約束 〜幼馴染みの甘い執愛〜

紺乃 藍

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最終章 Side:愛梨

8話

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「じゃあ、別れたんだ」
「う…ん。一応……」

 玲子の訊ね方があまりにもストレートで、つい言葉に詰まってしまう。

 経緯はどうあれ、愛梨は弘翔に振られた立場になる。それなりに傷付いているのだからあまり直球な表現は慎んでもらいたいと思っていたのに、玲子には容赦がなかった。

「もしかして、もう私から弘翔に連絡しちゃいけない…?」
「愛梨がしたいなら、すればいいんじゃないの?」

 今まではほぼ毎日のように、就寝起床の挨拶や他愛のない雑談をメッセージでやり取りしていた。その気軽さが失われ、鳴らないスマートフォンを見つめ続ける行動は数日で飽きてしまった。弘翔と付き合う3か月前の自分は、1人の時間を一体何をして過ごしていたのだろうと思うほどに。

「ま、せっかくの機会なんだから、河上さんとちゃんと話したら?」
「う……」

 玲子の提案に思わず呻き声が出る。弘翔と付き合っている期間に資料室でキスされたことは、玲子が相手でも流石に言えていなかったが、それ以外は全て報告して相談している。玲子は以前と同じように『話せば自分の本当の気持ちがわかるかもよ?』と微笑む。

 それは愛梨も、わかっている。自分の本当の気持ちと向き合うために、弘翔は愛梨を自由にしてくれた。だからいずれは雪哉とちゃんと話をして、自分の心を見極めなければいけないと思う。

 けれど雪哉の言動はいちいち心臓に悪くて、心の準備をしなければまともに話し合うことさえ出来ない。過度の緊張状態を強いられる事を考えたら、やっぱりもう少し時間が必要だと思ってしまう訳で。

「玲子さま! 私どうしたらいいの…!」

 愛梨は恋愛相談窓口で担当者の名前を叫んだが、

「とりあえず私の作業の邪魔するの、今すぐ止めてくれる?」

 と凄まれてしまっては『…ハイ』と力なく頷くしかない。



 残業の玲子を残して、1人会社を出る。

 弘翔は同じ課の人たちと飲み会らしい。まだ週末じゃないのに随分元気だなぁと思ったが、仮に飲み会がなかったとしても、もう一緒に帰る理由はなくなってしまった。

「あー、雨かー…」

 考えただけで気持ちが沈むのに、外に出ると日が落ちた暗い空からポツポツと雫が落ちていることに気付いた。天気予報は見てこなかったが、先程まで降っていたなかったことを考えると雨足はこれから更に強まると思われる。

 はぁ、と深い溜息をついたところで、後ろから声を掛けられた。

「愛梨?」

 顔を上げて振り返ると、雪哉が不思議そうな顔をして佇んでいる。まだ広げていない傘を手にしているところを見ると、雪哉も仕事が終わって帰宅するところらしい。

「もしかして、傘ないの?」
「あ、うん。まぁ……駅まで走ればいいかなって」

 後頭部を掻きながら答えると、雪哉は驚きで目を見開いた後、今度は呆れたような表情を浮かべた。けれど手にしていた傘を広げているうちに、呆れた表情は穏やかな笑顔に変化する。

「ほんと昔からそういうとこ大胆だな。ほら、入って」

 昔の事を思い出して笑った雪哉の台詞の後ろには、愛梨を同じ傘の中へ誘う言葉がくっついていた。

「えっ…。でもユキ、駅使わないよね?」

 以前愛梨の残業と雪哉の仕事が重なってここで別れた時、雪哉は愛梨と反対の方向に歩いていた。だから駅は使わない筈だし、反対方向ならわざわざ送ってくれなくてもいいのに。

「あぁ、路線が違うんだ。俺も普通に電車通勤だよ」
「それじゃ尚更、遠くなっちゃうじゃん。別に私の事は気にしなくていいよ?」

 会社近くの別の駅を使うなら、愛梨が使う路線とは重複しない筈だ。それなら愛梨を送った後にまたここまで戻ってくるか、かなり遠い駅で乗り換える必要がある。そんな面倒な事はしなくてもいいと首を振るが、雪哉は笑って誤魔化すだけだ。

「降りた駅から愛梨の家までは近いの?」
「え、どうかな……? 歩いて10分は近い?」

 走ったりコンビニに寄ったりするので時間はまちまちだが、歩いてまっすぐ帰るとおよそ10分。聞かれた質問に答えると、雪哉の眉間に静かに皺が寄った。

「まさか10分も雨に濡れるつもり?」
「大丈夫だよ……って、ユキ!?」

 雪哉は愛梨の肩をぐっと抱き寄せて傘の中に身体ごと引き込むと、そのまま歩き出してしまう。愛梨が利用する駅の方へ向けて。

「もおおぉ」

 一応抗議の声を上げてはみるが、雪哉はくすくすと楽しそうに笑うだけだ。こうやって人の話は聞かないし、強引だし、言動が心臓に悪いから愛梨は困っていると言うのに。

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