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最終章 Side:愛梨
4話
しおりを挟むごく、とオレンジジュースを飲みながら、オープンラウンジのライトを見上げる。天井できらきらと光る小さな照明を見ていると、友理香の瞳が煌めく様子を思い出した。
(友理香ちゃん、ホント素直で純粋だな…)
振られてもまだ同じ人を好きでいられるなんて。自分だったらとっくに心が折れて、別の恋を探してしまいそうだ。
(発想が若いのかな…)
それに講習会の話ひとつとっても、みなぎる活力の質が違う気がする。とはいえ友理香との年齢は1つしか変わらないので、すぐに元々の潜在能力の違いなのだと気付く。あるいは遺伝子。
結局遺伝子なのかな、と思うと、脳裏に雪哉を褒める母の顔が浮かんだ。自力ではどうしようもない現実を見た気がして、ちょっと笑ってしまう。
「楽しそうだね、愛梨」
「わ、ユキ!? びっくりした…」
「なんかいい事あった?」
休憩していたところを、雪哉に見つかってしまう。だが愛梨はサボってだらけていた訳ではなく、臨時のシステムアップデートがあるためパソコンでの作業が出来ず強制的に休憩時間に入れられただけだ。ラウンジには愛梨以外にもマーケティング部の人たちがたくさんいて、各々束の間の休息を満喫しているところだった。
「ううん。何にもないよ」
雪哉に顔を覗かれて、ふるふると首を振る。どうやら雪哉も水分を求めて、自販機が並ぶこの場所まで足を運んできたようだ。その手にはお茶のペットボトルが握られている。
(恋する表情……か)
さり気なく隣に並んできた雪哉の横顔を眺めていると、ふと友理香に言われた言葉を思い出した。愛梨は雪哉といると嬉しそうだと言われた。雪哉も愛梨といると楽しそうだと言っていたけれど。
(うーん、全然わかんないなぁ)
観察してみても、考えてみてもわからない。雪哉が見せる表情が、愛梨と他とで違うことは想像できる。とはいえ、仕事中は他人が見てあからさまに違いが判るほどの変化を醸し出している訳ではないと思う。
逆に愛梨の表情は、雪哉と他の人での差異など一切ないと思う。弘翔と他の人に見せる表情が異なるならば、ともかく。
考え事をしながらもう1度雪哉の顔を見ると、にこりと微笑まれてしまった。
「……。」
表情はともかく、性格は変わったと思う。
雪哉いわく、口にしていなかっただけで昔から考え方は変わっていないらしいが、そんなことはない。昔の雪哉はもっと物静かで、愛梨の悪戯に簡単に引っかかってくれるほど純朴で健気だった。愛梨を困らせるような言葉をさらっと言うような大人になるとは思えない程、見た目も仕草も可愛いらしい子猫そのものだったのに……
「!?」
そんな事を考えていると、誰からも見えない位置なのを良い事に突然雪哉に手を握られた。指の間にするりと指が入り込み、まるで恋人同士のように指を絡めて繋がれて、思わず手を引っ込めてしまう。
一瞬かつ突然の触れ合いに驚いて顔を上げると、目が合った雪哉が再び笑顔を作る。そうやってまた、愛梨を恋の罠にかけようとする。
『愛梨』と名前を呼びながら並んで歩いて、川辺や公園で一緒に遊んでいたときの雪哉とは全然違う。友理香が言っていた『表情が違う雪哉』に気付いてしまい、誤魔化すように口を開く。
「ユキ、私がこの前言ったこと、全然わかってないよね?」
友理香が愛梨を困らせる事件が発生してしまったせいで忘れていたが、愛梨は先日、冷たい言葉で雪哉を突き放した。『もう連絡しないで』『弘翔に不快な思いをさせる』と酷い言葉をかけた。それに『約束を無効にしたらどうか』と一方的な提案までした。
それらは全て弘翔との関係を壊したくない一心で吐き出した言葉だが、雪哉には不思議な程に動じた様子がない。
「ちゃんとわかってる。まぁ、聞くつもりはないけど」
「……」
いやいや、そんな満面の笑顔で言われても。聞いてよ。
でもそう言ってもどうせ受け流されてしまうんだろうな、と気付いてしまう。雪哉は少し、愛梨に対する意地悪が好きなようだから。
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