1 / 4
序幕&第一幕
「おまえの牙にかかるなら、本望だぜ。」
しおりを挟む
序幕
オレが、あいつのこと、そこまで好きな理由?
きっかけは、アレだな。小四ときか。
え?生まれたときからの付き合いじゃなかったのかって?べつに、嘘ついてたわけじゃねーよ?出会った記憶がないくらいの幼馴染なのはホント。家、近所だし。いちおー、親戚だし。オレんち、あいつんちの分家筋だから。って、ああ、それは知ってるんだっけ?
はいはい、話進めますよ。
五月のさあ、風は爽やかだけど日射しはもう夏かってくらいの、よく晴れた日だった。
その日の三時間目が、運動会のリレー練習でさ。休み時間の終わり頃には、ぼちぼち学年全員が運動場に整列しだしてた。運動会練習ってさ、入退場とかは正直かったるいけど、競技自体は結構燃えるわけ。学級対抗の全員リレーなんて、すげえ盛り上がるの。
で、あいつは当然のように、アンカーだった。
ほら、クラスに一人はいるだろ?天才型つーの?特に一生懸命やってるわけでもねーのに、勉強も運動も、飛び抜けてよくできるヤツ。もともとの能力値が高いハイスペック。
だけど、その頃から、この世の全てがつまんねーって顔してたな。
べつに、嫌われてるわけじゃねーのに、滅多に誰とも口きかねーし。ボッチってより、孤高って感じ。そんな小学生いるかって?いたんだよ。
幼稚園に入る前から知ってたけど、オレとは違いすぎて、接点なんてほとんどなかった。
そのときも、あいつは、くだらない話でゲラゲラ笑ってるやつらに、視線さえ向けないで、ただ前を見ていた。立っているだけで、周囲とはまとう空気さえ違ってた。
「つーか、走順って、結構いい加減に決めたけど、だいじょーぶか?うちのクラス、一番速いやつアンカーで、二番手スターターにしただけで、あと適当じゃん?」
練習始まる直前に、そんなこと言っても仕方ないじゃんってことを、誰だったかが言い出して。
「いいんじゃねーの?1組なんて名簿順だってよ。走順覚えやすいよーにってさ。」
「へー。そーいや、名簿順ってさあ…。」
そこから、名前の話になっていって。
「おまえの名前って、女みてーだよな。」
と、オレにふられた。
げ、とオレは一瞬顔がひきつる。
結構気にしていることだ。だから、オレは、大抵のやつには苗字で呼んでくれって言っている。
人が気にしていること、そーやって、気軽にふるなよな、とは思う。思うが。
「そーなんだよ。幼稚園の頃とか、姫とかつけられてさあ、サイアク。ちょっと親恨むぜ。」
オレは、へらっと笑って、返していた。もう反射的。
だってさー、ここで怒っても空気悪くなるだけだし。相手も、そこまでの悪意はないってわかってる。
ただ、小学生の男子なんて、ホントガキだからさあ、人の痛みにゃドンカンなんだよな。そんで、だからこそ、残酷なイキモノなんだ。
だから、そんなのは、よくあること。きっと、オレも、無意識にそっち側だったことなんて、たくさんあるんだろう。そういう世界なんだって、思ってた。その瞬間まで。
周囲のやつらが遠慮なく派手に笑う。
「ああ、そりゃいいや。」
「おもしれー、似合うじゃん、姫。」
オレも一緒になって笑っていたら。
ドスン、ドスン、ドスンって。
急に、そいつらが、倒れるように、地面に尻餅をついていった。
「へ?」
何が起こったか、一瞬、誰にも…そいつら自身にもわかってなかったと思う。
あいつが…火叢紅夜が、冷え切った声で、一言告げるまで
「目障りだ。」
氷のナイフで胸刺されたら、こんな感じじゃないかっていう声。
綺麗に澄んで、でも、一切の容赦がない声だった。
オレは、そこで、ようやく、紅がそいつらに、鮮やかに足払いを喰らわせたことに気づいた。地面に転がったやつらは、何が何だかわかってないって感じで、喧嘩に発展するどころか、誰も文句さえ言えない状態だった。
紅は、すっと、一瞬だけ、オレに視線を流した。
あの時の衝撃は、なんて言ったらいいんだろう。
心臓をわしづかみにされたみたいな、電流が体中に奔ったみたいな。ホントに一瞬だったのに。
その後、すぐにチャイムが鳴って、先生たちも集まって、リレー練習が始まったから、結局、オレはあいつに何も言っていないんだけど。
紅は、最下位でバトンを受け取ったにも関わらず、前の走者を次々抜いて、あっさり一位でゴールした。風になびく黒髪と、赤いはちまきの色が、ひどく鮮やかに目に焼き付いている。
背中に翼でも生えているんじゃないかっていうスピードで駆けて行くあいつの背中を見ながら、オレは、勝手に決めた。
こいつは、オレとは全然違う。
和を乱すことなんて、何とも思っていないから、全部、自分の思い通りに行動できる。一人で何でもできる。一人で生きていける。
でも、もしも、紅に助けが必要になるときが来たら、その時は。
オレは、何を犠牲にしてでも、命を懸けてでも、紅に手を差し伸べようって。
そのために、オレは、ずっとずっと、紅の隣にいようって。
オレは、あの時、誓ったんだ。
第一幕
都会の喧騒から遠く離れた山奥のキャンプ場。
少し前まではしゃいでいた子どもたちも、昼間の疲れが出たのか、眠りに落ちたようだ。どのテントもしん、と静まりかえっている。それを確かめた教師たちも引き上げていった。
静寂の中、紅夜は、す、と身を起こす。
光を遮ったテントの中だが、今の彼の目は特別だった。昼間と変わらずに…否、陽光の下よりもはっきりと、全てを見通すことができる。
紅夜は、肩が触れるほど近くで眠っていた友達の寝顔を見下ろす。
起きているときよりも幼く見える、無邪気な寝顔だ。穏やかな寝息。
紅夜の目が、妖しく輝いた。
飢えた獣が、獲物を前にしたときの、獰猛な目。それでいて、見る者を虜にする妖艶さを帯びている。
十かそこらの子どもにできる目つきではなかった。
紅夜は、ぐっすり眠っている少年に覆いかぶさるようにして、その首筋に唇を寄せる。
触れる寸前で。
「…紅…」
少年が小さく呟いた。
紅夜が、ハッと身を起こす。
驚愕に見開かれた双眸。
しかし、少年が目覚める気配はない。
紅夜は目を閉じた。
「…雪…。」
唇の動きだけで友を呼ぶ。
「白雪」という本名を苦手にしている友が、紅夜にだけ許した愛称。
紅夜は、何かを振り切るように、首を振り、音もなくテントから出て行った。
再びの、静寂。
☆
(なんか…寒い…?)
ふっと目が覚めたのは、肩からぬくもりが失われたためだった。
七月の上旬とはいえ、山の夜は冷える。長袖でも肌寒いくらいだった。
無意識に伸ばした手に、触れるものがない。そこで眠っているはずの友人が。
手さぐりで懐中電灯を探し当て、照らしてみる。
「…れ…?紅…?」
隣で眠っているはずの紅夜がいない。トイレかなと思い、しばらく待ったが、戻って来る気配がない。
テントを出たのは、嫌な予感がしたからだ。
いわゆる、虫の知らせというやつで…白雪のそれは、実によく当たった。
(ここ、最初から嫌な感じ、ビンビンしてたもんなあ…。)
山の中だから、空気は澄んでいる。風が葉を揺らす音。小川のせせらぎ。濃い緑のにおい。土のにおい。明るい月光が、行く先を照らしている。
五感は山特有の清浄さを感じ取るのに、もう一つの…最後の、第六感が告げるのだ。
この地に染み込んだ穢れを、淀みを、濁りを。
『おまえは、分家には珍しく、力が強いようだな。だから、直感が、まずい場所だと感じたら、すぐに離れることだ。そこには、何かがいる。人外のモノたちがな。』
(いやいや、じいさま。ここ、なんか嫌な感じがするから帰りますーって、キャンプ中止にして帰るとか無理だから。学校行事だから!)
本家の先代からの忠告はありがたいが、実行できるときとできないときがあるのだと、白雪は胸の内でぼやいた。
むきだしの木の根に、つまずかないように気をつけて進む。
向かうべき場所は、わかっていた。
不吉な、不穏な気配の源へ。
ぽっかりと開けた場所。
数時間前にキャンプファイヤーをした広場だ。
燃え残りの薪も、すっかり撤去された、その中心に。
白雪の探す相手はいた。
「っ!…。」
息を呑んで、見つめる。
とっさには、声すら出なかった。
見惚れるほど凄艶で、全身総毛立つほど恐ろしい光景だった。
真紅の血をまとって立つ、紅夜の姿は。
もともと、近寄り難いほどの美貌の少年だ。
光の輪が浮かぶ、艶のある黒髪。すべらかな白皙の肌。俊敏さをうかがわせる、すらりとした肢体。
眼光が鋭すぎて、美少年という言葉は似合わない。繊細さや脆弱さとは真逆の、他者を威圧する華麗さ。
その、紅夜の瞳が。
血赤珊瑚の色をしていた。
全身にまとう鮮血と同じ…否、それよりも鮮やかな、最高級のルビー。
月明かりの下でさえ、これほど鮮やかなら、陽の光を浴びたなら、目も眩むほどの真紅だろう。
「紅、おまえ、けが…。」
白雪が、ようやく言えたのは、それだけだった。
紅夜は、白い頬から鮮血が滴り落ちるのに構わず、いともあっさり言う。
「返り血だ。」
「か、返り血って、おまえ…。」
現代日本に生きてて、そんな言葉使う機会があるやつなんか、滅多にいねーよ、といつもの調子で返したかったが、さすがに無理だった。
紅夜の周辺に転がる骸。
大地を真っ赤に染めるほどの流血。血のにおいは、吐き気をもよおすほどに濃い。一目で、既に命はないのだと知れる。
そして、その骸は、人ではなかった。
ゆうに二メートルを超える巨躯。異様に発達した筋肉。カッと見開かれたまま息絶えているその目には、白目はない。耳まで裂けた口。そこからのぞく牙。そして、両のこめかみから伸びる角。
紅夜は、膝をついた。鬼の骸の一つに手をかけ、その首筋にかがみこむ。
「やめろっ!」
白雪は、反射的に、紅夜の両肩をつかんでいた。
わかってしまったのだ。紅夜が何をしようとしているのか。友が犯そうとする禁忌を。
「離せ。」
紅夜の声は、白雪の肌が粟立つほど冷たく、非情だった。
本能的に従いそうになりながらも、白雪は必死で踏みとどまる。
「だめだ!こんなの口にしたら、おまえ…おまえは…。」
「喉が渇いている。」
その鮮血の瞳に、獣じみた光がある。飢えた獣の凶暴さで、紅夜はそう言った。
「でも、だめだ。そんな…。」
泣きそうに顔を歪めた白雪に、紅夜は、ふ、と唇だけで笑む。冷酷な嘲笑だった。
犬歯というには鋭利に過ぎる、二本の牙がのぞく。
「だったら、おまえの血を寄越せ。」
できないだろう、とその赤い目が告げていた。
白雪は目を見開き、すぐに微笑んだ。
「わかった。」
「!?」
今度は、紅夜が瞠目する番だった。
声を失う紅夜に、白雪は、くすっと浮かべた笑みを、より明るいものへと変える。
(おまえが驚くのって、めずらしいじゃん。)
そんな状況じゃないのに、おもしろくなってくる。
白雪は、羽織っているジャージを脱いだ。中に着ているのはTシャツで、首筋の肌は出ているから、問題ないよな、と考える。
「…雪…おまえ、どうして…。」
紅夜が、かすれた声で呟く。
抗いがたい飢餓感に、薄れる理性を、必死でかき集めて。
白雪は、気負いなく告げる。いつも通りの、軽やかで屈託のない声。
「だって友達じゃん、オレたち。」
「!…。」
紅夜は、刹那、完全に呼吸を止め、笑う。さっきの、絶対零度の氷の笑みではなく、痛みをこらえるように。
「…馬鹿だな、おまえは。後悔するぞ?」
「そーか?ここで見なかったことにする方が、よっぽど後悔するわ。」
紅夜は、もう何も言わなかった。
限界だった。
意識が遠のくほどの、喉の渇き。それを潤す甘露が、目の前にある。
白雪は、間近に迫る赤い瞳が、濡れたように光るのを、ただ見返す。
生への欲望。
紅夜が、白雪の両肩を強くつかむ。
爪が食い込む。
白雪は、無言で耐える。
首筋に、紅夜の吐息がかかる。
かすかに甘くて、はっきりと熱い。
首筋を食んだ紅夜の唇は、柔らかかった。
けれど、次の瞬間、錐を差しこまれたような激痛。
白雪は、歯を喰いしばった。
うめき声一つ立てない。
吸い上げられる。
血を。
生命の源を。
心臓が早鐘を打つ。
どくどくと、首筋の脈動を感じる。
ふっと、全てが闇に沈む。
意識を手放す寸前。
紅夜の腕に抱き留められた。
☆
喉を通っていく白雪の血は、紅夜にとって、極上の蜜。
全身に行きわたって、細胞の全てを潤し、満たす。
このまま、吸い尽くしたいという欲望を、紅夜は意志の力でねじふせた。
崩れ落ちる白雪の体を支え、牙を抜く。
つうっと、白雪の首筋に伝わった血は、舌で舐めとった。
弛緩しきった白雪の体を、紅夜は抱きしめる。
耳もとにささやいた。聞こえていないと知りつつ。
「…おまえは、本当に馬鹿だ…!」
紅く濡れた唇で。
パキン、とごく小さな音がした。
視線を向けるまでもなく、紅夜は気づいていた。近づいて来る気配に。
「…手遅れでしたか。」
苦いものを含んだ声音。
仕立てのよい、オーダーメイドかブランドものとおぼしきスーツに、革靴。こんな山奥には不自然すぎる出で立ち。細面の優男だが、ノンフレームの眼鏡の奥の眼には、隙がない。
「…共鳴しましたね。この山の瘴気に。…しかたありません。」
男は、ふう、とため息を吐き出し、その一瞬で気持ちを切り替え…否、何かを切り捨てたようだった。
「こんばんは、初めまして。火叢紅夜くん。私、こういうモノでして。」
と、取り出して見せたのは、警察手帳。刑事ドラマのワンシーンよりもよほどあっさりと、悪く言えば雑に広げる。
記された階級は、警部。氏名には、土御門陵とある。
紅夜は、無言のまま、かすかに目を細めた。警戒しているのか、馬鹿にしているのか、その表情からは読み取れない。男は気にした風もなく、淀みなく話す。
「土御門には聞き覚えがありますか?キミと同じく、私も陰陽師の血筋です。どうして陰陽師が警察って思ってます?実は、公安には、霊的案件を取り扱う部署があります。明治になって廃された陰陽寮が、紆余曲折の末、そこに落ち着きまて。」
陵は、警察手帳をしまい、続ける。
「もちろん、表向きは存在しない部署です。怨霊も鬼も妖怪も、現代では架空の存在。いないことになっていますからね。でも、そうではないことを、キミは知っていますね?」
と、陵は、紅夜の周囲に散らばる鬼の骸にちらりと視線を流した。
それから、紅夜自身に。
瞳は鮮烈な紅、鋭く光る二本の牙、朱を佩いた唇。
「年間、行方不明者の届け出は、8万人以上。そのうち数百から数千人は、結局足取りがつかめません。彼らのうちの、さらに何割かは、異形のものたちの犠牲になっています。私たち、公安第零課の職務は、人に仇為す異形の駆除です。そして、パニックを避けるための、異形の存在の秘匿。ここで、困ったことが一つあるんですよねえ。」
陵は、にこ、と口角を引き上げる。
「その職務内容には、特殊な技能が求められるために、公安第零課は、慢性的に人手不足なんです。優秀な人材は、手元に置いて、育てたい。ここで、キミに提案です。火叢紅夜くん。キミ、私のスカウトに応じる気はありませんか?」
「オレに何の得がある?」
ここでようやく、紅夜が声を発した。
初対面の、得体のしれない、かつ、権力を持った大人に対して、臆する気配の欠片もなく。不遜で計算高く、冷徹な眼差しで、陵を見ている。十かそこらの子どもがするには、あまりに冷たい目だった。
しかし、陵も、相当の修羅場をくぐってきた身だ。表面上は動じない。
「いろいろありますよ。そう、たとえば…今、キミの周囲に転がっているモノの始末をこちらで引き受け。」
「カン!」
陵の言葉を遮り、紅夜が叫んだのは、不動明王一字呪。簡略した真言だが、効果は絶大だった。
一瞬で燃え広がった炎が、鬼の骸を焼き払う。
火の粉を巻き上げ、赤々と燃える火炎が、周囲を真昼の明るさで照らす。
朱金の火を映し、紅緋の双眸は、なおいっそう鮮やかに浮かび上がる。
「…なるほど。」
と、陵は、詰めていた息を吐いた。
「さすがは、中央にまでその名を轟かす、火叢の直系、というところですか。」
(末恐ろしい…これは、何としても、こちら側に。…やれやれ。切り札は、まだとっておきたかったのですが、そうはいかないようです。)
「では、キミの中の鬼を、封じて差し上げましょう。」
陵が、紅夜の腕の中の白雪を指す。
「その子の血を欲する衝動を。」
「!」
初めて、紅夜の表情が年相応の少年のものになった。
おそらく無意識に、白雪に視線を落とす。
白く細い首筋。そこに自らが穿った、二つの穴を。
紅夜は、友を抱える腕に力をこめる。
しかし、顔を上げた表情は、もう不敵で傲慢なものに戻っていた。
「いいだろう。取引に応じてやる。」
オレが、あいつのこと、そこまで好きな理由?
きっかけは、アレだな。小四ときか。
え?生まれたときからの付き合いじゃなかったのかって?べつに、嘘ついてたわけじゃねーよ?出会った記憶がないくらいの幼馴染なのはホント。家、近所だし。いちおー、親戚だし。オレんち、あいつんちの分家筋だから。って、ああ、それは知ってるんだっけ?
はいはい、話進めますよ。
五月のさあ、風は爽やかだけど日射しはもう夏かってくらいの、よく晴れた日だった。
その日の三時間目が、運動会のリレー練習でさ。休み時間の終わり頃には、ぼちぼち学年全員が運動場に整列しだしてた。運動会練習ってさ、入退場とかは正直かったるいけど、競技自体は結構燃えるわけ。学級対抗の全員リレーなんて、すげえ盛り上がるの。
で、あいつは当然のように、アンカーだった。
ほら、クラスに一人はいるだろ?天才型つーの?特に一生懸命やってるわけでもねーのに、勉強も運動も、飛び抜けてよくできるヤツ。もともとの能力値が高いハイスペック。
だけど、その頃から、この世の全てがつまんねーって顔してたな。
べつに、嫌われてるわけじゃねーのに、滅多に誰とも口きかねーし。ボッチってより、孤高って感じ。そんな小学生いるかって?いたんだよ。
幼稚園に入る前から知ってたけど、オレとは違いすぎて、接点なんてほとんどなかった。
そのときも、あいつは、くだらない話でゲラゲラ笑ってるやつらに、視線さえ向けないで、ただ前を見ていた。立っているだけで、周囲とはまとう空気さえ違ってた。
「つーか、走順って、結構いい加減に決めたけど、だいじょーぶか?うちのクラス、一番速いやつアンカーで、二番手スターターにしただけで、あと適当じゃん?」
練習始まる直前に、そんなこと言っても仕方ないじゃんってことを、誰だったかが言い出して。
「いいんじゃねーの?1組なんて名簿順だってよ。走順覚えやすいよーにってさ。」
「へー。そーいや、名簿順ってさあ…。」
そこから、名前の話になっていって。
「おまえの名前って、女みてーだよな。」
と、オレにふられた。
げ、とオレは一瞬顔がひきつる。
結構気にしていることだ。だから、オレは、大抵のやつには苗字で呼んでくれって言っている。
人が気にしていること、そーやって、気軽にふるなよな、とは思う。思うが。
「そーなんだよ。幼稚園の頃とか、姫とかつけられてさあ、サイアク。ちょっと親恨むぜ。」
オレは、へらっと笑って、返していた。もう反射的。
だってさー、ここで怒っても空気悪くなるだけだし。相手も、そこまでの悪意はないってわかってる。
ただ、小学生の男子なんて、ホントガキだからさあ、人の痛みにゃドンカンなんだよな。そんで、だからこそ、残酷なイキモノなんだ。
だから、そんなのは、よくあること。きっと、オレも、無意識にそっち側だったことなんて、たくさんあるんだろう。そういう世界なんだって、思ってた。その瞬間まで。
周囲のやつらが遠慮なく派手に笑う。
「ああ、そりゃいいや。」
「おもしれー、似合うじゃん、姫。」
オレも一緒になって笑っていたら。
ドスン、ドスン、ドスンって。
急に、そいつらが、倒れるように、地面に尻餅をついていった。
「へ?」
何が起こったか、一瞬、誰にも…そいつら自身にもわかってなかったと思う。
あいつが…火叢紅夜が、冷え切った声で、一言告げるまで
「目障りだ。」
氷のナイフで胸刺されたら、こんな感じじゃないかっていう声。
綺麗に澄んで、でも、一切の容赦がない声だった。
オレは、そこで、ようやく、紅がそいつらに、鮮やかに足払いを喰らわせたことに気づいた。地面に転がったやつらは、何が何だかわかってないって感じで、喧嘩に発展するどころか、誰も文句さえ言えない状態だった。
紅は、すっと、一瞬だけ、オレに視線を流した。
あの時の衝撃は、なんて言ったらいいんだろう。
心臓をわしづかみにされたみたいな、電流が体中に奔ったみたいな。ホントに一瞬だったのに。
その後、すぐにチャイムが鳴って、先生たちも集まって、リレー練習が始まったから、結局、オレはあいつに何も言っていないんだけど。
紅は、最下位でバトンを受け取ったにも関わらず、前の走者を次々抜いて、あっさり一位でゴールした。風になびく黒髪と、赤いはちまきの色が、ひどく鮮やかに目に焼き付いている。
背中に翼でも生えているんじゃないかっていうスピードで駆けて行くあいつの背中を見ながら、オレは、勝手に決めた。
こいつは、オレとは全然違う。
和を乱すことなんて、何とも思っていないから、全部、自分の思い通りに行動できる。一人で何でもできる。一人で生きていける。
でも、もしも、紅に助けが必要になるときが来たら、その時は。
オレは、何を犠牲にしてでも、命を懸けてでも、紅に手を差し伸べようって。
そのために、オレは、ずっとずっと、紅の隣にいようって。
オレは、あの時、誓ったんだ。
第一幕
都会の喧騒から遠く離れた山奥のキャンプ場。
少し前まではしゃいでいた子どもたちも、昼間の疲れが出たのか、眠りに落ちたようだ。どのテントもしん、と静まりかえっている。それを確かめた教師たちも引き上げていった。
静寂の中、紅夜は、す、と身を起こす。
光を遮ったテントの中だが、今の彼の目は特別だった。昼間と変わらずに…否、陽光の下よりもはっきりと、全てを見通すことができる。
紅夜は、肩が触れるほど近くで眠っていた友達の寝顔を見下ろす。
起きているときよりも幼く見える、無邪気な寝顔だ。穏やかな寝息。
紅夜の目が、妖しく輝いた。
飢えた獣が、獲物を前にしたときの、獰猛な目。それでいて、見る者を虜にする妖艶さを帯びている。
十かそこらの子どもにできる目つきではなかった。
紅夜は、ぐっすり眠っている少年に覆いかぶさるようにして、その首筋に唇を寄せる。
触れる寸前で。
「…紅…」
少年が小さく呟いた。
紅夜が、ハッと身を起こす。
驚愕に見開かれた双眸。
しかし、少年が目覚める気配はない。
紅夜は目を閉じた。
「…雪…。」
唇の動きだけで友を呼ぶ。
「白雪」という本名を苦手にしている友が、紅夜にだけ許した愛称。
紅夜は、何かを振り切るように、首を振り、音もなくテントから出て行った。
再びの、静寂。
☆
(なんか…寒い…?)
ふっと目が覚めたのは、肩からぬくもりが失われたためだった。
七月の上旬とはいえ、山の夜は冷える。長袖でも肌寒いくらいだった。
無意識に伸ばした手に、触れるものがない。そこで眠っているはずの友人が。
手さぐりで懐中電灯を探し当て、照らしてみる。
「…れ…?紅…?」
隣で眠っているはずの紅夜がいない。トイレかなと思い、しばらく待ったが、戻って来る気配がない。
テントを出たのは、嫌な予感がしたからだ。
いわゆる、虫の知らせというやつで…白雪のそれは、実によく当たった。
(ここ、最初から嫌な感じ、ビンビンしてたもんなあ…。)
山の中だから、空気は澄んでいる。風が葉を揺らす音。小川のせせらぎ。濃い緑のにおい。土のにおい。明るい月光が、行く先を照らしている。
五感は山特有の清浄さを感じ取るのに、もう一つの…最後の、第六感が告げるのだ。
この地に染み込んだ穢れを、淀みを、濁りを。
『おまえは、分家には珍しく、力が強いようだな。だから、直感が、まずい場所だと感じたら、すぐに離れることだ。そこには、何かがいる。人外のモノたちがな。』
(いやいや、じいさま。ここ、なんか嫌な感じがするから帰りますーって、キャンプ中止にして帰るとか無理だから。学校行事だから!)
本家の先代からの忠告はありがたいが、実行できるときとできないときがあるのだと、白雪は胸の内でぼやいた。
むきだしの木の根に、つまずかないように気をつけて進む。
向かうべき場所は、わかっていた。
不吉な、不穏な気配の源へ。
ぽっかりと開けた場所。
数時間前にキャンプファイヤーをした広場だ。
燃え残りの薪も、すっかり撤去された、その中心に。
白雪の探す相手はいた。
「っ!…。」
息を呑んで、見つめる。
とっさには、声すら出なかった。
見惚れるほど凄艶で、全身総毛立つほど恐ろしい光景だった。
真紅の血をまとって立つ、紅夜の姿は。
もともと、近寄り難いほどの美貌の少年だ。
光の輪が浮かぶ、艶のある黒髪。すべらかな白皙の肌。俊敏さをうかがわせる、すらりとした肢体。
眼光が鋭すぎて、美少年という言葉は似合わない。繊細さや脆弱さとは真逆の、他者を威圧する華麗さ。
その、紅夜の瞳が。
血赤珊瑚の色をしていた。
全身にまとう鮮血と同じ…否、それよりも鮮やかな、最高級のルビー。
月明かりの下でさえ、これほど鮮やかなら、陽の光を浴びたなら、目も眩むほどの真紅だろう。
「紅、おまえ、けが…。」
白雪が、ようやく言えたのは、それだけだった。
紅夜は、白い頬から鮮血が滴り落ちるのに構わず、いともあっさり言う。
「返り血だ。」
「か、返り血って、おまえ…。」
現代日本に生きてて、そんな言葉使う機会があるやつなんか、滅多にいねーよ、といつもの調子で返したかったが、さすがに無理だった。
紅夜の周辺に転がる骸。
大地を真っ赤に染めるほどの流血。血のにおいは、吐き気をもよおすほどに濃い。一目で、既に命はないのだと知れる。
そして、その骸は、人ではなかった。
ゆうに二メートルを超える巨躯。異様に発達した筋肉。カッと見開かれたまま息絶えているその目には、白目はない。耳まで裂けた口。そこからのぞく牙。そして、両のこめかみから伸びる角。
紅夜は、膝をついた。鬼の骸の一つに手をかけ、その首筋にかがみこむ。
「やめろっ!」
白雪は、反射的に、紅夜の両肩をつかんでいた。
わかってしまったのだ。紅夜が何をしようとしているのか。友が犯そうとする禁忌を。
「離せ。」
紅夜の声は、白雪の肌が粟立つほど冷たく、非情だった。
本能的に従いそうになりながらも、白雪は必死で踏みとどまる。
「だめだ!こんなの口にしたら、おまえ…おまえは…。」
「喉が渇いている。」
その鮮血の瞳に、獣じみた光がある。飢えた獣の凶暴さで、紅夜はそう言った。
「でも、だめだ。そんな…。」
泣きそうに顔を歪めた白雪に、紅夜は、ふ、と唇だけで笑む。冷酷な嘲笑だった。
犬歯というには鋭利に過ぎる、二本の牙がのぞく。
「だったら、おまえの血を寄越せ。」
できないだろう、とその赤い目が告げていた。
白雪は目を見開き、すぐに微笑んだ。
「わかった。」
「!?」
今度は、紅夜が瞠目する番だった。
声を失う紅夜に、白雪は、くすっと浮かべた笑みを、より明るいものへと変える。
(おまえが驚くのって、めずらしいじゃん。)
そんな状況じゃないのに、おもしろくなってくる。
白雪は、羽織っているジャージを脱いだ。中に着ているのはTシャツで、首筋の肌は出ているから、問題ないよな、と考える。
「…雪…おまえ、どうして…。」
紅夜が、かすれた声で呟く。
抗いがたい飢餓感に、薄れる理性を、必死でかき集めて。
白雪は、気負いなく告げる。いつも通りの、軽やかで屈託のない声。
「だって友達じゃん、オレたち。」
「!…。」
紅夜は、刹那、完全に呼吸を止め、笑う。さっきの、絶対零度の氷の笑みではなく、痛みをこらえるように。
「…馬鹿だな、おまえは。後悔するぞ?」
「そーか?ここで見なかったことにする方が、よっぽど後悔するわ。」
紅夜は、もう何も言わなかった。
限界だった。
意識が遠のくほどの、喉の渇き。それを潤す甘露が、目の前にある。
白雪は、間近に迫る赤い瞳が、濡れたように光るのを、ただ見返す。
生への欲望。
紅夜が、白雪の両肩を強くつかむ。
爪が食い込む。
白雪は、無言で耐える。
首筋に、紅夜の吐息がかかる。
かすかに甘くて、はっきりと熱い。
首筋を食んだ紅夜の唇は、柔らかかった。
けれど、次の瞬間、錐を差しこまれたような激痛。
白雪は、歯を喰いしばった。
うめき声一つ立てない。
吸い上げられる。
血を。
生命の源を。
心臓が早鐘を打つ。
どくどくと、首筋の脈動を感じる。
ふっと、全てが闇に沈む。
意識を手放す寸前。
紅夜の腕に抱き留められた。
☆
喉を通っていく白雪の血は、紅夜にとって、極上の蜜。
全身に行きわたって、細胞の全てを潤し、満たす。
このまま、吸い尽くしたいという欲望を、紅夜は意志の力でねじふせた。
崩れ落ちる白雪の体を支え、牙を抜く。
つうっと、白雪の首筋に伝わった血は、舌で舐めとった。
弛緩しきった白雪の体を、紅夜は抱きしめる。
耳もとにささやいた。聞こえていないと知りつつ。
「…おまえは、本当に馬鹿だ…!」
紅く濡れた唇で。
パキン、とごく小さな音がした。
視線を向けるまでもなく、紅夜は気づいていた。近づいて来る気配に。
「…手遅れでしたか。」
苦いものを含んだ声音。
仕立てのよい、オーダーメイドかブランドものとおぼしきスーツに、革靴。こんな山奥には不自然すぎる出で立ち。細面の優男だが、ノンフレームの眼鏡の奥の眼には、隙がない。
「…共鳴しましたね。この山の瘴気に。…しかたありません。」
男は、ふう、とため息を吐き出し、その一瞬で気持ちを切り替え…否、何かを切り捨てたようだった。
「こんばんは、初めまして。火叢紅夜くん。私、こういうモノでして。」
と、取り出して見せたのは、警察手帳。刑事ドラマのワンシーンよりもよほどあっさりと、悪く言えば雑に広げる。
記された階級は、警部。氏名には、土御門陵とある。
紅夜は、無言のまま、かすかに目を細めた。警戒しているのか、馬鹿にしているのか、その表情からは読み取れない。男は気にした風もなく、淀みなく話す。
「土御門には聞き覚えがありますか?キミと同じく、私も陰陽師の血筋です。どうして陰陽師が警察って思ってます?実は、公安には、霊的案件を取り扱う部署があります。明治になって廃された陰陽寮が、紆余曲折の末、そこに落ち着きまて。」
陵は、警察手帳をしまい、続ける。
「もちろん、表向きは存在しない部署です。怨霊も鬼も妖怪も、現代では架空の存在。いないことになっていますからね。でも、そうではないことを、キミは知っていますね?」
と、陵は、紅夜の周囲に散らばる鬼の骸にちらりと視線を流した。
それから、紅夜自身に。
瞳は鮮烈な紅、鋭く光る二本の牙、朱を佩いた唇。
「年間、行方不明者の届け出は、8万人以上。そのうち数百から数千人は、結局足取りがつかめません。彼らのうちの、さらに何割かは、異形のものたちの犠牲になっています。私たち、公安第零課の職務は、人に仇為す異形の駆除です。そして、パニックを避けるための、異形の存在の秘匿。ここで、困ったことが一つあるんですよねえ。」
陵は、にこ、と口角を引き上げる。
「その職務内容には、特殊な技能が求められるために、公安第零課は、慢性的に人手不足なんです。優秀な人材は、手元に置いて、育てたい。ここで、キミに提案です。火叢紅夜くん。キミ、私のスカウトに応じる気はありませんか?」
「オレに何の得がある?」
ここでようやく、紅夜が声を発した。
初対面の、得体のしれない、かつ、権力を持った大人に対して、臆する気配の欠片もなく。不遜で計算高く、冷徹な眼差しで、陵を見ている。十かそこらの子どもがするには、あまりに冷たい目だった。
しかし、陵も、相当の修羅場をくぐってきた身だ。表面上は動じない。
「いろいろありますよ。そう、たとえば…今、キミの周囲に転がっているモノの始末をこちらで引き受け。」
「カン!」
陵の言葉を遮り、紅夜が叫んだのは、不動明王一字呪。簡略した真言だが、効果は絶大だった。
一瞬で燃え広がった炎が、鬼の骸を焼き払う。
火の粉を巻き上げ、赤々と燃える火炎が、周囲を真昼の明るさで照らす。
朱金の火を映し、紅緋の双眸は、なおいっそう鮮やかに浮かび上がる。
「…なるほど。」
と、陵は、詰めていた息を吐いた。
「さすがは、中央にまでその名を轟かす、火叢の直系、というところですか。」
(末恐ろしい…これは、何としても、こちら側に。…やれやれ。切り札は、まだとっておきたかったのですが、そうはいかないようです。)
「では、キミの中の鬼を、封じて差し上げましょう。」
陵が、紅夜の腕の中の白雪を指す。
「その子の血を欲する衝動を。」
「!」
初めて、紅夜の表情が年相応の少年のものになった。
おそらく無意識に、白雪に視線を落とす。
白く細い首筋。そこに自らが穿った、二つの穴を。
紅夜は、友を抱える腕に力をこめる。
しかし、顔を上げた表情は、もう不敵で傲慢なものに戻っていた。
「いいだろう。取引に応じてやる。」
0
あなたにおすすめの小説
勇者パーティーに追放された支援術士、実はとんでもない回復能力を持っていた~極めて幅広い回復術を生かしてなんでも屋で成り上がる~
名無し
ファンタジー
突如、幼馴染の【勇者】から追放処分を言い渡される【支援術士】のグレイス。確かになんでもできるが、中途半端で物足りないという理不尽な理由だった。
自分はパーティーの要として頑張ってきたから納得できないと食い下がるグレイスに対し、【勇者】はその代わりに【治癒術士】と【補助術士】を入れたのでもうお前は一切必要ないと宣言する。
もう一人の幼馴染である【魔術士】の少女を頼むと言い残し、グレイスはパーティーから立ち去ることに。
だが、グレイスの【支援術士】としての腕は【勇者】の想像を遥かに超えるものであり、ありとあらゆるものを回復する能力を秘めていた。
グレイスがその卓越した技術を生かし、【なんでも屋】で生計を立てて評判を高めていく一方、勇者パーティーはグレイスが去った影響で歯車が狂い始め、何をやっても上手くいかなくなる。
人脈を広げていったグレイスの周りにはいつしか賞賛する人々で溢れ、落ちぶれていく【勇者】とは対照的に地位や名声をどんどん高めていくのだった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる