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続編・私の王子様は今日も麗しい
お客様、突然踊りだされたら困ります。
しおりを挟む招待状は送った。マナーやルールの見直しもした。
使用人の配分も打ち合わせも済ませた。お客様にお出しするお茶やお菓子の準備も終えた。
席の位置も完璧だし、お帰りの際にお渡しするお土産だって用意済みだ。
──なのに、予定より人数が多い気がするのは気のせいだろうか。
私はぞろぞろやってきたお客様たちを前に引きつった笑顔を浮かべていた。
できることなら、お茶会の予行練習をしておいたほうがいいとミカエラ大叔母様から言われたので、王宮内の一室をお借りして、疑似お茶会を開くことにした。
このお茶会に招待するのは、私がなにかヘマをしても苦笑いで窘めてくれるような人だけ。練習に付き合ってくれる優しい人だけが参加している。
身内であれば、フェルベーク公爵家からはミカエラ大叔母様と大旦那様、義兄のオーギュスト様。そしてステフの義父になる予定のヴァイスミュラー公爵、ブロムステッド男爵家から伯父様と伯母様。
友人はカトリーナ様とカーティス伯爵子息、ポリーナさんとクレイブさん。それとステフの特別親しいご友人たち数名。
招待したのはそれだけだった。
それなのに呼んでいない人たちがやってきたので内心焦っていた。
私、間違って招待状送ったのかな…?
ステフからお茶会のことを聞いて足を運んだ王太后様ならまだわかる。同じ敷地内の離宮にいらっしゃるから、ほんのピクニック気分で飛び入り参加したのだろう。
しかし、すでに社交界を引退されたであろう貴族のご隠居夫婦が複数参加されて、本来友人たちに割り当てていた席を占拠されてしまったのには目を剥いた。
自分の席にちゃっかり着席しているご老人たちを見た若者たちは苦笑いを浮かべている。
「ミカエラ様にお話を聞いてね、私達も参加してみたくなったんだよ」
「お手並み拝見させていただきますわね」
なんか私の仕事ぶりを観察しに来たみたいな言い方をされ、ただでさえ緊張していたのに、絶対に失敗してはいけない空気を感じる。
普段は領地で隠居しているって聞いたのに、わざわざ王都までやってきたの? おままごとみたいなお茶会に参加するため? お年寄りなのに行動力ありすぎない?
飛び入り参加を事前に聞いていなかった私だけでなく、使用人たちも大慌てで新たに席を準備する。お菓子やお茶だって追加で持ってこなくてはならない。余分になければ、即席で新たに作ってもらわなくては。
追加で作ってもらった分は最終確認で毒見役に味見をして貰う必要があるし、予定にはなかった作業が増えて私はテンパってしまった。
そんな事など露知らずなご隠居たちは、「まだ始まらないの?」と呑気に声をかけてくる始末。
何度もひとりで本番を想定して練習したのに、もうぐだぐだである。
「レオーネ様を見ていると本当にミカエラ様のお若い頃を思い出しますわ」
「ほんとに…そういえば昔こんな話題で盛り上がりましたね」
ホストである私が仕切って盛り上げなきゃいけないのに、隠居世代の彼らは勝手に昔の話で盛り上がりはじめた。若者世代は話題に乗れずに聞き役に回る。この時点でお茶会は失敗だと私は悟った。
練習が練習にならない…これは遠回しの嫌がらせなのだろうか…友好的な態度を示しながら、本心は私を受け入れていないから妨害をしようとしているの…?
軽い人間不信になりかかった私は遠い目をしていた。
「あぁ、昔の話をしていると若い頃を思い出して足が疼いてきたわ」
「楽器を弾けるものはいないかね」
ホスト無視の進行だけじゃ飽き足らず、音楽を奏でろと言い出した。
そんな事言われても夜会じゃないんだから楽団なんか手配していないし、私はお母さんに習った手慰め程度のピアノしか弾けない。人様の前でお披露目できるほど上手というわけじゃない。普通に無理です。
ここは反感を買うのを覚悟の上で注意しよう。流石に好き勝手に振る舞いすぎだと。
私は意を決して一歩足を踏み出すと、私が口を開くそのタイミングで「僕、弾けますよ」と名乗り出てきた勇者がいた。
ぎょっとして声の主を見るとそれはステフの友人の1人で、確か彼は辺境伯子息だ。
「君、楽器を保管しているところまで案内してくれないか?」
「えぇと…」
彼は近くにいた使用人にそう声をかけて狼狽えさせていた。
判断に困っている使用人の代わりに私が対応しようとしたが、後ろから肩をぽんと叩かれた。
「大丈夫だよ」
ステフはなにか知った顔で私を止めた。私はそれが信じられなかった。
全然大丈夫じゃないでしょう。ゲストにお茶会をめちゃくちゃにされているのだ。これを放置するのはホスト失格。それをなにもせず、ただ黙って見ていろって言うのか。ステフはそれでいいの?
それとも、私の手には負えないからもう何もするなってことなの?
私はぐっと拳を握って堪えた。
何もできない焦燥感を抱えて、なんだか泣きたくなってきた。
使用人を伴って戻ってきた辺境伯子息の手には年代物のアコーディオンがあった。
貴族ってピアノとかヴァイオリンを教養として習っているって聞くけど、アコーディオンも弾けちゃうのか。ボタンがあちこちにあって難しそうなのに…
彼はアコーディオンの音を軽く確認すると、手慣れた仕草でよく耳にするワルツ曲を奏で始めた。
前もって他の使用人たちが席を移動させてダンスできるスペースを作っていてくれたため、即席ダンスフロアにぞろぞろ出てきたご隠居組は夫婦でペアになって踊りだした。
それを前にした私は頭を抱えていた。こんなのお茶会じゃない。一から決めて最後まで段取りを組んだのに全て無駄になった。
もう知らない。どうにでもなってしまえ。
「レオーネ」
やけくそな気分で踊る彼らを眺めていると、ステフに呼びかけられ、手を引っ張られた。
「私達も踊ろうか」
「え…?」
まさかステフもやけくそになってる?
ホストがゲストに紛れてそんな事しちゃ駄目でしょう。
躊躇った私は抵抗も兼ねて踏ん張るけども、ステフはお構いなしに引っ張るものだから無駄だった。
ダンスフロアと化した場所へ連れ出されると、私はステフとワルツを踊った。
私が開いたのはお茶会だ。ダンスタイムなんて設けていないのにだ。夜会でもないのになんで踊っているんだと私が難しい顔をしていると、それがおかしかったのかステフが喉の奥で笑っていた。
「よく頑張ったね、レオーネ」
「……お茶会ってこんなのじゃないですよね……」
頑張ったけど、その頑張った成果を発揮できなきゃ意味がない。と言うと、ステフは笑った。私は面白いことなんか一つも言っていないのに笑うとかひどい。
ステフがおもむろに身を屈める。彼の美麗な顔が近づいてくるのをぼんやりと眺めていると、ふわりと唇に柔らかい感触が落ちた。
私は慌ててバッと離れると、すかさず彼を窘めた。
「殿下! 人前ですよ」
「ごめんね、レオーネが可愛くてつい」
もう! と私が彼の腕をぱしりと叩くと、周りで小さく笑う声が聞こえた。
「ステファン殿下はレオーネ様が可愛くて仕方がないのですね」
老婦人に笑われた私は恥ずかしくて、顔を伏せた。
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問いかけされた伯父様と伯母様はふたり目を合わせて、へらっと笑っていた。
「実は以前から何度かステファン殿下にレオーネの事を聞かれることがあって、返事を濁していたのですが……この際だからはっきりさせて置こうと思いまして」
伯父様の話は完全に寝耳に水だった。
そうだったの!? 初耳なんですけど!
「王族の運命の相手占いは絶対ですからね。その結果で可愛いレオーネが悲しむことになるのはわたくし達も望んでおりませんでしたので、あえて殿下には何もお知らせせずにあの場で引き合わせたのです」
伯母様の発言に私は目を剥く。
つまり、私達を再会させたところで、私が選ばれない可能性もあったから会わせることに消極的だったと言うわけだ。
身分の差もあって現実的には叶わぬ恋だったと私もわかっている。彼らの心配も理解できるので、私も強くは言えない。
「ですけど、その不安も杞憂でした。殿下はレオーネを見た瞬間からずっと視線を外さないのですもの。花嫁占いでもレオーネの特徴が見事言い当てられ、2人の出会いはそもそもが運命なのだと確信しました。それでわたくし共も安心して姪をお送りすることができましたの」
うふふと笑った伯母様。
だけどあの時、私は置いてけぼりにされてとても不安で寂しかったんだよ…。知っていたならもうちょっと説明してほしかったな。私、初恋の相手のことすっかり忘れていたんだから。
「ちょっと待て、ブロムステッド男爵、夫人……万が一占いでレオーネが該当しなかったら、私に何も言わずに連れて帰るつもりだったのか?」
今の話に疑問が湧いたステフが問いかけると、伯母様は扇子で口元を隠し、伯父様は何を企んでいるかわからない目をして笑っていた。
「私共としては姪の幸せが第一ですので」
「……忠実な男だと思っていたが…一筋縄じゃいかないな」
一本取られたとばかりにステフは片手で頭を抑えていた。
この場合、年の功もあるんだと思う。私には優しい伯父様伯母様だけど、貴族として、領主として、そして事業主として渡り歩いてきた彼らのほうが人生経験も多く、一枚上手なんだよ。
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