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■第二章 闇を返す
第三話 女の武器
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きらびやかな黄金と黄水晶に彩られた黄晶宮の一番奥、そこには賢妃様の御殿があった。
かの御仁の父君はかつて西方からこの国に移住してきたのだという。
金髪の美しいお妃様はニコリと微笑んでうなずいた。
「ああ、インクね。それなら別に西方から取り寄せなくても大丈夫よ。こちらの墨でも色々種類があるもの。煤に膠を混ぜた物が墨だけど、代わりに糊や油、イカスミなんかもあったかしらね」
「「「へえ」」」
一同が感心するが、さすがは賢妃様である。名に違わず物知りだ。
さっそく私達は色々な材料の墨を用意し、書き味を試してみた。
賢妃様が持っていた羽根ペンもいただいている。
「あ、これがいい!」
松の煤に糊を混ぜたものが滲まずに線が書きやすい。
だが、この和紙のような紙にはすぐに引っかかってしまう。
「紙が問題だなぁ」
「ふん、いちいちワガママだな」
そう言われても破れては意味が無いのだ。
「紙は羊皮紙ならどうかしら。破れにくいわよ。持ってきて」
賢妃様が用意してくれた羊皮紙を試してみたが和紙よりは格段に滑らかだ。
さすがに現代の用紙には敵わないが、これならマンガが描けそう。
「やった! ありがとうございます、賢妃様」
「うふふ、いいのよ。陽陽くんがお気に入りの子ですもの、私もあなたに興味津々なの」
「はぁ」
そういう理由か。ま、いいけど。
「オホン、賢妃様、私が玲鈴を配下にしたのは、そのような理由ではありません」
「あら、じゃあ、どういう理由なの?」
「陰陽寮の宣託ですので」
「ふーん。陰陽寮ねえ。でも陽陽って占いは大嫌いだったはずでしょ」
「それとこれとは……オホン、それから、私の名前は陽翔と」
「はいはい。素直じゃないんだから」
面白くなさそうな陽翔はそっぽを向いてしまった。これは賢妃様と仲良くしておけば、いじめられないかも。よし!
「あの、賢妃様、お礼と言ってはなんですが、羽根ペンと羊皮紙のお礼に、賢妃様の似顔絵などを描いてお渡ししようかなと」
この人ならマンガ絵でも怒られないだろうし。
「あらぁ、嬉しいわ。ぜひお願い」
「賢妃様、それはいかがなものかと。重要人物の肖像画は専任の宮廷絵師が担当するのが通例、尚書省が――」
「んもう、これはそういう正式なものなんかじゃないわ。ただの子供のお遊びよ。お絵かき。ね、玲鈴」
「はい、賢妃様。ただのお絵かきですから」
私もニッコリ笑って話を合わせる。
「まあ、それなら良いですが、玲鈴、あまり小賢しいことを考えるなよ?」
「うっ」
見抜かれてる。
「もう、脅さないの。私に返礼するだけなんだから、普通のことでしょう。あれこれ裏を考えなくてもいいわ」
「分かりました。では私は他に用事がありますのでそろそろ失礼します。玲鈴、いくら賢妃様が気さくでお優しいと言っても節度は守れよ。相手は正一位、お前にとっては雲の上の存在だ」
「分かってますよ」
「だといいが……行くぞ、蒯正」
「はい」
「邪魔者がいなくなったわね」
賢妃様がウインクまでして茶目っ気たっぷりに笑うが、さすがに私もわきまえているのでハイとは言わない。あとで陽翔の耳に入ったら鬼姑のようにいびり倒されるのは目に見えてるし。
「ではさっそく」
「ええ、お願いね。あ、若々しく描いてね」
「はい。でも賢妃様は見た目が普通にお若い感じですから」
「ふふ、ありがとう。でもこれはこれで並々ならぬ努力のたまものなのよ。医食同源、お化粧、洗顔、マッサージ、運動……今度、顔を綺麗にする西方の秘術をあなたにも教えて上げるわね、玲鈴」
「楽しみです」
ま、顔の骨格からして違うから、少々私の顔を洗ったりメイクをしたところで変わらんと思うけど。
ハッ……ま、まさか整形? 美容整形がこの時代に存在する……?
さすがに顔にメスを入れられたら怖い。
「大丈夫よ。そんな心配しなくても顔にキュウリや糊を塗りつけて剥がすだけだから」
「ああ、パックですか」
「なぁんだ、残念、そういえばあなたも西方には詳しかったものね」
「いえ、話には聞いたことがあっても、実際にやったことはあまりないので。ぜひ、宮廷秘術を」
「ええ、いいわよ。ただし、私が個人的にやってることで、宮廷の正式作法ではないの」
「そうでしたか」
「そうよ。だってここには強力なライバルがたくさんいるもの。覚えておきなさい、玲鈴。相手より多く知っておくことは、それだけで武器になるわ」
「武器ですか」
情報戦、知識の活用といったところか。この人は虫も殺さぬようなお顔だが、やはり後宮というところは熾烈な権力闘争の場でもあるのだろう。
まー、私には全然関係ないけどね!
ポップな少女マンガ風の似顔絵を描いたら、案の定、キャアキャア興奮して賢妃様は喜んでくれた。
やったね!
かの御仁の父君はかつて西方からこの国に移住してきたのだという。
金髪の美しいお妃様はニコリと微笑んでうなずいた。
「ああ、インクね。それなら別に西方から取り寄せなくても大丈夫よ。こちらの墨でも色々種類があるもの。煤に膠を混ぜた物が墨だけど、代わりに糊や油、イカスミなんかもあったかしらね」
「「「へえ」」」
一同が感心するが、さすがは賢妃様である。名に違わず物知りだ。
さっそく私達は色々な材料の墨を用意し、書き味を試してみた。
賢妃様が持っていた羽根ペンもいただいている。
「あ、これがいい!」
松の煤に糊を混ぜたものが滲まずに線が書きやすい。
だが、この和紙のような紙にはすぐに引っかかってしまう。
「紙が問題だなぁ」
「ふん、いちいちワガママだな」
そう言われても破れては意味が無いのだ。
「紙は羊皮紙ならどうかしら。破れにくいわよ。持ってきて」
賢妃様が用意してくれた羊皮紙を試してみたが和紙よりは格段に滑らかだ。
さすがに現代の用紙には敵わないが、これならマンガが描けそう。
「やった! ありがとうございます、賢妃様」
「うふふ、いいのよ。陽陽くんがお気に入りの子ですもの、私もあなたに興味津々なの」
「はぁ」
そういう理由か。ま、いいけど。
「オホン、賢妃様、私が玲鈴を配下にしたのは、そのような理由ではありません」
「あら、じゃあ、どういう理由なの?」
「陰陽寮の宣託ですので」
「ふーん。陰陽寮ねえ。でも陽陽って占いは大嫌いだったはずでしょ」
「それとこれとは……オホン、それから、私の名前は陽翔と」
「はいはい。素直じゃないんだから」
面白くなさそうな陽翔はそっぽを向いてしまった。これは賢妃様と仲良くしておけば、いじめられないかも。よし!
「あの、賢妃様、お礼と言ってはなんですが、羽根ペンと羊皮紙のお礼に、賢妃様の似顔絵などを描いてお渡ししようかなと」
この人ならマンガ絵でも怒られないだろうし。
「あらぁ、嬉しいわ。ぜひお願い」
「賢妃様、それはいかがなものかと。重要人物の肖像画は専任の宮廷絵師が担当するのが通例、尚書省が――」
「んもう、これはそういう正式なものなんかじゃないわ。ただの子供のお遊びよ。お絵かき。ね、玲鈴」
「はい、賢妃様。ただのお絵かきですから」
私もニッコリ笑って話を合わせる。
「まあ、それなら良いですが、玲鈴、あまり小賢しいことを考えるなよ?」
「うっ」
見抜かれてる。
「もう、脅さないの。私に返礼するだけなんだから、普通のことでしょう。あれこれ裏を考えなくてもいいわ」
「分かりました。では私は他に用事がありますのでそろそろ失礼します。玲鈴、いくら賢妃様が気さくでお優しいと言っても節度は守れよ。相手は正一位、お前にとっては雲の上の存在だ」
「分かってますよ」
「だといいが……行くぞ、蒯正」
「はい」
「邪魔者がいなくなったわね」
賢妃様がウインクまでして茶目っ気たっぷりに笑うが、さすがに私もわきまえているのでハイとは言わない。あとで陽翔の耳に入ったら鬼姑のようにいびり倒されるのは目に見えてるし。
「ではさっそく」
「ええ、お願いね。あ、若々しく描いてね」
「はい。でも賢妃様は見た目が普通にお若い感じですから」
「ふふ、ありがとう。でもこれはこれで並々ならぬ努力のたまものなのよ。医食同源、お化粧、洗顔、マッサージ、運動……今度、顔を綺麗にする西方の秘術をあなたにも教えて上げるわね、玲鈴」
「楽しみです」
ま、顔の骨格からして違うから、少々私の顔を洗ったりメイクをしたところで変わらんと思うけど。
ハッ……ま、まさか整形? 美容整形がこの時代に存在する……?
さすがに顔にメスを入れられたら怖い。
「大丈夫よ。そんな心配しなくても顔にキュウリや糊を塗りつけて剥がすだけだから」
「ああ、パックですか」
「なぁんだ、残念、そういえばあなたも西方には詳しかったものね」
「いえ、話には聞いたことがあっても、実際にやったことはあまりないので。ぜひ、宮廷秘術を」
「ええ、いいわよ。ただし、私が個人的にやってることで、宮廷の正式作法ではないの」
「そうでしたか」
「そうよ。だってここには強力なライバルがたくさんいるもの。覚えておきなさい、玲鈴。相手より多く知っておくことは、それだけで武器になるわ」
「武器ですか」
情報戦、知識の活用といったところか。この人は虫も殺さぬようなお顔だが、やはり後宮というところは熾烈な権力闘争の場でもあるのだろう。
まー、私には全然関係ないけどね!
ポップな少女マンガ風の似顔絵を描いたら、案の定、キャアキャア興奮して賢妃様は喜んでくれた。
やったね!
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