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【肆】
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「パーティ?」
「うん、亜希ちゃんは海外の人とおしゃべりしてみたいと言っていただろう? パーティには外交官夫人やお嬢さんがいらっしゃるだろうから、きっと君の役に立つと思うんだ」
ある日、うちにやってきた忠お兄様からパーティのお誘いを受けた。
もちろん私は二つ返事である。
きらびやかな世界に憧れているのもあるけど、私は違った世界を見てみたかった。私の世界は家と学校だけ。もっと広い世界を見てみたかったのだ。
せっかく英語を勉強していても、使い道がなければただの箪笥の肥やし。是非ともパーティに参加して異文化交流をしたい! と私は心躍らせた。
でもどうしよう、ドレスなんて持っていないけど着物でもいいのかしら。一介の女学生が参加して浮いたりしない?
私がワタワタしていると、忠お兄様が可笑しそうに笑って、洋装店の店主を近いうちにこちらに出向かわせるよとおっしゃってくれた。
あぁ、楽しみ。
一層、パーティの日が待ち遠しくなった。
──しかし、当日お迎えに来てくれるという忠お兄様を見送った後にふと思い出した。
ドラマの中で忠お兄様の父親が夜会でどこぞの令嬢を連れてきて結婚しろと命じるのだけど、さくらを想っている忠お兄様はそれを突っぱねるのだ。そのせいでしばらく肩身を狭い思いをすることになるのだが、それでも彼はさくらへの一途な愛を貫くというストーリーだ。
なんたって気になっている女性は吉原の遊女。吉原が華やかだった昔と違ってこの時代の遊女の地位は低いものになっていた。花形の海軍に所属する男性が妻にしたいと思っていても、世間がそれを受け入れない風潮があった。
文字通り、遊女は遊び女。
一晩の遊び相手としてならいいが、本妻となると話は別だ。いいところお妾さんの役回りになるであろう。
……つまり、私は当て馬マッチ役の任務を任されたことね…!?
私はきっと女避けとして頼られているのね!
お任せください。私がきっと使命を果たしてみせますから!
忠お兄様が肩身狭い思いをせぬよう、不肖マッチ役、立派に成し遂げて差し上げます…!
ですからもうちょっとヒロインさくらとの接触を増やして頂けませんか!?
なんで全然接触しないの!? こう、さくらへの恋煩いとか全く見られないし、それとなく恋の進捗を尋ねてみても、反応が鈍いし……
これじゃただの赤の他人じゃない!
こんなの大正浪漫・夢さくらじゃないぞ! ラブが圧倒的に足りない! なんだったんだあの運命の出会いは!
一向に進まない二人の関係に、マッチ役の私は湿気てしまいそうでもだもだしていた。
忠お兄様は私の大切な人なのだ。
だから運命の人と結ばれて幸せになってほしいのに……
どうしてこうもシナリオ通りに進まないのだ!
■□■
きらびやかな会場は大勢の人達で賑わっており、私はその真ん中でソワソワしていた。
……やっぱり、ドレスは西洋の人のほうがお似合いだ。純日本人な私が着たら浮いて見えるのじゃないだろうか…
忠お兄様が手配して作らせてくれたドレスは今西洋で流行りのデザインらしい。だけど普段着物で生活している私には露出度が激しい気がしてどうにも落ち着かない……胸元がスースーする…
『失礼、お嬢さんお一人ですか?』
そこに声を掛けてきたのは、恐らく英国人である。年の頃は忠お兄様と同じくらいに見える。
『連れがおりますので』
うわっ外国人だと内心ビビってしまったのは許してくれ。
私の記憶に残る前世の記憶では外国人は決して珍しい存在ではなかったのだが、この時代ではまだまだ物珍しすぎた。
金髪碧眼のその人は軍服姿で、まるで童話の王子様のようだ。
『じゃあ連れの人が戻ってくるまで話し相手をしてくれないか? 私の名前はエドワード』
あ、居座っちゃうのか。
連れがいると言えば立ち去ってくれると思ったのに。外国の人と会話はしたかったけど、異性同士はいかがなものかなと思うのだ。周りから白い目を向けられないだろうか……
『そのドレスよく似合ってるね。日本人といえば着物だと思っていたけど、こんなにもドレスが似合う女性と出会えるなんて、今夜の私はツイている』
『ありがとう』
これは俗に言う軟派…?
名乗られたけど、相手がどこの誰だかわからないので、当たり障りのない返事だけを返しておく。
このパーティ会場には日本に大使館を置く国の外交官やお偉いさんも参加しているらしい。軍服を着ているので、軍関係の人だろうか。そしたら……
「亜希ちゃん」
「! 忠お兄様」
「ごめんね一人にして」
少し席を外していた忠お兄様が戻ってきて私はほっと息を吐いた。
外国の人と交流はしてみたかったが、このようなパーティに参加したのは初めて。緊張で落ち着かなかったのだ。
忠お兄様は私を庇うかのように腰を抱き寄せると、金髪碧眼の彼から遠ざけた。
『すまないね、私のパートナーの相手をしてくれていたようで』
『あぁ、君のパートナーだったのか。残念…そんな怖い顔するなよ』
怖い顔? 彼の発言を受けて、忠お兄様を見上げたが…別にそんな顔してないと思うけどな。
エドワードさんは軽く肩をすくめる。手をひらひらさせて私に笑顔を向けてきた。
『じゃあねアキコ。楽しかったよ』
『こちらこそありがとう』
2人は知り合いみたいなのに、彼はあっさり立ち去っていった。忠お兄様は彼が立ち去るのを見送ると、ひとつため息を吐いた。
「…いいの? お知り合いなのでしょう?」
「大丈夫。ごめんね亜希ちゃん、ひとりにしてしまって」
「大丈夫です。私はそこまで子どもじゃないのよ?」
いつまで私を子ども扱いするのだ。
私はもう16歳。立派なレディなのだぞ。
「ホントかな?」
私の訴えに苦笑いする忠お兄様。私のこと子ども扱いしてる……。
すっと伸びてきた彼の手が私の耳を飾るイヤリングをくすぐった。直接肌に触れられたわけではないのに、耳たぶがカッと発熱した気がした。
な、なに…なんでイヤリングに触れたの…ずれてる?
切れ長の瞳が私を見つめている。その瞳はいつものお兄様と同じような気がして……どこか違う気がした。その瞳は熱がこもっていて、見つめられる場所が熱く感じる。
私はその目をそらせなかった。
「…ほう、その子が早乙女くんの同伴者かね」
「! 准将…!」
「あぁ、いい。かしこまらずとも」
とある声に瞬時に反応した忠お兄様は私のイヤリングから手を引っこめると、シュバッと綺麗な敬礼をしていた。
准将。
階級の高い人。お兄様の上司に当たる方? 私の視線の先には沢山の勲章を付けた軍服に身をまとったおじさまと、私より何歳か年上の女性の姿があった。
「君には是非うちの娘をと思っていたのだが…」
准将と呼ばれた彼は、私を上から下まで観察するように眺めると、ホゥッとため息をついた。
観察されているこっちはなんだか居心地が悪い。
「このように美しいお嬢さんがお相手なら仕方がないな」
「申し訳ありません」
「して、どちらのお嬢さんなのかね?」
「港町の商家の娘さんでして…宮園亜希子さんです」
忠お兄様が私を紹介する。
なんか……なんか私の前で話が進んでいくけど……うん、わかってる。私は当て馬役だから、女避けとして呼ばれているのだと。
ドラマではこのシーン、主人公のさくらは吉原の遊女のため出てこられない。お兄様はお見合い話を断るにも、当の想い人を紹介できずに「紹介できない娘なのか」と眉をしかめられるんだよね。
……なんで今回、私が女避けとして今回任命されたのかは不明だが、妹分として気軽だったのだろう。多分。
なんかドラマと流れが変わってるけど、そんなこともあるよね……
「こう言ってはなんだが……君が上り詰めたいと考えているなら、もう少し良く考えたほうがいいと思うが」
きた、圧迫質疑。
私の場合、そこそこ大きい裕福な商家の娘だが、軍へのツテはない。栄進への近道はないのだ。
忠お兄様の未来を考えるなら、この准将さんの娘さんとの結婚が一番の近道なんだろうけど……
「私が出世できないのは私の責任なので、彼女のせいにはしたくありません。私は私の力で行けるところまで上り詰めたいと考えております」
まるで、私が忠お兄様のお嫁さんに選ばれているような気がした。
胸の奥深くで抑え込んでいた感情が箱から飛び出してきそうで、私はギュッと胸を抑える。
馬鹿なことを考えるな。私は所詮当て馬マッチ役。今日は女避けとして呼ばれたのだ。期待するんじゃない。
「ふむ……いや、当てられたな。すまん意地悪な質問をした」
先程まで圧力を掛けていたおじさまは一変して笑顔を浮かべていた。
「その意気や良し! その心意気で邁進してくれたまえ!」
「は…ありがとうございます」
なんとか合格点をもらえたようだ。何もしてないけど…なんか疲れた。
「うん、亜希ちゃんは海外の人とおしゃべりしてみたいと言っていただろう? パーティには外交官夫人やお嬢さんがいらっしゃるだろうから、きっと君の役に立つと思うんだ」
ある日、うちにやってきた忠お兄様からパーティのお誘いを受けた。
もちろん私は二つ返事である。
きらびやかな世界に憧れているのもあるけど、私は違った世界を見てみたかった。私の世界は家と学校だけ。もっと広い世界を見てみたかったのだ。
せっかく英語を勉強していても、使い道がなければただの箪笥の肥やし。是非ともパーティに参加して異文化交流をしたい! と私は心躍らせた。
でもどうしよう、ドレスなんて持っていないけど着物でもいいのかしら。一介の女学生が参加して浮いたりしない?
私がワタワタしていると、忠お兄様が可笑しそうに笑って、洋装店の店主を近いうちにこちらに出向かわせるよとおっしゃってくれた。
あぁ、楽しみ。
一層、パーティの日が待ち遠しくなった。
──しかし、当日お迎えに来てくれるという忠お兄様を見送った後にふと思い出した。
ドラマの中で忠お兄様の父親が夜会でどこぞの令嬢を連れてきて結婚しろと命じるのだけど、さくらを想っている忠お兄様はそれを突っぱねるのだ。そのせいでしばらく肩身を狭い思いをすることになるのだが、それでも彼はさくらへの一途な愛を貫くというストーリーだ。
なんたって気になっている女性は吉原の遊女。吉原が華やかだった昔と違ってこの時代の遊女の地位は低いものになっていた。花形の海軍に所属する男性が妻にしたいと思っていても、世間がそれを受け入れない風潮があった。
文字通り、遊女は遊び女。
一晩の遊び相手としてならいいが、本妻となると話は別だ。いいところお妾さんの役回りになるであろう。
……つまり、私は当て馬マッチ役の任務を任されたことね…!?
私はきっと女避けとして頼られているのね!
お任せください。私がきっと使命を果たしてみせますから!
忠お兄様が肩身狭い思いをせぬよう、不肖マッチ役、立派に成し遂げて差し上げます…!
ですからもうちょっとヒロインさくらとの接触を増やして頂けませんか!?
なんで全然接触しないの!? こう、さくらへの恋煩いとか全く見られないし、それとなく恋の進捗を尋ねてみても、反応が鈍いし……
これじゃただの赤の他人じゃない!
こんなの大正浪漫・夢さくらじゃないぞ! ラブが圧倒的に足りない! なんだったんだあの運命の出会いは!
一向に進まない二人の関係に、マッチ役の私は湿気てしまいそうでもだもだしていた。
忠お兄様は私の大切な人なのだ。
だから運命の人と結ばれて幸せになってほしいのに……
どうしてこうもシナリオ通りに進まないのだ!
■□■
きらびやかな会場は大勢の人達で賑わっており、私はその真ん中でソワソワしていた。
……やっぱり、ドレスは西洋の人のほうがお似合いだ。純日本人な私が着たら浮いて見えるのじゃないだろうか…
忠お兄様が手配して作らせてくれたドレスは今西洋で流行りのデザインらしい。だけど普段着物で生活している私には露出度が激しい気がしてどうにも落ち着かない……胸元がスースーする…
『失礼、お嬢さんお一人ですか?』
そこに声を掛けてきたのは、恐らく英国人である。年の頃は忠お兄様と同じくらいに見える。
『連れがおりますので』
うわっ外国人だと内心ビビってしまったのは許してくれ。
私の記憶に残る前世の記憶では外国人は決して珍しい存在ではなかったのだが、この時代ではまだまだ物珍しすぎた。
金髪碧眼のその人は軍服姿で、まるで童話の王子様のようだ。
『じゃあ連れの人が戻ってくるまで話し相手をしてくれないか? 私の名前はエドワード』
あ、居座っちゃうのか。
連れがいると言えば立ち去ってくれると思ったのに。外国の人と会話はしたかったけど、異性同士はいかがなものかなと思うのだ。周りから白い目を向けられないだろうか……
『そのドレスよく似合ってるね。日本人といえば着物だと思っていたけど、こんなにもドレスが似合う女性と出会えるなんて、今夜の私はツイている』
『ありがとう』
これは俗に言う軟派…?
名乗られたけど、相手がどこの誰だかわからないので、当たり障りのない返事だけを返しておく。
このパーティ会場には日本に大使館を置く国の外交官やお偉いさんも参加しているらしい。軍服を着ているので、軍関係の人だろうか。そしたら……
「亜希ちゃん」
「! 忠お兄様」
「ごめんね一人にして」
少し席を外していた忠お兄様が戻ってきて私はほっと息を吐いた。
外国の人と交流はしてみたかったが、このようなパーティに参加したのは初めて。緊張で落ち着かなかったのだ。
忠お兄様は私を庇うかのように腰を抱き寄せると、金髪碧眼の彼から遠ざけた。
『すまないね、私のパートナーの相手をしてくれていたようで』
『あぁ、君のパートナーだったのか。残念…そんな怖い顔するなよ』
怖い顔? 彼の発言を受けて、忠お兄様を見上げたが…別にそんな顔してないと思うけどな。
エドワードさんは軽く肩をすくめる。手をひらひらさせて私に笑顔を向けてきた。
『じゃあねアキコ。楽しかったよ』
『こちらこそありがとう』
2人は知り合いみたいなのに、彼はあっさり立ち去っていった。忠お兄様は彼が立ち去るのを見送ると、ひとつため息を吐いた。
「…いいの? お知り合いなのでしょう?」
「大丈夫。ごめんね亜希ちゃん、ひとりにしてしまって」
「大丈夫です。私はそこまで子どもじゃないのよ?」
いつまで私を子ども扱いするのだ。
私はもう16歳。立派なレディなのだぞ。
「ホントかな?」
私の訴えに苦笑いする忠お兄様。私のこと子ども扱いしてる……。
すっと伸びてきた彼の手が私の耳を飾るイヤリングをくすぐった。直接肌に触れられたわけではないのに、耳たぶがカッと発熱した気がした。
な、なに…なんでイヤリングに触れたの…ずれてる?
切れ長の瞳が私を見つめている。その瞳はいつものお兄様と同じような気がして……どこか違う気がした。その瞳は熱がこもっていて、見つめられる場所が熱く感じる。
私はその目をそらせなかった。
「…ほう、その子が早乙女くんの同伴者かね」
「! 准将…!」
「あぁ、いい。かしこまらずとも」
とある声に瞬時に反応した忠お兄様は私のイヤリングから手を引っこめると、シュバッと綺麗な敬礼をしていた。
准将。
階級の高い人。お兄様の上司に当たる方? 私の視線の先には沢山の勲章を付けた軍服に身をまとったおじさまと、私より何歳か年上の女性の姿があった。
「君には是非うちの娘をと思っていたのだが…」
准将と呼ばれた彼は、私を上から下まで観察するように眺めると、ホゥッとため息をついた。
観察されているこっちはなんだか居心地が悪い。
「このように美しいお嬢さんがお相手なら仕方がないな」
「申し訳ありません」
「して、どちらのお嬢さんなのかね?」
「港町の商家の娘さんでして…宮園亜希子さんです」
忠お兄様が私を紹介する。
なんか……なんか私の前で話が進んでいくけど……うん、わかってる。私は当て馬役だから、女避けとして呼ばれているのだと。
ドラマではこのシーン、主人公のさくらは吉原の遊女のため出てこられない。お兄様はお見合い話を断るにも、当の想い人を紹介できずに「紹介できない娘なのか」と眉をしかめられるんだよね。
……なんで今回、私が女避けとして今回任命されたのかは不明だが、妹分として気軽だったのだろう。多分。
なんかドラマと流れが変わってるけど、そんなこともあるよね……
「こう言ってはなんだが……君が上り詰めたいと考えているなら、もう少し良く考えたほうがいいと思うが」
きた、圧迫質疑。
私の場合、そこそこ大きい裕福な商家の娘だが、軍へのツテはない。栄進への近道はないのだ。
忠お兄様の未来を考えるなら、この准将さんの娘さんとの結婚が一番の近道なんだろうけど……
「私が出世できないのは私の責任なので、彼女のせいにはしたくありません。私は私の力で行けるところまで上り詰めたいと考えております」
まるで、私が忠お兄様のお嫁さんに選ばれているような気がした。
胸の奥深くで抑え込んでいた感情が箱から飛び出してきそうで、私はギュッと胸を抑える。
馬鹿なことを考えるな。私は所詮当て馬マッチ役。今日は女避けとして呼ばれたのだ。期待するんじゃない。
「ふむ……いや、当てられたな。すまん意地悪な質問をした」
先程まで圧力を掛けていたおじさまは一変して笑顔を浮かべていた。
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