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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
ぴかりんにラブレター? 奥ゆかしいのか、それとも。
しおりを挟む「あれ? …あたしの靴箱になにか入ってる…」
「なになにラブレター?」
「今どき~?」
体育が終わってグラウンドから戻ってきた私達は下駄箱にいた。ぴかりんが靴を履き替えようとして自分の靴箱を開けると、中に手紙が入っていたのだ。手紙とか今どき古風だな。
だが、ぴかりんは気味悪がっていた。なぜなら手紙には差出人の名がない上に、手書きではなくてパソコンで作成した文書だったから。
脅迫状みたいで怖い。念のために見せてもらったけど、内容は【あなたが好きです。応援してます】みたいなことが書かれていた。
気持ち悪いけど、捨てるのは失礼だからとぴかりんはそれを持って帰っていたが、手紙は翌日もその翌日も入っていて、4日目にはぴかりんの隠し撮り写真が入っていた。
そしてパソコンで作成された手紙には【いつもあなたを想っています】と書かれていた。
…怖い。
流石にここまで来るとストーカーを疑ってしまう。ぴかりんもすっかり怖がってしまった。
ぴかりんは少し気が強そうな美人さんだから気軽に声が掛けにくいかもしれない。だけどこんなアプローチの仕方されても喜ぶ人はいないと思うよ。多分。…稀にいるかも知れないけどさ…
怯えているぴかりんからその手紙を預かった私は、監視カメラ映像の管理をしている風紀委員会に対して、昇降口に設置された監視カメラ映像の開示をお願いしに行った。
こりゃ気持ち悪いから、風紀委員の人もすぐに動いてくれるだろう。
……しかし丁度全員出払っていたのか。風紀室には誰もいなかった。
いないなら仕方がない。日を改めようと思って引き返した。
■□■
「……なに、これ…」
「……ぴかりん、教室に入ったら出ないようにね。いい? 私は風紀に相談してくる」
「やだ! こんな写真、他の人に見られたくない!」
「これは見せなくて良いよ。昨日の手紙の写真だけで訴えることは出来ると思うから」
翌日、登校途中でぴかりんと会ったので一緒に昇降口に向かったのだが、ぴかりんの靴箱にまたあの手紙が入っていた。
だが、今回はさらにエスカレートしていた。
更衣室で着替えるぴかりんの写真が手紙の中に入っていたのだ。
それを見たぴかりんは半泣き状態であった。
こりゃもうアウトだ。
私はぴかりんを落ち着かせるために冷静に宥めたが、内心とっても腹が立っていた。頭に血が上ってしまっていた。
誰だこんな事したのは…! 何が目的だ! ぴかりんのことが好きなんじゃないのか! なんでこんな嫌がらせみたいな事をするんだよ!
……見つけ次第八つ裂きにしてやろうか!!
そもそもこの写真の状況は体育の授業の前後に女子更衣室で着替えていた姿だと思われる。…てことは……盗撮されたのはぴかりんだけじゃないかもしれないって事だよね? 他にも被害者がいるってことじゃないの!? 更衣室のどこで盗撮をしたっていうんだ!
いち早く犯人をとっ捕まえなければ!
風紀室に特攻しようとした私の耳に「あははっ」という笑い声が聞こえてきた。人が沢山出入りする昇降口だ。誰かがどこかで笑っていてもおかしくはない。
だけど悪意が込められたようなその笑い声に反応した私は、素早い動作で辺りに視線を走らせた。だけど人混みに紛れて何処に犯人がいるのかが見つからない。
誰だ、こんな最低なことをしたのは…
…監視カメラで犯人を特定せねば!
証拠は昨日ぴかりんから預かった隠し撮りされた写真と手紙があるので、そのまま廊下を全力で駆けていった。
風紀室の扉をノックせずに勢いよく開けると、驚いた様子の風紀委員長の奥さんが目を丸くさせて固まっていた。
「に、二階堂、ちゃんとノックを」
「それはすみませんでした! 私の友人が嫌がらせを受けているので、監視カメラ映像の開示をお願いします!」
「監視カメラ…? …嫌がらせって一体何があったんだ」
奥さんは驚いてずれたメガネを片手で直しながら、神経質そうな顔を顰めていた。何があったのか尋ねてきたので、私は奥さんが座っている机の上に証拠を並べて被害を訴えた。
「これ! 見てください。立派なストーカー行為だと思いませんか?」
「……隠し撮りか…」
「今日は着替えている写真でした。それは本人が嫌がったのでお見せできませんけど、女子更衣室で撮られたものだと予想します」
「わかった。ここ最近の映像でいいな?」
こういったことに慣れているのか、奥さんの行動は素早かった。少しくらい渋られて、手間取るかなと思ったらそんな事なかったよ。
ここ数日ほどの下駄箱付近の映像を早送りで眺めていると、うちのクラスの人間ではない生徒が何度か1-3の靴箱に近づいて何かをしているのが見えた。それは女子生徒。そして翌日、翌々日の映像にも同じ人物が映っていた。
1日程度なら、好意のある人に手紙を送る古風な女子生徒もいるよね、とは思えるけど…同じ人が5日連続で他所のクラスの下駄箱でなにかしていると…完全に黒だよね。手に持っている白い物体を靴箱の中に入れているようにも見えるし…
この学校は外部委託の清掃員がいるから、生徒達は掃除する必要がない。だから連日に渡って他のクラスの靴箱に近づく理由がないのだ。なのでこの人達が犯人で間違いないと思っていいはず。
しかし英学院の監視カメラは性能が良いな。拡大したら画像が荒くなるってものなのにこんなに精細で……何画素なんだろ。はっきり犯人らしき女の顔が確認できる。
…うーん…化粧をして綺麗にはしているけど…英学院の制服が浮いてしまっているように見える。ていうか……誰だこの女…
「……誰ですこれ」
「…同級生の名前くらい覚えないか」
「すいません」
学年全員の名前は把握してないよ流石に。クラスで精一杯。
奥さんはため息を吐き、モニターを眺めながら目を細めた。光の加減で奥さんのシルバーフレームのメガネがピカーンと光った。
メガネしている人って頭良く見えるって言うけど、ただの視力矯正だよね。でも頭良く見えるの分かるわぁ。
「…この間、1-5の河辺からも相談があってな。こいつのことは風紀でも調べていたんだよ」
「…河辺?」
河辺というのは…掲示板前で被害者を貶す発言をして、被害者女子にとどめを刺した男子生徒のことかな。……てことは、河辺とやらも被害者だというのか?
「これは…1-5の玉井とその取り巻きだ。…中等部の頃からの問題児なんだ。何か起こしても金で沈静化させる面倒な人物でな」
「……玉井…」
「先日まで主席の特待生である幹をターゲットにしていたようだが…今度はスポーツ特待生の山本か…」
問題児……金で沈静化させるって…一番金と権力をもたせちゃいけないタイプじゃない。
なんでクラスの違う接点のないぴかりんにこんな嫌がらせを? 幹さんと同じく傷つけてしまおうって思ってるの?
「1-5……玉井、玉井ね…」
「とりあえず昼休みに例の奴らは呼び出してみるから」
「わかりました」
風紀委員の方でも問題視していて、加害者を注意してくれるらしい。こちらとしても証拠が欲しいので、決定的瞬間の監視カメラ映像のプリントをしてもらった。
風紀室から退出すると、私は走ってはいけない廊下を爆走した。
玉井、顔はしっかり覚えたぞ…! お前の顔だけは絶対に忘れん!
よくもぴかりんを傷つけたな……八つ裂きにしてくれるわ!!
私はぴかりんの仇を取る為に、いじめ常習犯・玉井に直接文句を言いに行くことにしたのである。
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