麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ

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続編・私の王子様は今日も麗しい

リズムに合わせて踊りましょう。

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 私は注目を浴びながらワルツを踊っていた。
 パートナーはこの国の第3王子であり、私の未来の旦那様であるステフである。

 ダンスフロアのど真ん中を占領してくるくると踊ると、あちこちからいろんな感情を乗せた視線が飛んで来る。それは好意的なものから否定的なものまでさまざま。
 だけどそれに心乱されてはいけない。表に立つときは悠然とした態度でいるようにと教わったから。

 目の前で微笑むステフは余裕そのものじゃないか。周りの視線に気づいていても全然気にした様子がない。彼のようの堂々と振る舞わなければ……

「──綺麗だ、レオーネ」

 踊りながらかけられた賛辞の言葉に私はへにゃりと笑ってしまった。嬉しくて幸せで、目の前に立ちはだかっている試練のことなんてすっかり忘れて夢のような時間を過ごした。
 平民だった私がお城のパーティで王子様と踊っているなんて今でも信じられない。
 私たちは脇目も振らず、お互いだけを見つめ合って曲が終わるまで踊りつづけた。

 今私が立っている舞台は、私たちの婚約お披露目パーティである。
 以前行われた花嫁候補お披露目パーティで済んだものかと思ったけど、正式に婚約者として内定したことを宣言するためにも必要な行事だと言われた。
 ついでに私がフェルベーク公爵家の娘となり、後ろ盾を手に入れたことを貴族達に周知と牽制する目的もあるらしい。

 私とステフの結婚は確定しているけど、裏には認めていないという貴族達もいる。
 いくら私が男爵家の縁者、現在公爵家の娘になったといえ、元は平民だった人間だ。そんな人間が王族、そして未来の公爵夫人になるのを見過ごせないって人はたくさんいる。自分の娘や孫を王子様の嫁にしたいと思うのは貴族として当然のことだものね。
 どこから妨害が入るかわからないから気をつけねば。

 音楽が止み、ファーストダンスを終えると私はステフにリードされて上座に進んでいく。
 あぁ、視線がすごい。特に若い女性の視線は鋭すぎて、視線に殺傷能力があれば私は即死状態だろうな。

 王子様なステフは今日も麗しい。ここ最近はますます麗しさに磨きをかけて眩しい。そんな彼を女性陣が熱い眼差しを送っている。

 ……たくさんの女性の視線を独り占めしている彼だが、私と再会する前にいい感じになった女性とか居たりしないのだろうか。
 チラリと彼を見上げた。いるかどうかもわからない過去の女性を想像して勝手にヤキモチしてると知ったら、彼はどう思うだろう。

 私の視線に気づいたステフがこちらに目を向けると、私を安心させるためにふんわりと微笑む。そしてなにを思ったのか彼は身を屈めて私の頬に軽くキスを落としてきたではないか。

「きゃああああ!!」
「いやーっ」

 王子殿下の突然の行動に、若いご令嬢達のキンキン声が会場内に響き渡り、騒然となった。
 私に向けられる周りからの視線が更に強いものに変わったが、ステフはなにやら満足そうに私を抱き寄せてきた。

 ……全くもう、こんな場所で愛情表現しなくてもいいのに。もしかして私が緊張しているからそれをほぐそうとしたの?

 新しい曲が流れはじめると、続々とダンスフロアに人が流れ込んでいく。
 私はステフ以外と踊る気もないので彼の隣から離れる気もなかった。……なんだけど周りから視線が飛んで来るので、他の男性と目を合わせないようにするのが大変だった。

「レオーネ、ブロムステッド卿たちが挨拶に来られたよ」

 目を伏せて時が過ぎるのを待っていると、ステフが私にそっと声をかけてきた。言われて顔を上げると、いつのまにか伯父様と伯母様が目の前にいた。
 私は嬉しくていつも通りに接しようとしたのだけど、彼らから目上の者に対する礼をされて留まった。

 そうだ、今の私は王子殿下の婚約者である公爵令嬢という立場。もう気楽な町娘じゃないんだと思い直した私は澄ました顔で礼を返した。

「レオーネ様、すっかり令嬢らしくなって……」
「本当にお美しくなられましたね」

 ふたりとも身分の高い令嬢に対する態度を崩さなかったけど、所々に姪に対する親しみが見え隠れしている。ふたりとも涙が零れそうなほどウルウルしているし、それを見ていると私まで泣きたくなってきた。まだ婚約しただけなのに、結婚して親元を離れていく心境だ。

「よければ一曲、お相手願えますかな」

 伯父様が白い手袋をした手を差し出してきたので、私はその手に自分の手を預けた。
 ステフ以外とは踊らないとは考えていたけど、伯父様は別だ。彼は私の二人目のお父さんのような存在だから。

 ダンスフロアでは複数の男女がペアになって踊っていた。私も音楽に乗って伯父様と一緒にステップを踏んだ。
 うーん、やっぱり伯父様太ったな。リズムに合わせてお腹がぽよぽよぶつかる。後で伯母様にこっそり言っておかなくては。肥満は万病の元だからお菓子を控えさせてくれって。

「レオーネと王宮で踊るなんて本当に夢のようだよ」

 伯父様の腹肉の心配をしていると、彼がしみじみとそんなことを言った。
 思わず私は苦笑いした。今も平民だったらこうしてダンスフロアで伯父様と踊ることもなかったであろう。それに伯父様には息子さんしかいない。デビューダンスのお相手をすることもないから、なおさらそういう気持ちになるのかもしれない。

「小さなレオーネが…こんなにも美しくなって、王子殿下の妃になることになって……」
「伯父様、泣かないで」

 ダンスフロアのど真ん中で泣きはじめた伯父様は幼い頃の私を思い出して感極まってしまったらしい。踊るのを中断すると彼は胸ポケットのハンカチーフを引っ張り出すと目元を拭っていた。
 まだ妃になっていないのに、今から泣いていたら結婚式の日には干からびてしまうよ。

 私のことを娘のように可愛がってくれていたというのもあるけど、先祖代々忠臣として王家に仕えてきたブロムステッド男爵家の当主である彼にとっては姪が王子殿下の元へ嫁ぐことを何物にも変えられない栄誉に感じているのかもしれない。

 泣いて踊る所じゃない伯父様を私がエスコートして連れ戻すという珍事が起きたけど、まぁそれはそれとして。
 ステフの隣に戻ってきた私は新たに挨拶に来てくれた貴族の方々と対峙することになった。
 困ったことに貴族子女教育の一貫として目を通した最新の貴族図鑑には乗っていない、現役を引退した先代様とその奥様方が登場してどうしようかと思ったが、それはステフが一人一人紹介してくれたのでなんとか乗り切れた。
 隠居している人たちが来るとか聞いていない。

「まぁ噂に違わぬお美しさですこと」

 扇子で口元を隠した老婦人が私の顔をまじまじ観察して、ほうとため息をついていた。

「ミカエラ様が若返ったようですわね」
「社交界の華が戻ってきたと錯覚して、自分の若い頃を思い出しますな」
「いやはや、あの頃が懐かしい」

 ミカエラ大叔母様と同年代か少し上の年代の彼らは、私を見る度に懐かしさに頬を緩めていた。

「ご婚約おめでとうございます。結婚式にはぜひお呼びください」

 一体なにを言われるのだろうと身構えていたが、私の顔を見ては懐かしさに浸り、婚約のお祝いをされただけだった。

 意外と彼らは好意的だった。もしかしたら腹の中では何かをたくらんでいる可能性もないこともないだろうけど、それなら嫌味の一つや二つ飛ばしてきてもおかしくないのにな……自分の親族の娘を王子にって考えている人もいるだろうと想定していたのに。
 昔の人だから伝統とか血筋に文句をつけられるかもと思っていたのにそこは拍子抜けした。


「こんばんは殿下」

 挨拶を繰り返し、そろそろ表情筋と精神に疲労の色が見えはじめた頃、また新たに挨拶にやってきた人物がいた。
 作り笑顔を向けたがその人物を見た瞬間、口元が引き攣ってしまった。

「モートン」

 嫌みったらしい笑い方、どこか傲慢さが隠れていないその態度の人物はモートン侯爵家のあの人だった。
 そう、先日めちゃくちゃ失礼な態度を取ってきた人物である。

「ステファン殿下、お久しぶりでございます」

 モートン氏は女性連れだった。
 彼と同じ赤髪のその女性は愛嬌たっぷりにステフに笑いかけていた。
ステフと女性の目が合ったその瞬間、掴んでいたステフの腕に力が入ったのが伝わってきた。
 ……知り合い、だろうか?
 私がステフと女性を見比べて困惑していると、モートン氏は言った。

「殿下、是非僕の妹と踊ってください。マージョリーはダンスが得意なのですよ」

 妹。
 あ、言われてみればこのふたり似ているかもしれない。同じ色彩だし。

「悪いけど遠慮しておくよ」

 他の女性と踊るのかなと私が不安に思う暇すらなかった。ステフはあっさり断ってしまったからだ。
 私を気遣うというより、断固拒絶とした断り方に見えたけど気のせいだろうか。考える間もなかったよね?

「同じ寄宿学校で学びあったよしみでしょう? ここは僕の顔を立ててくださいよ」

 断ったのにモートン氏は諦めなかった。
 あまりしつこいと逆に妹さんが恥をかくことになるけど大丈夫だろうかと心配していたのだが、モートン氏は私の心配をよそに次なる暴言を吐き出した。

「まさかそこの運命の花嫁殿が口うるさいとか?」

 突然私に対する暴言が飛んできて、私は数秒固まってしまった。

「いけませんよ、結婚前から男を縛るような真似をしては。これだから平民育ちの女は」

 ……なんですって? と聞き返したかったけど、驚きすぎて声が出なかった。
 ステフがダンスを断ったのは私が悪いって言いたいの? 別に誰かと踊らないでって彼に言ったことないんだけど。

「さぁ殿下」

 笑顔でにこやかに毒を吐き捨てた男はステフに自分の妹の手を取れと促している。
 まだまだ修業の足りない私は、うまいこと反論できずにその光景を呆然と眺めているだけだったのである。
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