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第7話 いじめとか相手にしないから【中編】

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【昼休みに屋上まで来い】 

「…………」

 そうは言っても、この学校の屋上って封鎖されてるんじゃなかったっけ?

 またもや下駄箱に如何にも怪しげな手紙が入れられていた。ここ最近は私物を持ち歩くか、鍵付きロッカーに仕舞うかして被害リスクを避けていたので平和だったのだが、嫌がらせの犯人の気は収まらないらしい。
 そもそも目的はなんだ。
 文句があるなら直接言えばいいのに、こうしてベタな嫌がらせをされても不満は解消されないぞ。

「君に喧嘩を売るだなんて、怖いもの知らずがいるんだね」
「……俺の背後に立つなサイコパス野郎」

 気配がなかったぞ。音なく忍び寄るのやめて。

「いじめに怯えて泣く顔もかわいいだろうけど、中身が君だからねぇ…」
「すみませんねぇ、恨むならあのワガママ令嬢を恨めよ」

 俺が好きで身体を乗っ取ったわけじゃねーから。
 エリカ嬢マニアのサイコパスは今日も元気そうである。そんなにあの令嬢のことが好きなら、裏で嫌がらせの手引きして、エリカ嬢を窮地に陥ってから弱るのを待つんじゃなくて、正攻法で攻めていけばよかったのに。押せ押せどんどんしておけばエリカ嬢気弱だからクラッとしたんじゃない? 知らんけど。

 中身が年上の男子高生だと知っているくせに諦めの悪いサイコパス上杉はじっとりした視線を送ってくる。
 もう季節は初夏。なのに寒気がするのはきっと俺の生存本能が逃げろと叫んでいるのだと思う。あと俺の純白の貞操かな。俺は魔法使いになるんだ、邪魔すんなよ。

「……精神破壊すれば、いけるかなぁ?」
「させねぇよ!? 潰れろサイコパス!」
「うっ!」

 気持ち悪いことを言っていたので、思いっきり金的して俺は逃げた。
 俺は悪くない、悪いのはみんなあいつだ。


■□■


 俺はもともとお勉強が嫌いだ。
 だけど二階堂エリカ嬢というセレブのお嬢様を庇って死に、憑依してしまい、彼女として生きなくてはならないと決まったときから、嫌いなものと真正面から向き合わなくてはならなくなった。
 だって俺一生独身貴族確定だもん。自分の食い扶持は自分で稼がなきゃ。流石にニートは無理だよ。俺のプライド的にも無理。だから今までになく頑張っている。

 ──だけどそのストレスはマッハ。
 いきなり成績が急上昇するわけじゃないし、苦痛がなくなるわけじゃない。
 慣れない環境、女になってしまったこと、その他諸々……それに加えて最近の嫌がらせ行為だ。
 俺の中でストレスはすごいことになっていた。

「開けろやー!!」

 呼び出しを受けた俺が屋上に出た瞬間ドアを閉ざされ、鍵をかけられた。鉄扉を蹴りつけると鈍い音が響くのみ。足にビリビリと反動が返ってきた。痛い。
 俺は膝を抱え込んでうずくまった。
 …罠である雰囲気はプンプンしていたんだよ。だけど首謀者と対峙できるなら文句を言ってやりたいと思っていたから……
 はぁぁ…と深い溜め息を吐き出す。

 もうなんやねん。俺が何したっちゅうねん。この学校アホばかりなんちゃう?
 思わず関西弁が口から漏れ出てしまう。本場の関西人に怒られてしまいそうだ。

 いつまでもここでうずくまってるわけにはいかない。次の授業で俺当たるし。

「もしもし、慎悟? オレオレ。いま屋上なんだけど閉じ込められたから迎えに来てー」

 困ったときには慎悟である。
 優等生な彼ならすぐに先生を引き連れてやってくるだろう。スマホ持ってきておいてよかった。

 そのあとすぐに救出された。
 開放していない屋上の鍵が何故開いたのかと先生が訝しんでいたが、そんなん俺も聞きたい。


「なんか心当たりはないのか」
「あるとしたら加納ガールズなんだけど、あいつら正々堂々といじめてくるから多分違うんだよねー」

 俺の返答に慎悟はなんだか渋い顔をしていた。俺との関係を疑われているのが不服なのだろうか……俺だって男との関係を疑わられて不服なんだからお互い様だぞ。

「ま、しゃーねーよ。外から見たらお前に一番近い位置にいる女が俺だからそんな目で見られるんだ……俺はいつでも隠れ蓑になってやるからな?」

 慎悟が三浦との恋を貫くつもりでも、世間の目は痛いからな。俺が壁になってやってもいいんだぞ。
 俺はスタタタッと階段を駆け下りた。ギリギリ昼休みの時間。人気の少なかった屋上につながる階段から3階に降りると、生徒の姿がちらほら。

「……ちょっと待て、隠れ蓑ってどういう意味だ」
「そのままの意味だぞ。ほらお前三浦と…」

 俺の後を追いかけてくるように慎悟も階段を降りてきた。そして俺を通せんぼするかのように前に立ち塞がった慎悟は困惑した様子で俺に言い聞かせてきた。

「だからそれはお前の勘違いで、俺と三浦はそういう踏み込んだ間柄じゃないと」
「俺にまで誤魔化さなくても大丈夫だって」

 この期に及んで否定してくるなって。俺は心配するなと親指を立てるとニカッと笑ってやった。
 
「俺達友達だろ?」

 慎悟は呆然としていた。
 …決まったぜ……気取れる俺、めっちゃかっこいい。
 慎悟との横をすり抜けるようにして階段を降りる。5時間目で当たる問題を慎悟に答え合わせしてもらいたい。
 踊り場をぐるっと通過して、一番上の12段めに足をかけた俺は先程と同じように軽快なステップで駆け下りようと足を踏み出した。
 だけど。

 ──ドンッ
 背中に伝わった衝撃に体のバランスを崩した。下にあるのは階段、そして階下。
 えっ、慎悟が押した!? どつくにしては強すぎないか!? 場所! 場所を考えてくれよ!

 このままでの地面に身体を叩きつけられてしまう。
 俺は胸の前で腕をクロスすると、宙に浮いた身体に勢いをつけて回転した。ぐるんと視界が回る。そのまま俺は地面目がけて体制を整える。

 ──スタッ
 …見事な回転ひねりだ……自分の技ながら惚れ惚れする……

「おい、お前、無事か!?」

 俺は自分の見事な着地に満足していたのだが、階段の上では慎悟が血相を変えていた。

「無事無事ー、だけど階段降りてる時に人の背中押すなよなー慎悟ー」
「は? …俺は何もしてないけど……」

 急いで階段を降りてきた慎悟は眉をひそめて訝しんでいる。
 じゃあ誰だ、英学院七不思議か? 幽霊が俺を押した?
 すれ違った生徒の誰か? 慎悟が見ていないだけで誰かが俺の背中を押したの?
 ……それとも、慎悟が嘘をついている……? これは一番考えたくない可能性だな。
 頭にいろんな可能性が思い浮かんだが、考えるのが面倒になった。

「……あー。なら、俺が足を滑らせたことにしていいや」
「はぁ? …体調悪くしてるんじゃないか? さっきあんなことがあったから…」
「だいじょーぶ。だから次の授業で当たる部分答え合わせさせて」

 あっさり諦めると慎悟が変な顔をしていたので、俺は慎悟の背中にドムスと頭突きをして先を急がせたのである。
 
 俺と慎悟にとっては友情のスキンシップ。あまりしつこいと頭をペーンと叩かれるが、友達同士のほのぼのとしたやり取りのつもりだ。

 なのだが、外から見たら、それはカップルがイチャコラしているように見えるのだと、俺はこの後知ることになる。
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