お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

私がお前を好きになることはない。

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「他の二人の盗撮写真データは全部削除させた…しかし二階堂、ちょっとやりすぎなんじゃないか?」

 頂いたお説教に対して、私はムッとした顔を隠さなかった。
 …やりすぎかぁ……じゃあ着替えの盗撮とか、SNSなりすまし&掲示板に晒して名誉毀損は許容範囲内とでも言うのか?

 あの後生徒会室に呼び出しされた私は、生徒会長の嶋崎さんに苦言を呈されたが、こちらこそ苦言を言わせてもらおうかな。加害者に甘いのは法律だけじゃないんだな。この学校の対応も十分に甘い。他人事だって言いたいのかな? こっちの大義名分も訴えさせてもらう!

「ていうか今までの学校側の処置が甘すぎたせいで、玉井の行動がエスカレートしてきたんじゃないですか? 私は友人を守るためにやったんです。私がこっそり録音していた玉井の発言をさっき聞きましたよね? アイツらが反省した様子がなかったでしょう?」

 私はしっかり反論させて頂いた。お金とか権力で解決してきた弊害が今起きているんだ。私のやったことは確かにやりすぎだろう。でもあいつらは野放しにされ続けて色々余罪があるんだよ? 放置してきた生徒会や風紀、学校関係者も加害者のようなものだよ?
 今回は私も加害者だけどね!
 エリカちゃんごめん! 反省はする。しかし後悔はしてやらん!

 私の指摘で耳が痛いのか嶋崎さんはグッと口ごもっていた。嶋崎さんは自分と同じ奨学生がこんな目に遭って悔しいとは思わないのだろうか。同じ境遇ならなにかしてやりたいとか考えなかったのだろうか。生徒の代表として思うところはなかったのだろうか。

「それに壊したものは弁償はしますし、他に何かあるなら私に言うように伝えてます。……向こうが被害者にしっかり謝罪するなら、私も謝罪をしましょう」
「……」
「家の両親にはメールで報告してます。この件で罰則があるなら大人しく従いますよ」

 罰則といえば、トイレ掃除とか反省文がセオリーだが、英の罰則は何だろうか。
 折れない、曲げない態度の私に嶋崎さんはこめかみを抑えていた。

「……二階堂がこんな奴だとは思わなかった」
「ていうか全然知らないでしょ。私のこと」

 エリカちゃんとは違う学年で、立場も違う異性だし。全く接点がないんだから知らないだろう。エリカちゃんの何を知っているというのか。私もよく知らないけどさ。

「とりあえず罰則が決まったら教えてください。…もういいですか? 教室に戻っても」
 
 いじめ被害者の幹さんのサポートはどうなってんだろうか。まさか放置なんてないだろうな。
 玉井のスマホ私が踏んで壊したよ、懲らしめてやったよ! って教えてあげたいけど、セレブ生エリカちゃんの姿をした私から連絡したら幹さんが怯える恐れもあるし……

「失礼しました」

 退出の許可をもらってから生徒会室を出て、私は1年の教室に向かおうとしたのだが、1階から2階に繋がる階段前に奴がいた。私を待ち伏せしていたかのように堂々と。
 …だから神出鬼没かお前は。

 私はぎょっとして、咄嗟にスカート付近に取り付けた防犯ベルに手をやる。
 だけどあいつはそこから一歩も動こうとしないので、睨み合いをするような形で相手と対峙した。…また私の監視でもしていたのか。クラスが違うのによく嗅ぎつけたな。

 …上杉は、感情を伺わせない無表情でエリカちゃんの姿をした私を見ている。その目は失望とか、苛立ちとか、困惑とか色んな感情がごちゃまぜになったような色をしていた。
 私はいつでもボタンを押せるように防犯ベルをしっかり握って、上杉の動きを注視した。
 
「…君は、二階堂さんはどうしちゃったのかな? …どうして変わっちゃったの?」
「はぁ…?」

 やっと口を開いたと思えば、悲しそうな声で上杉は話し始めた。首をフルフルと横に振って、実に嘆かわしいと言いたげな仕草で嘆いている。

「……君は物静かで、お淑やかな控えめな女性だったはずなのに……いつからそんな乱暴でがさつな女に成り下がってしまったんだ…」
「……」

 悪かったな。乱暴でがさつな女で。こちとら庶民育ちの体育会系なんだよ。お淑やかだけじゃやっていけませんの。中の人が違うんだよ。お生憎様。
 私が胡乱に見上げているのに気づいているのかいないのか、上杉はここにはいないエリカちゃんの姿を探すかのような目を向けてくる。
 それは二階堂パパママの娘を探す目とは違う。彼らの慈愛の目とは違う。
 こいつのそれは執着だ。自分勝手な欲を含んだ、性欲に似たそれ。
 
 …本当にコイツも玉井と同じで自分勝手な人間だ。あんな事して好きな子を手に入れて嬉しいのか?
 …エリカちゃんがそんな男に惚れるとでも思ってるの?

「……私を、孤立させるように仕組んで、失敗してしまった時はどんな気持ちだった?」
「…気づいていたの?」
「大好きな婚約者に裏切られたからって、他の男に乗り換えるような軽い女に見えてた? …馬鹿にしてんじゃないよ。そんな軽い女じゃない」

 エリカちゃんの部屋で過ごしてきた私が見つけたのは努力の証の数々。
 教科書やノート、問題集にはすごい書き込みの数。勉強家であったのが伺えた。
 習い事の道具は使い込まれており、しっかり手入れされていた。教本は何度も復習した跡が残っていた。
 マナーや教養の本は読み込んで擦り切れており、自分を磨くための弛まぬ努力を続けてきたエリカちゃんのドレッサーは沢山の化粧品や美容用品があった。
 宝生氏のために料理の練習もしていたようで、自作のレシピノートが本棚の中に収められていた。

 それらは大好きな婚約者のため、彼の奥さんとして恥ずかしくないように必死に頑張ってきたのだろう。エリカちゃんは宝生氏のために努力を怠らなかったのだと思う。

 私には無理だ。そもそも死んだ私にはそれのどれも、何の役には立たないから。
 元々私は勉強が苦手…というか嫌いな質だし、運動している方が割りに合っている。
 マナーとか教養なんてそんなもの必要としないし、習い事も同様だ。バレーをするために辞めてしまった。エリカちゃんに身体を返したら、彼女の意志で再開したら良いだけの話だし。

 エリカちゃんは好きな人のために努力していた。それは私にもわかった。
 本当に好きだった人に振られてすぐに、他の男になびくなんて無理。暫く引き摺るに決まっている。少なくとも私がそうだから。エリカちゃんだってきっとそうに違いない。
 …婚約者との仲が最悪になるように裏で仕組んだ男のどこを好きになると思っているのか。

「…大好きな婚約者のために、お淑やかに振る舞っていたとは思わないの? 宝生氏に振られちゃったからそれをやめたの。…これが本当の私。残念だったね?」
 
 コイツに本当のことを気取られてはならない。エリカちゃんを守るために私が彼女の身体にいる間は、虚勢を張ってでも守り通さねばならない。
 それが、私がエリカちゃんのためにできることである。
 …今からでも日記に毎日の記録でもして、エリカちゃんが戻った時に読めるようにしたほうが良いかもしれないな。エリカちゃんに身体を戻した時、コイツの罠にハマってしまう恐れがあるから。

 私は上杉を力強く睨みつけるとはっきりきっぱりこう言ってやった。

「私があんたを好きになることは絶対にない。よく覚えておきな」

 私は宣戦布告をするかのように上杉にそう宣言すると、奴の横を全速力で通り過ぎた。
 後ろ姿をあの蛇の瞳でじっと見つめられているようで背筋がゾゾゾとしたけど、私は決して後ろを振り向かなかった。


■□■


 私のしでかしたことは、二階堂パパママにもきっちり注意された。そんな気はしていたけども。
 「友人を守る方法は他にもあったはずだ」とか「自分が動かずとも学校側が動いただろう」って。
 でもそうじゃない、学校が頼りにならないから私は動いたのだと訴えた。だからエリカちゃんだって孤立したのだ。生徒会も風紀も力になろうという素振りはあっても、何処かナアナアで済ませようとする所があった。
 言っちゃ悪いが全く頼りにはならない。

 エリカちゃんの印象が悪くなったのは申し訳ないけど、私が英学院に通い始めた時点でエリカちゃんは孤立して印象が悪かったんだよ。そう仕向けられていたから。
 エリカちゃんは英の校風に馴染めずにいた。それもあって誰も味方になってくれなかったんだよ。
 …助けを待っていたって誰も助けてはくれない。自分から行動しないと…大体玉井は再犯で、全然反省した様子がなかったし、ああでもしないと…いや、ああしてもあいつは凝りないかもしれないけどさ。
 
「私の友達は着替えてる姿を盗撮されたんだよ? それがネットに拡散されていたらって考えたら…何もせずにはいられないよ。犯人は全然反省していないんだよ?…被害者が泣き寝入りするのを黙って見てろって言うの?」

 私の切々ならぬ訴えに二階堂パパママも納得できる部分があったのか、沈黙していた。パパママの母校でもある英学院だが二人も思うところがあったようである。 
 私は悪者を裁いて良い立場じゃないのかもしれないが、友達を守る権利くらいあるはずである。
 …反省はしてるよ!


 私が大暴れした結果、大事になった一連の事件。
 事の重大さに漸く気がついた学校側は、特待生の幹さんの所属クラスを変えること、そしていじめ主犯には説教・被害者への謝罪の手紙、私には反省文という形で片をつけた。
 ぶっちゃけそれだけ? と問いかけたいが、学校なんてその程度しかできないのだろう。期待するだけ無駄である。

 私は加害者でもあるので、二階堂パパママ立ち会いのもとで玉井の両親にアポイントを取ると、相手方の家まで伺った。
 そして玉井の親に対して「どうしてスマホを破壊する状況に至ったか」をイチから順を追って丁寧に説明した後にスマホ代を弁償した。もちろん私のポケットマネーでね。二階堂パパママには払わせなかったよ。
 松戸笑の貯金は私のものだからと私の両親が全額現金で預けてくれてたから、それから捻出しましたよ。自分のしでかしたことはちゃんと責任取ります。

 慰謝料? ナニソレ美味しいの?
 被害者の幹さんとかぴかりんに対して玉井たちが慰謝料払うなら、私も考えないこともないよ。

 ちなみにクラウド上に隠し撮りデータが残っている可能性も考えられたので、その辺りもまっさらにすることを玉井の両親に念押ししておいた。こんな時に二階堂家の権力が役に立ったのか、二階堂パパママを前にして玉井の両親は最初から最後までイエスマンであった。ていうかこの親も娘を甘やかした自覚はあるのか、平謝りしていた。
 …私じゃなくて被害者に謝ってほしい。

 機種を新しく買い替えた際に、バックアップを取っているであろうデータを責任持って全削除することを約束してもらったよ。
 また同じような事をしでかさないように玉井にはガラケーを買い与えるようにお願いした。間違ったスマホの使い方をする玉井にはガラケーで十分だよ。
 なんならお子様ケータイで十分だ。
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