちぱちと目を瞬かせる。

 確かにSUI-LENには語学に堪能な人材が少ない。だからこうして外部から通訳を派遣して貰っているが、それもずっと続く話ではない。

 いずれは派遣通訳を頼らなくてもプロジェクトを運用出来るように、在籍する社員にビジネス語学の知識を与え、他言語に触れる機会を設ける。そうする事で既存の社員を育成していく事も、彼ら派遣通訳の仕事の1つらしい。

「当初から事業計画に入ってたし、来月には講習会の案内と参加希望者の聞きとりがあると思うんだ」
「えっ、それ友理香ちゃんが講師するの?」
「そうだよ。だから愛梨も私が担当する講習会受けてみない?」
「へ……?」
「もちろん会社のためもあるけど、この機会に韓国語覚えてさ……玲子と3人でアイドルのコンサート観に韓国旅行に行こーよ!」
「えっ……ええっ!?」

 友理香の提案につい驚きの声を上げてしまう。ほんの数分前に『雪哉の事は諦めない』と言ったばかりなのに、恋愛とアイドルのコンサートは別物らしい。まぁ、それはそうなのだろうけれど。

(ほ、ほんとタフだなぁ……)

 思わず苦笑いが漏れる。友理香の煌めきと行動力と体力は常に無尽蔵で、何から何まで愛梨の1つ歳下ではないみたいだ。
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