55 / 328
さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。
ごめんね。友達でも言えないことがあるんだ。
しおりを挟むもうすっかり外が暗くなった頃。
いつもなら学校の外灯もあちこち消えて真っ暗になっている時間帯なのだが、その日の英学院は外灯に照らされて明るかった。
クリスマスパーティの行われている会場は体育館なのだが、外部の業者によって様変わりしていた。あちこち生花で飾られており、中央には大きなモミの木を豪華に飾り付けしたクリスマスツリーが設置されている。
華やかなのは体育館だけではなく、参加者もだ。男子はドレススーツ姿だったり、人によっては制服姿だったが、女子は違う。女子生徒皆セレブ生も一般生も華やかにドレスアップしていた。遠くから見るとあちこちにカラフルな花が咲いているようでキレイだ。
体育館に一歩足を踏み入れるとそこは別世界で、私はしばし固まっていた。目がチカチカするわ。
…半年近くこの学校に通っているけど、未だにこういうギャップに馴染めない。ここ本当に体育館なの? セレブ校なのか、庶民に合わせてる学校なのかはっきりして欲しいところである。
「あれー? エリカちゃん不参加じゃなかったの?」
「二宮さん」
呆然としていた私は、バレー部2年の一般生二宮さんに声を掛けられて我に返った。
彼は制服姿であった。男子の一般生は制服率が高い。そりゃそうだよね、学校行事にいちいち庶民がドレススーツなんて用意しないよね。男物って高いし。
二宮さんはこっちをまじまじ見てがっかりしていた。
「エリカちゃんドレスじゃないんだね…もったいない」
「用事を済ませてきたのでドレスは諦めました。…ぴかりん見ませんでした?」
「山本ならほら、小池とあそこにいるよ…エリカちゃん、山本と喧嘩したでしょ」
「……」
二宮さんの指摘に私はバツの悪い顔をする。喧嘩というか私が傷つけてしまったと言うか…。
…私は嘘ばかり吐いている。
私は二階堂エリカではなくて、松戸笑という死んだ人間だし、他にも色んな事を秘密にしている。ていうか言えないよね。
初公判のことを知ったら、きっと彼女はすごく気を使うはずだ。自分の事のように心を痛めるに違いない。だけど私はそんな事を望んでいるわけではない。
…何も関係のないぴかりんを巻き込みたくないから、知られたくなかった。
「……私だって、話したくないことの1つや2つあるんですよ」
「別に責めてるんじゃないよ。でも珍しいなと思っただけ」
確かに、私とぴかりんが衝突したのは出会った当初だけ。二階堂エリカに良い印象が無かったぴかりんから、半端な気持ちでバレーをしないでと言われた時くらいだ。
今まで彼女と喧嘩らしい喧嘩はしたことがない。……親友の依里となら昔から喧嘩してもすぐに仲直りできたけど…ぴかりんは依里じゃないから…
あぁいいや、ぐるぐる考えるのは私の性に合わないし。
「…ちょっと行ってきます」
「ん? 仲直りするの?」
「そのために来たんで」
私はクリスマスパーティに心躍らせているパーティピーポーの脇をすり抜けて、ずんずんと前へ進んでいく。
なに、裁判の時に比べたら全然緊張しないさ。
これからも私は嘘を吐き続ける。エリカちゃんの体にいる限り。
意図せずにバレてる人もいるけど、こんな重い話をぴかりんのような普通の女の子が知る必要はない。理解もしにくいだろうしね。
濃い青から水色グラデーションカラーのAラインドレスを着たぴかりんはどこかのモデルさんのようにキレイだった。小池さんに見てもらうためにお洒落したのだろうに、ぴかりんの表情はどこか浮かない。
それが私のせいだとしたら、申し訳ない。
「ぴかりん」
「…エリカ」
「すいません小池さん、少しぴかりんをお借りできますでしょうか」
二人の邪魔をするのは気が引けたが、私は敢えてそこに割って入った。今日は休みだった私がこの会場にやってきたことにぴかりんは驚いた表情をしていた。そして怒っているようで泣きそうな顔をして私から目をそらしていた。
人混みを避けて隅の方にぴかりんを誘導した。とはいっても会場内なのでちらほら人がいるが、大声で話さなければ大丈夫だろう。
「…こないだはキツいこと言ってごめん。私、余裕がなくて。…でもいくら友達でも話せないことがあるの。それはわかってほしい」
「…あんたっていつもそう。文化祭の時泣き腫らしてたのって、あの事件の被害者の知り合いと会ったからでしょ。あの小平って人、被害者の同級生らしいじゃない。…なにか言われたんでしょ。どうして教えてくれないの。どうして誤魔化すの」
ぴかりんは眉間にシワを寄せて、こっちを泣きそうな目で睨んでいた。
それに私の良心が傷んだが、此方にも事情があるのだ。複雑な事情が。
あの日の依里は私を責めたんじゃない。私を笑だと気づいて会いに来てくれたの。だけどそんな事はぴかりんには話せるわけがない。
…あまり話したくはなかったけど、理解してもらうには今日の初公判の事を話さないといけないようだ。
「…今日、初公判があったの。私は証人として裁判に参加してきた」
「えっ…」
「あの事件のことだけじゃない。私は沢山秘密にしていることがある。だけど秘密にしているのは、ぴかりんだけじゃないよ」
やっぱり、そういう反応になるよね。裁判の話をしたら彼女は言葉を失って固まっていた。…私だってぴかりんの立場ならなんて言葉を返せばいいかわからないと思う。だから言わなかったんだ。
「…ここ最近ずっと事件の事、初公判のこと、加害者家族のことを考えていた。…それを関係者じゃないぴかりんには話せなかった」
「……」
「ほら、ぴかりんはそういう同情の眼差しで私を見るでしょう? なにもコメントできないでしょ? …私、それが耐えられないの。友達から可哀想な人間として見られているようで耐えられない」
他人ならまだしも、友達にそんな目で憐れまれるなんて嫌なんだよ。嬉しくないし、息が詰まりそうになるんだ。
「…気分悪くさせたならごめん。でも私も事情があったの。それだけはわかって」
「……」
「ぴかりん?」
ぴかりんは俯いてしまった。
どうしたんだろうか。一応言葉には気をつけたつもりだけど、もしかしてキツくなっていたかな?
「それならそうと最初からハッキリ言ってよ! あたしは、あんたに信用されてないんだって…やっぱり、あたしが一般生だからって距離を置かれている気がして……悲しかった…!」
まさか!
そんな訳無いだろう。この英学院で一番仲いいのはぴかりん。それは揺るぎない事実だ。
私の見てくれはセレブ生のエリカちゃんだが、中身はバリバリの庶民・松戸笑なんだから。一般生だからとかそういう意味で距離を開けたつもりはない。
「…そんな訳無いじゃん。ぴかりんは英で出来たはじめての友達なんだから」
「……アンタ本当に友達いなかったんだね」
うん、エリカちゃんがね。
ぴかりんは外部生だもんなぁ。エリカちゃんのことよく知らなくて当然か。
「…まぁまぁまぁ……事件のことを私はまだ引き摺っているし、色々複雑な事情があるんだ…だから」
「もうわかったよ。…あたしも気遣いできなくてごめん」
ギクシャクではあるが、ぴかりんは許してくれたようだ。ひとまず安心である。
これがただの恋の悩みとかなら話せるんだけど、内容が内容だから……
「…ご馳走は食べた?」
「え? あぁ、今から食べようかな。朝からあまり食べてないし…」
「…ローストチキン、美味しかったけど? …それにデザートも美味しかった」
「うんわかった。…ぴかりんは小池さんのところに戻りなよ。私はひとりで大丈夫だから」
私の提案にぴかりんは少し渋っていたけど、彼女の背中を押して、無理やり小池さんのところに戻した。だってぴかりん折角おめかししてるのに、このチャンスを逃したらもったいないじゃないの。
そして私は一人でご馳走の並ぶテーブル席に近づくと、目についたご馳走をお皿に盛っていく。
…こんなに美味しそうなのに皆全然食べてないな。もったいない。
パートナーがいない生徒は壁の花になっている人がちらほらいたが、彼らは既に食事を済ませているらしく、退屈そうにボケーッとしていた。
女の子誘って踊るとか…ハードル高いよね。ダンスに馴染みのある外国人じゃあるまいし。一般生の彼らが全員社交ダンスを踊れるわけでもないだろうし。
文化祭の時もだったけど、この学校は踊るのが本当に好きね。今の時間も中央のダンスフロアでは男女が踊ってる。ダンスの種類は詳しくないけど、シンデレラが踊ってそうな奴。
キレイだなと感心しながらも、私はそれを眺めるわけでもなく、視線をご馳走に向けた。ぴかりん推薦のローストチキン目がけてフォークを突き刺したのである。
1
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる