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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
八つ裂き=物理
しおりを挟む「あんたが玉井?」
「……それがなに?」
1-5の教室に無断で入室して、私は例の人物の前に立ちはだかった。
本人かどうか確認したのはわざとだ。その顔はしっかり覚えているからな。…可愛らしい部類かもしれないが、よく見ると性根が腐っていそうな顔だ。相手は喉元を晒すようにして顎を上げて私を見返していた。随分不遜な態度だな。
玉井は足を組んで机に座っていた。所作があまりセレブ生らしくないなと思うのは私の偏見なのだろうか…机は座るところじゃないよ?
私が来た理由がわかっていないのか、それとも私を…いや、エリカちゃんを恐れていないからそんな態度なのだろうか。
…どんな理由があってあんなことしたのか。私は玉井をイチから問い詰めてやろうと思う。
「…1-3の山本ひかりに対して嫌がらせ行為を働いたね? 監視カメラであんた達の行動は掴んだから言い逃れはさせないよ」
「…で?」
「……なんでこんなことしたの」
あ、いかんコイツは確かに面倒くさい相手だ。防犯カメラの存在云々すらどうでもいいって感じ。正に犯行を楽しんでいるんだ。常習犯だって言うから性根が腐っているのかもしれない。
だけど泣き寝入りなんてしてやらない。ぴかりんがどれだけ恐怖を感じたか…! 思い出すだけで腹が立ってくる。私は拳を握って自分を戒めた。
冷静でいようと自分を律しながら玉井に問いかける。だけど相手は全然反省する気配もなく、鼻で笑った。
「べぇつにぃー? 退屈だったから。だってあいつ特待生じゃん。金食い虫じゃん。目障りだったからさぁ」
「…その、特待生のお蔭で英は有名なんだけど? 別にズルしてるんじゃなくて、ちゃんと実力があった上で特待生と認められてるんだけどね?」
この説明でわかるかな? 私でも知ってるんだからこの人が知らないわけがない。
玉井は私の話をちゃんと聞いているのか、こちらを完全に見下したような表情で笑っていた。
「ていうか目障りなのは二階堂エリカ、あんたもなんだけど。なに正義の味方気取りなの? ばっかじゃない? ダッサ」
イライライライラ…
いかん、落ち着け、ここでキレたらこっちが不利になる。落ち着け、落ち着くんだ笑。
この身体はエリカちゃんの、エリカちゃんの身体でブチ切れたりしたら後が大変だから……
私は必死に冷静を保とうとした。そう念じていないと、血気盛んで単細胞な私が飛び出してきそうで……
「……あの隠し撮り写真はどうやって撮影したの? 他にもあるんだよね? データは?」
「スマホに決まってんじゃん。…思ったよりバレるの早かったなぁ。こんなことなら印刷して掲示板に貼り付けておけばよかったー」
玉井は見せびらかすように蛍光ピンクのケースに入ったスマホを掲げてきた。
こっちをおちょくるようなその態度に私の怒りゲージはぐんぐん上昇していくのがわかった。
着替え最中の隠し撮り写真を掲示板に貼り付ける? …何いってんだこの女…
「……そのスマホに特待生の幹さんとのメッセージやり取りの履歴もあるの? …SNS上で河辺とやらになりすましたのはあんただよね?」
「幹? …誰だっけ~?」
「ちょ忘れんの早すぎだし」
何が面白いのか、玉井とその周りにいる取り巻きはケタケタと笑っている。…異様だ。
異様なのはこのクラスの生徒達も。みんな息を潜め、こちらの動向を眺めるのみ。…コイツらに怯えているのだろうか。
…もしかしたら味方もいない状況だったのか幹さん。奨学生だからとあんな理不尽な扱いを我慢しないといけなかったというのか。
…こんなのおかしいに決まっている。こんな事をする生徒を野放しにしている学校の体制も甘い。…お金で解決なんかするからこんなことに…だからこいつらは調子に乗って行動をエスカレートさせていくんだ…
「…あんたらみたいなアホがいるからこの学校がおかしくなるんだよ」
「…は? 今なんて言った?」
「寄付してんのは親。あんたたちじゃない。あんた達が稼いだお金でもないのにどうしてそんなに威張れるの?」
私が指摘してきたのに苛立ったのか、玉井の表情が険しくなった。だけど私も負けじと睨み返す。
だってそうでしょう。コイツらが働いたお金じゃないのに、なんで親の手柄を横取りして威張ってんの? この人は別に何か役職についているわけじゃないでしょ?
ただ人の事を踏みにじって喜んでいるワガママな子供だ。
こんな奴らがいるからセレブ生と一般生の間の溝が更に深まるんだよ。この学校は歪になっていくんだ。…他人に向かって力を振りかざして、バカにして貶めるような権利は誰も持ってないんだよ。自惚れんな…!
「……あんたらの理論で言ったらさぁ、目障りなら、いじめてもOKなんだよね?」
本当はこんな事したくはないんだよ。でもこの人は痛い目を見ないとわからない。なら、私が悪者になるしかない。
友人のためだ。後でちゃんと反省するから。
私の言葉が理解できないようで、玉井は訝しげにしていた。まさか自分は何もされないと思っていた? 私はエリカちゃんのような大人しいお嬢様じゃないんだよね……思い立ったら行動しちゃう系女子なんだよ。
スッと前に手を伸ばすと、目に痛い蛍光ピンクのケースに入ったスマホを玉井の手から取り上げる。反応が遅れた玉井はそれをポカンと目で追っていた。
そして私は……自分の感情の赴くままに、スマホを教室の床に叩きつけると、思いっきり足を振り下ろした。
ドスッ
「きゃーっ!?」
私が玉井のスマホを踏み潰すと、玉井は世界の終わりのような顔をして悲鳴を上げていた。
「スマホなら弁償してやるよ! 私がちいさい頃からコツコツ貯めてきたお年玉でな! 安心しな!」
「っやめっ、やめてよ!! なにすんのよ!?」
玉井が血相を変えて叫んでいるが、私は情け容赦無く足を振り下ろす。
誰がやめるか。
あんたがいじめてきた人たちだってやめてって心の中で訴え続けていただろうよ。
こんなものがあるからいけないんだ。こんなものがあるから悪知恵を働かせちゃうんだ! まっさらになってイチからやり直しなさい!
ガッ、ダンッ、ダシッ
物を粗末にするなんて、人の物を壊すなんて悪いことだって知ってる。
でもこの中には人の弱みがたくさん入っているに違いない。なら消してしまったほうが良い。
「いいか玉井、皆これよりも傷ついているのだぞ。皆の苦しみを思い知るがいい!」
えいえい! データ消えろ! SDカードデータも全て消えろ!
私は超速で玉井のスマホを踏みつけた。踏んでいるスマホからバキベキ音が響いてくるが、私はやめてやらない!
「信じらんない! 何すんのよあんた!」
「あんたこそ私の友達にどんな酷いことをしたかわかってないのか! 文句あるなら私が相手になる! いつでもかかってこい!!」
液晶が蜘蛛の巣どころか、さんざん踏みつけて電源ごとご臨終したスマホをみて、玉井は半狂乱になっている。
悔い改めよ。私は反省と弁償するから。
スマホの電源を入れてみても、うんともすんとも反応しないことに半泣き状態の玉井をひとまず放置しておく。
傍観していた玉井の取り巻きにもスマホを壊すから出せよと脅迫していると、後ろから呆れた声を掛けられた。
「…どっちがいじめっ子だ」
「あ、慎悟、おはよう」
なんで5組に慎悟がいるんだろう。
あ、もしかして親戚のエリカちゃんを止めてくれって何処からか通報が行ったのだろうか。
慎悟は何だか疲れた顔をしていた。そんな顔してどうしたよ? まだ今日は始まったばかりだよ?
「……本当にあんた、何してんだ?」
「コイツらぴかりん…私の友達のことを盗撮してたから、データもろとも消失させてやろうと思って。注意しても全然反省する素振りもなし。悪質だから物理で教育的指導をね」
ちゃんと反省と弁償はするからと私が鼻息荒く宣言すると、慎悟はバキバキに破壊された玉井のスマホをチラ見してボソリと呟いた。
「…スマホ壊さなくても、データ全削除すれば良くないか」
「…その手があったか」
私は思わず手を打った。なんでそれを思いつかなかったのだろう。頭に血が上がりすぎてたのかな?
取り巻き達に「壊さないでやるから全消去させろ」と再脅迫している所でチャイムが鳴ったのである。
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