僕が踏みだす

黒羽 百色

文字の大きさ
26 / 45

日向と日陰

しおりを挟む
体の前側は砂だらけ、おまけに口の中にも砂独特の苦味が広がり、初めてブラックコーヒーを飲んだ時を思い出していた。校庭の水道は自分のクラスで占領されていた。それぞれがクラスティーシャツを叩いて砂を払ったり、うがいをしたりと絶対王者に挑んだ代償はかなり大きかった。

「見ろ。結局あいつら優勝だ」
クラスメイトの声に振り向くと、決勝戦にも関わらず、相手のクラス全員が引きずられていた。屈強な男達がまるで一本勝ちをしたかのように両手を空へ伸ばして喜びを表現していた。

「外から見ればありゃ西部劇に出てくる晒しの刑だな」
「馬で引きずるやつか。俺達はあんな目にあってたのか‥」などクラスメイトからは次々と落胆の声が漏れていた。
「そろそろどくか。被害者達が続々と集まってくるぞ」
城島の言う通り、砂で汚れた人達が続々と水道の方へと向かって来ていた。次の種目の借り物競走を他所目に、木陰にいた俊哉と太一の隣に腰を下ろした。二人共じっとこちらを見つめていた。

「な、なんだよ」
二人共顔を見合わせ、俊哉が口を開いた。
「いや、荒ぶるお前にびっくりした」
何の事かと思ったが、すぐに綱引きの件だと察した。

「こーちゃんのリーダーシップ初めて見たよ」
「いやあれは、まあ」
自分でもあの件は説明がつかない程、理解できていない。自分でも驚いていたくらいだ。

「まあ俺らは後は流しだからよ。熱い連中に任せましょう」
「いや、最後だしさー頑張ろうよ」と咄嗟に返した。
俊哉は少し背筋を伸ばした。

「どうした?やっぱり変わったな!あっち側だお前!」
「あっち側?」
「熱い連中だよ。俺らは日陰、お前は日向になったんだな」

以前の自分ならすぐに理解し、彼らと同じ心境と立ち位置になれたはずだ。しかしこの違和感は何だろうか。以前までの自分もこんな風に思っていたのだろうか。同じクラスの人に対し「あっち側」などと括っていたのだろうか。今まで同じ円の中にいた自分達三人の中から、自分だけ違う円の中に入って行ったという事なのだろうか。

「そんな、裏切り者みたいに言うなよ」
「そこまで言ってないだろ。とにかくアンカー、頑張りなさい」
もやもやした気持ちが残るまま、アンカーという次の現実を受け入れるため、お昼の休憩の時間に再度、リレーに出場するメンバーに「アンカーは自分か?」と尋ねてみたが「頑張れよ」と答えになっていないが正しい回答を貰った。

食欲があまり無く、俊哉と太一の二人が弁当を食べる所に食べない自分がいるのも気が引けるため、早めに外に出て木陰で休んでいた。校庭で昼食を摂る生徒もいたが、とても静かな時間が流れていた。午前中のような砂埃が舞うような激しい光景よりは随分と落ち着いて見えた。午後になればまた賑やかで活気のある場所になるのだが、今は静かで休息に相応しい。自分のクラスの方を見ると、誰の姿もなく、今校庭にいるのは自分だけのようだ。

「あっち側」
俊哉に言われた言葉が頭をよぎった。もし、今みたいに自分だけがクラスのみんなと違う場所に常にいるような人間だったら、立ち位置だったら、それこそ自分以外の人達を「あっち側」と一括りにしていたのだろうか。城島達と交流を持つ前の自分は確かに彼等を自分とは住む世界が違うと思っていたのは事実だが、果たして「あっち側」なんて括りにしていたのだろうか。無意識にどこかでそう思っていたのだろうか。実際、そう俊哉に言われて少し苛立った事、そして何より悲しかった事。まるで「おかしな連中側」のように聞こえてしまった事、城島達と交流を持つ事で俊哉と太一から離れるように思われてしまう事。

「人間って難しいなあ」
薄らと秋を感じる空に向かってぽつりと呟く。周りに誰もいないか聞かれていないかを慌てて確認し、再び木に背をもたれる。自分を変える行動により確かに様々な変化はあった。不慣れな事をなんとかこなして今がある。小さな一歩のつもりが自分のこれまでの立ち位置や性格などを上回る大きな一歩になっていたようで、これまでの環境がかなり変わったと言える。しかしその変化と今の立ち位置により、どこかで以前の環境とのズレが生じる可能性の予測までは流石にできていなかった。やがて心地良くなってきた木陰に身を委ねたまま、自然と目を閉じてそのまま眠りについた。

「うわ!やばい人いるよ」
「間違って朝こっちの席に座ってきた人!」
「死んでるの?」
などと言う話し声が聞こえてきたため、起きても暫く目が開けられずにいた。最終的に目を開けたのは午後の部の二種目目であった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

お茶をしましょう、若菜さん。〜強面自衛官、スイーツと君の笑顔を守ります〜

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
陸上自衛隊衛生科所属の安達四季陸曹長は、見た目がどうもヤのつく人ににていて怖い。 「だって顔に大きな傷があるんだもん!」 体力徽章もレンジャー徽章も持った看護官は、鬼神のように荒野を走る。 実は怖いのは顔だけで、本当はとても優しくて怒鳴ったりイライラしたりしない自衛官。 寺の住職になった方が良いのでは?そう思うくらいに懐が大きく、上官からも部下からも慕われ頼りにされている。 スイーツ大好き、奥さん大好きな安達陸曹長の若かりし日々を振り返るお話です。 ※フィクションです。 ※カクヨム、小説家になろうにも公開しています。

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

ヤクザに医官はおりません

ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした 会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。 シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。 無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。 反社会組織の集まりか! ヤ◯ザに見初められたら逃げられない? 勘違いから始まる異文化交流のお話です。 ※もちろんフィクションです。 小説家になろう、カクヨムに投稿しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...