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運命の相手と言われても、困ります。
露呈、転落【三人称視点】
しおりを挟む生ごみ置場でのネズミ大量死は城内を騒然とさせた。
害獣として扱われているネズミの駆除に毒が含まれた餌を撒いておくことはあっても、こんなに大量の死骸が見つかることは稀である。はじめに発見した使用人は、疫病の前触れかと恐怖に襲われたという。
しかしよくよく見ていると何かがおかしい。ネズミたちは揃って同じものを喰い漁っていたようなのだ。
ネズミたちが口にしたものも問題であった。それはこの国の第3王子の好物であるホットチョコレートの残骸だったのだ。
昨晩は王子の花嫁候補の暗殺未遂で大騒ぎになったが、今日は王族暗殺未遂疑惑が浮上した。国家転覆を狙う何者かの仕業かと城内は震撼する。
その流れで飲み物を用意したお料理番も捕まった。最初は第一容疑者扱いだったが、その際にエプロンポケットから怪しい小瓶が見つかったことで犯人であると確定した。
小瓶の中身を調べるために、小瓶に残っていた液体を水槽に一滴垂らす。するとたちまち泳いでいた金魚がばたばた死んで水面に浮き上がっていた。
──紛うことなき、毒薬だ。
ステファン王子暗殺容疑がかかった料理番は、無駄な足掻きはせず、すぐに土下座して謝った。
「申し訳ありません! 全てはベラトリクスお嬢様に指示されてやったことでございます!」
自分は実行しただけであり、これを指示した人間が花嫁候補の一人であると自供した。その人がそれを準備したのだと彼は言う。
──だがしかし、殺意については否定していた。
「ですが、私が仕込んだのは媚薬のはずでございます!」
「ではなぜ、ネズミが大量死してるのだ! 廃棄したホットチョコレートを舐めてその場で死んでるんだぞ! それを用意したのはお前だろう!」
当然ながら取り調べをしていた役人は彼の言い分を信じない。
ステファンに仕込まれていたのが劇薬の毒ということで、王族殺人未遂の容疑がかかったお料理番は取り調べの後、拘束、そして裁判にかけられることになった。
「ベラトリクス様に脅されていてどうしようもなかったのです!」
王族を害そうとした彼には間違いなく厳罰が下るだろう。それが脅されてやったことだとしてもだ。それを恐れた彼は涙を流し、惨めったらしく言い訳をした。
本来はレオーネに仕込むはずだった毒だったが、間違えてステファンに仕込んでしまったのだと自供するお料理番。この自供に関しては別のところで別の役人の取り調べを受けているメイドの自供とほぼ一致していた。
自棄になっていたメイドは幾分か冷静さを取り戻したようで、素直に自分の罪を認めていた。そして、毒と媚薬を間違えてよかった、人殺しにならずに済んだと安堵の涙を流していたという。
彼らがなんらかの罪を犯し、それをヘーゼルダイン伯爵家が揉み消して利用した云々についても深堀りされることになり、ヘーゼルダイン家の闇が関係者によって明らかにされて行った。
□■□■□
首謀者であるベラトリクスは、王族殺害を主導したことによって厳罰を免れられなかった。
「わたくしは殿下を殺すようには言っていませんわ! 逆です! 平民女を……!」
ベラトリクスはステファン殺害未遂については否定していたが、レオーネへの殺意は否定しなかった。
「平民を殺すことの何が罪だというの! あなた方だって害虫がいたら殺すでしょう? それと同じよ!」
自分の潔白を表明するためにぺらぺら話すが、それが余計に自分の首を絞めていることに全く気付かないまま、自己弁論していた。
反省の色が全くない。周りに罪を被せて自分だけ逃げる気満々である。
取り調べをしていた役人の心証が悪くなるのは当然のことであった。
それに、彼女はいろいろとやり過ぎたのだ。
レオーネを狙ったこれまでの暗殺未遂の数々だけでない。今回のことでヘーゼルダイン伯爵家について大規模調査をすると、あちこちからやましい事が山ほど出てきてしまったのだ。
羽振りが良すぎるヘーゼルダインのことを疑っていた国王が、息子のステファンに「ベラトリクスを花嫁候補として迎えて泳がせてほしい」と頼んだ時点でベラトリクス並びにヘーゼルダイン伯爵家はすでに疑われていた。
ヘーゼルダイン家は、ベラトリクスが王子の妃となって、いずれは孫が公爵位を手に入れるのを望んでいた。すべては権力のために。
そのためには第一有力候補のレオーネが邪魔だった。だから様々な手を使って彼女を害しようとした。
レオーネ殺害未遂に関するあれこれと、今回のステファン殺人未遂、そして伯爵家が主導して行ってきた数々の脱税、人身売買、薬物、殺人、傷害、冤罪などなど……
親の咎だけではなく、ベラトリクス自身も邪魔だと思った相手を影で傷つけ、表に出られないように細工したりと罪を重ねてきた。彼女も同罪だった。
ヘーゼルダイン伯爵家に権力と金があったせいで、被害者たちはこれまで声を上げられなかったが、今回のことで勇気を出した彼らからたくさんの証言と証拠を得られた。
過去の罪が山のようになだれ込んできた。これまではごまをすって愛想よくしていた権力者達も無関係を装い、離れていった。
彼らは一気に窮地へと追いやられてしまったのだ。
ベラトリクスとヘーゼルダイン一家は大規模な公開裁判にかけられ、満場一致で貴族籍剥奪、財産没収、ヘーゼルダイン家お取り潰しになった。
伯爵は政治犯を投獄する牢へ幽閉。他のヘーゼルダインの人間は簡単には出られないという噂の、北の修道院に入れられることとなった。そこでは金も権力も役に立たない。ただ日々神にお祈りをして質素に慎ましく生きるように強制されることになる。
彼らの処刑を望む声もあったが、腐っても彼らは貴族だった人物だ。法律の関係上、簡単に処刑はできなかった。
しかし、死で贖うよりも、自由の効かない牢や厳格な修道院で過ごすことが一番効く罰だろうと誰かが言った。
『人々を散々苦しめて死へと追い詰め、金を搾り取り、その金で私腹を肥やして贅沢をして来た彼らには生きて償ってもらった方がいい──』
裁判長の判決の言葉にヘーゼルダイン一家は怒鳴り、髪を振り乱しながら反論していたが、刑は即日決行。
裁判所から馬車に乗せられて着の身着のまま北へ送られたベラトリクスは最後まで反省の言葉をいわずに、逆恨みのような発言を繰り返していたのだという。
誰も彼女の言葉に耳を傾けることはなかった。ただ、罪人が流刑されていくだけの光景だからだ。
これまでであれば貴族という身分のお陰で人を支配できたが、これからはそうはいかない。彼らは一文無しの平民となるのだから。
「この無礼者ども、拘束を解きなさい! わたくしは王子の花嫁候補ですのよ!?」
「早く馬車を出せ」
自分こそが王子の妃に相応しいと言って聞かない、もうひとりの獅子はこうして舞台から降り立ったのである。
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