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最終章 Side:愛梨
2話
しおりを挟む愛梨の様子を見て少しずつ元気を取り戻した友理香の瞳に、小さな煌めきが流れた。
「ね、愛梨。雪哉と幼馴染みってほんと?」
いつもの様子に戻り始めた友理香の、思い切り核心を暴こうとする言葉に小さく動揺する。しっかり掴んでいたはずのミニトマトが箸から転がり落ちて、皿の中に戻っていった。
「あ、うん……昔、家がお向かい同士だったの」
答えながら、友理香が何か知ってはいけないことまで知っているのではないかと、腋窩に妙な汗をかく。目を合わせられない愛梨を気にもせず、友理香が質問を重ねてきた。
「じゃあ雪哉が探してる人って、愛梨だよね?」
問い掛けられて、更に変な汗が出た。だが視線を戻して恐る恐るその顔を見ると、友理香は単に興味津々といった様子で、愛梨に対して軽蔑の眼差しを向けているわけではない。少なくとも愛梨と弘翔の関係を壊すような情報は伝わっていない事がわかった。
「そう、だね」
「うん。それなら辻褄が合う」
「えっと、……ごめんね。あの時どう言っていいのかわからなくて」
愛梨が謝ると、友理香は『ううん』と首を振った。
けれど愛梨が認めた事で、友理香は気付いたはずだ。雪哉がずっと探してるという想い人の正体に。雪哉が愛梨を好いていると言う事に。
気まずい空気を察知して縮こまった愛梨に、友理香は恨むでも嘆くでもなく、ただ自分の好奇心を満たすような眼差しを向けて来る。愛梨の方が『それでいいの?』と問いかけてしまいたくなるほど、純粋に。
「愛梨は雪哉のこと、好きにならないの?」
友理香に猫なで声で訊ねられ、再度声が裏返りそうになる。手から滑り落ちかけた箸をあわあわ掴み直していると、友理香の牡丹のように美しい笑顔がゆっくりと横に傾いた。
「……私には、弘翔がいるから」
「えぇー、泉さんより雪哉の方がイケメンだと思うけどなー」
「え、そこ基準? 弘翔もかっこいいと思うけど……あ、彼女の欲目かな?」
笑って訊くと、友理香も笑いながら『どうかなぁ』と呟いた。どうやら弘翔の見た目は、友理香のお眼鏡には適わないらしい。やはり外見だけで言うと、どうしても雪哉に軍配が上がる。今のところ、玲子・崎本課長・友理香と雪哉の3連勝だ。
「それに弘翔と一緒にいると楽しいよ?」
けれど愛梨にとっては、見た目よりも中身の方が大事だと思う。雪哉が愛梨に向ける言葉や眼差しは、強すぎる程に情熱的だ。まるで愛梨以外は何も要らないとでも言うように、甘ったるくて、熱くて、激しい。だから安心感も楽しさも感じない。ただいつも、心臓が苦しいだけだ。
でも弘翔といると、楽しいし安心できる。だから自分は弘翔が好きなのだと再確認する。
「ドキドキする?」
「……えっ?」
自分の好みの男性像がより明確になった心地でひとりで頷いていると、友理香の言葉が愛梨の意表を突いた。
「一緒にいて楽しいなら、友達だって同じでしょ? でも恋してないと、ドキドキはしないよ?」
「……」
確かにドキドキはする。
雪哉はいつも心臓に悪いから。
けれどドキドキすると言うのなら、弘翔にだって。
する、でしょ……――?
「私、雪哉と一緒にいるとすごくドキドキするんだ。仕事だけの関係だってわかってるけど、名前を呼ばれると嬉しくなっちゃうの」
「……。」
そうだ。弘翔が名前を呼んでくれると嬉しい。一緒に出掛けるのも楽しい。この前初めてくっついて寝たけれど、すごく安心できた。朝までぐっすりで、直前にあった恥ずかしい失敗を意識することもないぐらいに。
(……?)
何か。
気付いていけないことに気付いてしまった気がする。友理香が掘った鉱脈が、温泉を掘り当ててしまったような。そんな。
「雪哉も同じだよ」
友理香に言われて、はっと意識が戻ってくる。湧き出た温泉の温度が高すぎたのか、また顔が熱くなっている気がしたが、思ったより表情には出ていなかったらしい。友理香は愛梨の内心には気付かなかった。
友理香を妹みたいだと感じたのは、社会人経験者として先輩だったからにすぎない。にこりと微笑んだ友理香は、恋愛経験者としては愛梨の数倍お姉さんだった。
「愛梨が傍にいると、雪哉はいつも楽しそうなの。この前のお昼休みも、通訳室で会った時も。愛梨が一緒にいるだけで雪哉の表情はいつもと全然違うんだ」
「そ、そうなんだ?」
「愛梨も、雪哉といると嬉しそうだよ?」
友理香の言い方に、表情筋が強張るのがわかった。上手く笑おうと思ったのに、今度はちっとも笑えていないことに自分でも気付いてしまう。
だからだろうか。厳重に蓋をして閉じ込めた筈の『約束』が、好奇心旺盛な友理香の探索によって発見されてしまったような心地を味わう。
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