お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、私。こんにちは、エリカちゃん。

いざ出陣。

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 裁判官の呼びかけによって、被告が証言席に立つ。
 そして人定質問が目の前でなされた。被告本人かどうかを確認するための冒頭手続き。

 あいつが口を開いて裁判官の質問に答えている。
 私は汗ばむ手をギュウと握りしめて、あいつをひたすら睨みつけていた。一通りの質問が終わると被告本人であることが確認されたとみなされ、続いて原告の検察官による起訴状の読み上げが始まった。
 検察官の口から、被告人がいつ何処で何を起こしたのか、その事件は何法の第何条の何という罪に当たるのかを淡々と読み上げられていく。
 裁判官から被告に黙秘権を行使できることを伝えたその後から被告は発言を許される。被告人・弁護人の罪状認否が始まった。

 私は自分の出番まで唇を噛みしめて耐えていた。そうでないとあいつに向かって怒鳴ってしまいそうだったから。
 淡々と続く尋問であいつの発言を聞いていてわかった。あいつは全く反省していない。自分のことしか考えていない。私からしてみたら自分勝手で、とてもじゃないけど許せるような態度ではない。
 ほんの少し、ここであいつが反省したような態度を見せたら私の中の憎悪もマシになるかな? と期待した私が馬鹿だった。

 検察官による冒頭陳述、証拠調べの請求、弁護人による証拠品の陳述、書証や物証の取り調べと、目の前で流れるように裁判が進んでいく中、私は今か今かと待ちわびていた。
 途中被害者の(私やサラリーマンのおじさんの)遺体写真が物証として出てきて、裁判員制度で参加した人で気分が悪いと退席する人が現れたりしていた。
 私の身体まつどえみは背中から数箇所刺され、その傷は胸まで到達していた。肋骨も複数折れ、相当強い殺意を持って、確実に絶命させる為に刺されたのだと状況証拠や調書を使って検察官が説明している。
 だろうね。サラリーマンのおじさんの傷も深かったけど、一太刀だった。…私はすごかったもんね。
 …痛かったじゃ済まないくらい痛かったよ。

 思い出すだけであの時の痛みが蘇るようだ。身体は別人のものだと言うのに。


「検察側の証人は前へ」

 裁判官に呼ばれた。私はすくっと立ち上がると、証人席にずんずんと進んでいく。
 その様はまるで戦士のようだったと、傍聴しに来たおとうとが言っていたが、私はその時正に戦いに向かっていたのである。

 自分の過去と。そして少年Xと。

 証言をする前に、私も原告側の証人として人定質問をされた。開廷前にエリカちゃんとして記入した証人カードに間違いがないかを聞かれたので、間違いないと答える。
 そして宣誓をするように促されたので、この場にいる全員に聞こえるよう大きな声でハッキリ宣誓した。
 部活で鍛えた肺活量舐めんな!

「宣誓! 良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います!」

 中の人が二階堂エリカじゃなくても、私も被害者だからその辺りは大目に見て欲しい。
 今日の私は二階堂エリカとして、嘘偽り無く証言すると誓う。洗いざらいあの事件の日の出来事を話してやる!

 証言台に立った私は、被告…少年Xもとい、幾島要を思いっきり睨みつけておいて、裁判官に視線を向けた。


■□■

 判決は年末年始の休みを挟んで年明け後の1月に言い渡されることになった。
 私は興奮と怒りで途中感情的になっていたが、裁判官達をしっかり見つめて必死に訴えた。私が言うのはエリカちゃんの立場での証言だが、どうにか私の訴えを理解してほしかったので一生懸命語った。
 裁判官にはしっかり伝わっただろうか?

 入廷したときから退廷の時まで、あいつは此方を見なかった。傍聴席から、サラリーマンのおじさんの奥さんのすすり泣く声が聞こえた時すら、表情を動かすことはなかった。
 それを…あいつの母親と兄はどう思ったのだろうか。

 弁論終結し、一定の手続きが終わると閉廷が言い渡され、傍聴席にいた人も動き始めた。
 私は二階堂パパママに断って、あの人のもとに近づいた。本当は加害者家族と関わるのはよろしくないのかもしれないが、私は彼にどうしても言いたいことがあった。
 彼のあの発言を受けて私は私なりに色々と考えたのだ。

 何故、犯人であるあいつが守られ、犯人の家族のほうが追い詰められるのかと。
 あいつの犯行動機は、勉強がうまく行かなかった、いじめられたので見返してやりたかった、親とのことでムシャクシャしたという身勝手な理由だった。
 だってそれは私やサラリーマンのおじさんには何ら関係のないことじゃないの。犯人にも色々あったのかもしれないけど、だからといって殺人を犯して許されるはずがない。さっきだって終始自分のことばかりで全然反省してない様子だった。
 もうね、なんていうか……なんかさぁ…
 タブー犯して犯人ぶん殴ってやればよかったかな。もれなく自分というかエリカちゃんが逮捕されちゃうからしないけど。

 とはいえ、加害者家族にこれ以上圧力は掛けたくなかったけど、これだけは言わせてほしかったんだ。

「どうも。…一言よろしいですか?」
「…あぁ、君か…何?」

 彼は憔悴しきっていた。その目は死んでいて、もう精神状態は極限まで行っているんじゃなかろうか。
 私は少し躊躇ったが意を決してすう、と息を吸った。私を殺した犯人の兄をまっすぐ見つめ、彼にとっては残酷に聞こえるであろう言葉を吐き出した。

「死ぬことは許しません」
「……」
「松戸笑が生きられなかった明日を自ら放棄するのは許さない」

 彼は私の言葉に目を丸くさせていた。

「私は加害者である、あなたの弟が憎い。きっとこれは私がこの世からいなくなるまで続くことになるでしょう」

 むしろよく私は悪霊にならずに成仏しようとしていたよ。悪霊になってしまってもおかしくはなかったよね。

「…だけど私は、松戸笑が生きられなかったこの先の人生を生きる。……あなたはそれを見届けてください。少しでも被害者に申し訳ないと思うなら、それを見届けて…寿命で死んでください」
「……」
「……それが、あなたに出来ることだ。…弟の罪は背負わなくてもいい。あなたが犯した罪じゃないんだから」

 私はこれからも戦う。戦わなくてはいけない。
 いつこの体から成仏するかはわからないけど、私が私である限り戦わねばならないのだ。
 私が戦うのだから、あなたも戦って欲しい。私と立場が違うけどどうか、生きることから逃げないで欲しい。

「それと、あまりにも周りの目がきつかったら、一時的に外国に行くという手もありますよ。…日本は加害者家族に厳しい国だから」
「え……」

 余計なお世話かと思ったけど、日本の加害者家族に対する反応は過剰だと思う。
 加害者本人が収監されてて直接文句を言えないから、被害者が加害者家族に行き場のない怒りをぶつけてしまうのは分かるし、加害者の代わりにその家族が贖罪しょくざいの意を示すのは分かる。
 だが、周りの無関係な人が加害者家族を吊るし上げるのはおかしいと思うのだ。犯罪してるのを見て見ぬ振りするのは共犯だけど、今回のは違うよね? まるで共犯者で同罪みたいな扱いして…日本は法治国家でしょ? 法で裁かれるべきなのに何で私刑してんの? 
 大体やりすぎなんだよ。社会的に抹殺されて自殺に追い込まれる人もいるくらいなんだから。そんな事してる人も加害者じゃないの? 
 
「この間はあなたに八つ当たりしてしまってごめんなさい。それじゃ」

 私は最後に軽く頭を下げると踵を返した。
 言いたいことは言えた。大分疲れたけど、何だか少しだけ心の整理が着いた気がする。
 心の傷は癒えないし、私が死んだことは変わらない。
 犯人の罪は消えないし、憎しみも消えない。これからもこの恐怖や憎しみの感情とうまく付き合って消化していくしかない。
 だけど一段落着いた気がするのだ。まだ始まったばかりだけど。
 …裁判の判決はどうなるのだろうか。


 私は裁判の他に気にかかることがあった。
 今すぐに向かいたい場所がある。本当は行く気はなかったけど、気になったらじっとしていられない。

「えっちゃん…」

 加害者家族に話しかけて意味深な言葉を残した私に、二階堂パパが複雑そうな顔をして声を掛けてきた。
 大丈夫だよ。このままずっとエリカちゃんの体を乗っ取るつもりはないし。この体にいる間だけ、悔いのない人生を送るだけ。
 今彼らに言ったのは本音だし、私は無理なんてしていないから。

「私、学校のクリスマスパーティに行ってきてもいいかな? 別に制服姿でも問題はないでしょ?」
「……大丈夫?」
「うん。私、余裕がなくて友達にキツいこと言ってしまったから謝りたいの。今すぐに」

 そのついでにパーティのご馳走を食べよう。ずっと食欲がなかったけど、すごく今お腹が空いた。

 私の頼みを聞いてくれた二階堂パパは車を手配してくれた。二階堂ママがドレスを用意しようとしていたがそれをきっぱり辞退して、私は学校へと向かったのだった。
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