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最終章 Side:愛梨
18話
しおりを挟む男として見れないわけじゃない。それどころか、雪哉は15年もの長い間、愛梨の恋心の全てだった。雪哉だけを思い続け、他のどんな男性も目に入らなかった。だから、雪哉を男として見れないわけではない。けれど。
「……ユキは私を、置いていくから」
けれどやっぱり簡単には頷けない。雪哉の告白に頷けば、また15年前のあの日に戻ってしまう気がする。『好きだ』と言われて『私も好き』と答えたら、『待ってて』と言われて『待ってる』と答えたあの日と同じく、雪哉が突然目の前から消えてしまう気がする。
急にアメリカに帰らなきゃ行けなくなったんだ、と言って、愛梨にキスを1つ残してまた15年会えない気がしてしまう。
「ユキは傍にいてくれないから……。待ち続けるのは、もういやだから…」
ぽつりぽつりと呟くのは15年の時間の長さ。そしてその歳月を乗り越えられなかった弱い心。愛梨は雪哉を待てなかった、寂しさに耐えられなかった。
そしてきっと、次も耐えられない。だから雪哉の想いには応えられない、と素直じゃない台詞を舌の奥まで持ってくる。
「確かに寂しい思いをさせたと思う」
けれど雪哉は、愛梨にその台詞を言わせなかった。約束に向かって続いていた時間のレールから脱線した愛梨の寂しさを認めた上で、未来の不安を掬い取る。
「でも、もうどこにも行かない。愛梨の傍にいる。……もしどこかに行くとしたら、今度は愛梨を連れていくから」
もう同じ時間は繰り返さない。置いて行かないし、長い時間待たせない。そんな事をするぐらいなら、連れ去ってでも傍に置く。
そう言って熱い視線が愛梨の拒否を奪う。その瞳に『もう逃がさない』と言われている気分になって、また心臓が早鐘を打つ。
「で、でも私、一方的にユキとの約束破ったんだよ? 待ってるって約束して、結局待っていられなかったのに、いまさらユキを選ぶなんて……」
それは雪哉を裏切ったのと同じ。それを許して欲しいだなんて、虫が良すぎると思うのに。
「約束を破ったのは俺も同じだ。資料室で無理矢理キスして、愛梨を泣かせたから」
自嘲気味に笑うその表情さえもどこか色っぽくて、雪哉が言う『資料室でのキス』をつい思い出してしまう。無理矢理押さえつけられ、逃げ道を塞がれ、唇を重ねられた。抵抗しても止めてくれなかった。その行為は確かに乱暴だったけれど、雪哉はあの時から本気だった。
本気で愛梨を、欲していた。
その時の雪哉の表情を、目の前の雪哉からも見つけてしまい、また顔が熱を持っていることに自分でも気付く。
雪哉はいつも戸惑うほど、絶句するほど、心臓が破裂してしまいそうなほどに愛梨を振り回す。思わず身体を離して距離を取るが、開いた距離と同じ分だけ雪哉が近付いてきて、また瞳を覗き込まれてしまった。
「そっ、それに……私、まだ弘翔と別れてから1週間しか経ってないし…!」
「……」
「あとユキはちょっと激しいというか……私、ユキの愛情表現についていける自信なくて……」
1つ1つちゃんと考えて、真剣に向き合っていこうと思っていた問題を、つい一気にすべて吐き出してしまう。けれど間を埋めるために並べた愛梨の言葉は、1つ1つ綺麗に否定されていく。
「愛梨は泉さんと別れてから日数経ってないのを気にしてるんだな。でも気持ちに整理がつくまで待ってて、考えた結果ヨリ戻すとか言われたら腹立つから……俺は1日も待つつもりはない。愛情表現が過剰なのは……まぁ、諦めて」
「!?」
「それから? 他にも何かある?」
また強引に。
雪哉の気持ちを受け入れるために愛梨が越えなければならない課題など、大した問題ではないように言われてしまう。そして本当は情熱的に愛の言葉を囁かれて、嬉しいと思っている愛梨の心を簡単に引っ張り上げてしまう。
「ないなら、ちゃんと俺の事が好きって言って」
まるでそれ以外の言葉は認めないと言うように、雪哉はじっと愛梨の瞳を見つめてくる。
「知ってるんだ。愛梨が俺をどう思ってるか。……でも愛梨から直接言って欲しい。俺の勘違いじゃないって、ちゃんと教えて欲しい」
その視線に捕えられ、雪哉を受け入れる事を引き延ばす言い訳が全て無駄になった。乗り越えなければいけない課題をクリアするまで『もう少し待ってもらおう』と思っていた悠長な考えがゆっくりと溶けていく。
15年も時間があったのに、今更悩んでいる時間は与えないと、雪哉はそっと愛梨を追い詰める。
「……ユキが、好き」
だからいくら言い訳を並べても、結局はその答えに辿り着いたのだと思う。自分でぽつりと口にした言葉にはっと顔を上げると、まるで雪哉が用意した罠に自分から引っかかったような気分になった。
「俺も愛梨が好きだ。昔から今もずっと、……愛梨だけ」
気恥ずかしい台詞から逃げようとした愛梨の腕を雪哉の手が掴まえる。そして強く抱き寄せると、晒された耳元にうんと甘さを含んだ低い声を注ぎ込まれる。
「もう愛梨を離さないし、離れないから」
耳元に吐息を感じて身体を強張らせる。身体の動きを失った代わりに、水を得た水車のように加速した鼓動の音と、雪哉の小さな笑い声が鼓膜まで届く。
そして肩を抱かれて顔の距離が近付くと、自然と唇が重なった。
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