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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
秀でるものがある貴方は強いのだ。
しおりを挟むという訳で巻き込まれるような、自ら突っ込んでいったようないじめ事件が収束した(させた)あと、期末テスト期間に入って部活が休みになってしまった11月も末のある日。
【ピンポーン】
『……はい』
居留守使われたらどうしようかと思ったけど応答があったのでホッとした。
「あ、すみません私二階堂と申しますけど、幹さんですか?」
『はっ……にかいどう!?』
私が宿主の名を名乗ると、インターホンの向こうで裏返った声を出した相手。『ちょっとお待ちください!』と言われてインターホンの通話が切られたのだが、部屋の中からバタバタ慌ただしい音が聞こえ始めた。
幹さんのお宅は庶民的な、年代物のアパートの一室だ。幹さんはお母さんと2人暮らしという話を聞いていた。2人ならこのくらいの大きさの部屋で十分だよね。エリカちゃんの部屋が広すぎて、私たまにウォークインクローゼットの中に住みたくなるもん。狭い所落ち着くやん。
時代を感じるドアの鍵がガチャン、と解錠されると、扉がそっと内側から開かれた。
怯えた表情をして中から出てきたのは度が強そうな眼鏡をした女の子。…あの掲示板事件の時、サッカー部の河辺は彼女のことをブスと評していたが、そんなことはない。全然ブスじゃないよ。河辺は何様のつもりなんだアイツ。
幹さんは十人並みの容姿ではあるが、理知的な瞳をした魅力的な子だった。
「…に、二階堂、様…どうして…」
「あ、様づけしなくてもいいよ。私はそんな偉くないから。…学校から連絡きてないかな? 幹さん、うちの3組にクラス替えになったって」
「……それは」
「玉井なら私が懲らしめておいたから安心して学校に来ていいよ」
「…え、懲らしめ…えっ?」
「今日はね、プリント持ってきたんだ。2週間後にテストがあるでしょう?」
私は鞄を漁り、担任からむしり取ったプリント類を取り出す。本当は事情を重く見た担任が自ら赴くつもりだったらしいが、私が行くと言ってのけたのだ。家は正反対だけど、こっちには送り迎えの車があるからね!
「幹さんは特待生だから成績落とせないでしょ?…私あまり字が綺麗じゃないけど、授業のノートのコピーも持ってきたの」
「え…あの…」
「幹さん頭いいんだから、ここで諦めたらもったいないよ! ここで負けたら悔しくない? 折角人よりも秀でた能力があるんだから、もう少し踏ん張って、アイツらを見返してやんない?」
私なりのエールを掛けた。ここで頑張れなんて言ったら余計に苦しくなると思ったので、踏ん張れと言葉を変えてみたのだが……
すると幹さんの眼鏡越しのつぶらな瞳からボロボロと涙が溢れ出した。
私はぎょっとする。やばい、今の彼女に励ましの言葉は余計だったか!
「ご、ごめん! 私無神経だった!」
「…ありがとう、ございます……」
「…え」
幹さんは小さくお礼を言うと、暫くそのまま泣きじゃくっていた。どうすればいいかわからなかったから、私が持っていたハンカチを差し出すと、やんわり遠慮されてしまった。
渡すもの渡したら帰るつもりだったけど、幹さんがせっかく来てくれたので、と中に入れてくれた。
幹さんの家は家庭的で、私の実家を思い出す温かみのあるお家だった。小さなアパートだから、幹さん個人の部屋らしい部屋はないらしい。部屋の隅にこじんまりとした勉強机があるが、本棚には沢山のテキストの数。使い込み具合から見て、すごく勉強しているのだとわかった。
「すいません、お菓子これしかなくて…」
「うま○棒! これ美味しいよね! ありがとう」
う○い棒、私好きだよ。たまに無性に食べたくなって延々と食べることがある。
今まで話したことのない相手だったので、なるべく彼女が楽しくなる話をしようと話を振っていたのだが、話がどう曲がったのか「玉井のスマホを踏みつけて再起不能にしたからデータは残ってないよ」という話をすると、幹さんは口をあんぐりさせていた。
幹さんにとどめを刺した河辺も失言があったとはいえ、被害者であることを知った幹さんは複雑な顔をしていた。
……まだ心の傷が癒えてないようだったが、幹さんは「頑張って学校に行く」と言っていた。
もうすぐ期末テストだから皆もテスト勉強に集中してるし、逆にタイミングが良いかもしれない。
翌朝、幹さんがおどおどした様子で3組の教室に入ってきた。勇気出して学校に来てくれたんだ、良かった!
私は彼女の机に誘導して、自分が知っている3組のことを教えてあげた。まるで転校生に説明しているかのようだが、幹さんにとっては完全にアウェイな場所なので仕方がない。
何とかこのクラスに馴染んでもらおうと私の友人達と…幹さんと同じ一般生のクラスメイトを紹介したりしてみた。
一応このクラスにも派閥はあって、セレブ生と一般生の間は微妙なのだが、私はどちらにも属していない。なのだが…3組の生徒は何故か私を見つけるとスマホをサッと隠して怯えた目を向けてくる。セレブ生も、一般生もどちらとも。
失礼な。何もしなければ壊さないよ。
何だその態度は。私がスマホを見たら無差別に踏みつけるモンスターみたいな目を向けやがって。
あれか? ついさっき玉井一同とすれ違った時にこっちを睨みつけてきたから
『今度また同じような真似をしたら、また壊しに行くからな…』
って念押ししたのが悪かったのかな?
あの後玉井の親から「娘にはフィーチャーフォンを買い与えました。クラウドデータもこちらで責任持って削除いたしました」と連絡をもらった。
命よりも大事なスマホが破壊され、それがガラケーに変わった罰は玉井には効果テキメンだったんだけど…やりすぎちゃったかな?
まあそのお蔭か、私が…表向きセレブ生の二階堂エリカが目をかけてる幹さんに表立って心無い発言をするバカタレはいないので良しとしよう。
■□■
「あのっ二階堂様、こちら良かったら…」
テスト一週間前の放課後、幹さんがおずおずと紙の束を私に差し出してきた。なんだろうか。
彼女からそれを受け取ってみると、そこにはズラッと数式が書かれており、それを見た私はクラっとめまいがした。
「……え、なんですの、これ」
「お世話になったお礼と言ってはなんですが…私が出来るのは勉強だけなので、差し支えなければ、勉強をお教えします」
「!? …あの…いや、お気持ちだけで」
せっかくのご厚意だが、気持ちが重い。なんですかこの分厚さ。わざわざ…作ってきたというのか?
幹さんは人の事どころではないだろう。奨学生は成績を落としたら大変なのだから。私はそれをやんわりお断りしようと思ったのだが、それを阻止するかのようにガシッと後ろから何者かに肩を抱かれた。
「よかったねー? エリカ」
「えっ」
「ありがたく受け入れなさいよエリカ。…あんた中間テスト赤点スレスレだったでしょうが」
「いや私、自主練を」
「じゃあ隣の人の机借りて勉強しやすいように島作っちゃおう。幹さんはエリカの隣座ってあげて」
私の意見なんて聞き入れる気がないらしい。ぴかりんは教室の机をガタガタ動かし、勉強会ができるようにしていた。
私、今日の放課後バレーの練習するつもりだったんだけど。なんで強制的に勉強する流れになってるの?
「やだぁぁっ! バレーするの! 私バレーがしたい!」
「あんたはもうちょっと勉強を頑張りなさい!」
ぴかりんと教室の出入り口付近で押し問答を繰り広げていると、帰宅途中らしい慎悟と目が合った。
今の会話で何があったのか察したらしく、またこっちを馬鹿にするような目を向けてきた。
「…精々頑張れ」
「…慎悟あんた、私が勉強しても意味がないの知ってるでしょ!? 仲間だろ! 助けろよ!」
「あんたの為だ。じゃあな」
「裏切り者ぉぉぉ!」
なんて冷たい男なんだお前は!
エリカちゃんと私の脳みそは何故か連動してないんだから、アホな私の頭じゃ限界があんだよ!
私はバレーがしたいんだよー!!
幹さんは頭がいい上に、教え方も上手だった。厚意はありがたい、ありがたいんだけどね……
期末テストの結果は順位が上昇した。でも50位には入れないまま。…無理に決まってるでしょ。
掲示板の順位表前でまた、慎悟に馬鹿にする目を向けられた。ついでに加納ガールズ達にも馬鹿にされた。加納ガールズもさり気なく成績上位らしい。でもね、私の成績が悪いからって見下すのはいかがなものかと思うぞ。
…思ったんだが、加納ガールズは慎悟の婚約者候補とやらなんだろうか。侍らしている割には慎悟は彼女たちにドライな対応をしている気がするけど。
今回の期末テストは慎悟が次席で、上杉の野郎が3位。
そして栄光の主席は我らの幹さんだった。登校拒否のハンデを感じさせないぶっちぎりの1位でした。すごいな幹さん。
…私? アーアーキコエマセーン。
「二階堂様、あの良かったらこれ…この間うれしそうに食べていたので…」
「あっうま○棒! 貰ってもいいの? ありがとう!」
幹さんが私の為に○まい棒をわざわざ買ってきてくれた。私の好きな明太チーズ味。はしたないと言われるかもしれないが、これはまるかじりが一番美味しい。
ここの売店にも置いてくれたら良いのに。
エリカちゃん、良かったね。勉強を教えてくれる友達ができたよ!
あとごめんね。私、スマホ破壊モンスターみたいな目で見られてるから、エリカちゃんのイメージが段々崩れていってる。ホントごめん!
エリカちゃんがいつこの体に戻っても良いように、過ごしやすい環境づくりを頑張るよ!
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