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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。
バレー不足だから誰も私を止めてくれるな。
しおりを挟む憑依されたり、膝を痛めたり、不整脈を起こしたり、人が変わったようになったり、車を回避しようとして転倒のち脳震盪を起こしたりして何かと忙しい身体であるが、この度私は復学&バレー解禁となった。
「…あんた、もうちょっと休んだほうがいいんじゃないの?」
「私からバレーを取ったら何が残ると思う? 馬鹿しか残らないんだよぴかりん」
「…あんたがここ数日おかしかったのってバレー禁止だったのが原因なのかな?」
部活復帰した私の頬をつまんで伸ばしてくるぴかりん。
やめて。頬を伸ばしてもエリカちゃんは美少女だけどやめて。
私をいじりつつも、ぴかりんは何だか嬉しそうだ。…なんかあったのかな? エリカちゃんがおかしかったというか、元の宿主に戻っただけで、私がここに存在することがおかしいのだけどね?
…私のことは……話が重すぎるからぴかりんには話さないつもりだ。頭おかしい人と思われそうだし。自然に気づいた慎悟や、信頼関係のある依里や家族とは違うからどうにも踏み切れないでいる。知らない方が幸せなこともあるってものだ。
「二階堂、お前復帰までブランクがあるから激しい運動は避けろよ」
「はいわかりました」
無理してまた怪我したら敵わない。
予選まであと1ヶ月半くらい。その間に身体を元に戻して、何とかレギュラー入りしたい。
とはいっても不整脈を起こしたことがあるから、試合に出してもらえるか…身体は至って健康だって診断書も書いてもらったんだけどね。地獄の閻魔大王が私の魂を~…なんて話しても、お薬飲みましょうねと言われるだけだろうし。
私が地獄にいる間、エリカちゃんも入院したり、精密検査を受けたりしていたらしい。その検査のどれも健康そのものという結果だったそうな。
インターハイで不整脈を起こした際に受けた救命処置の心臓マッサージで肋骨に軽くヒビが入ったらしいけど、私がカルシウムをしっかり摂取していたお陰か、1ヶ月半経過した今ではすっかり良くなっている。
身体は大丈夫だから早くバレーしたいなぁ……
私は2度死んでも、変わらずバレーのことしか考えていないようだ。インターハイに出られたけど、まだまだ満足していない。バレーに関してはどんどん欲が出てくるのだ。
インターハイ……そういえばなにか忘れている気がするんだけど……何だったかな?
■□■
「10月に行われるクラスマッチの出場種目決めですが…」
「はいっ私バレーやります!」
「ちょっと待っててくださいね、二階堂さん」
なんか去年も同じようなやり取りした気がする。そういえばクラス委員の彼は去年も同じクラスだったな。
今年は去年よりもクラスマッチの開催が遅い。だけど私としては好都合だ。HRの時間を使って種目決めが行われたが、私にはバレー以外の選択肢はない。
「おい…あんた今年は見学にしたほうが良いんじゃないか?」
「何を言うの慎悟、あんた私の生きがいを奪うつもりなの?」
斜め後ろの席から声を掛けてきた慎悟を軽く睨みつけた。あんたは私がバレーに飢えてるのを知っているだろうが。
私があの世で何してたか教えただろう? やったの供養の塔づくりと、ゴ○ラごっこ、鬼との本気の追いかけっこ(賽の河原から追い払われる)三途の川での水切り遊びだよ? バレーボールが存在しなかったんだものあの世!
この私が! こんなにも長いことバレーしてないってやばいと思わないか!? 慎悟はその話を聞いて「…あんた本当呑気だよな」とあまりまともに受け取ってくれなかったけどさ。
「でも」
「とにかく出ます~。バレーできないくらいなら死んだほうがマシ」
もう2度死んだだけどさ。
でもわりかしマジな本音である。
「……モノの例えでもそういう事言うなよ」
だけど慎悟には重く伝わってしまったらしい。私を非難するように睨みつけてきた。
おお、怖い。
私は肩を竦めて、学校鞄とは別のサブバックからお菓子を取り出した。
「冗談だって。そんなに怒らないでよ。ほらブラックサ○ダーあげるからさ」
「いらない」
へそを曲げてしまったようだ。このお菓子わざわざコンビニで買ってきたのに…これ地味に美味しいのにな。
やっぱりインターハイの舞台でトラウマを植え付けてしまったのか。一応エリカちゃんの身体は80近くまで生きることにはなっているから大丈夫だとは思うんだけど、慎悟にはその冗談は禁物のようだ。
「私は長生きするから心配しないの」
「……」
ご機嫌を損ねてしまった慎悟の机にお菓子を置いて、私は前へ向き直った。
他の種目決めが行われており、どんどん枠が埋まっていく。人気なのはソフトボールとサッカーあたりだな。
……なんでバレー人気ないんだろ…楽しいのに…
そういえば立候補していないけども、慎悟は出たい種目はないのだろうか。慎悟が運動している姿ってそんなに目立たないけど、運動好きじゃないのかな?
「私あまり運動得意じゃないんですけど…頑張りますね」
「大丈夫だよ。クラスマッチは楽しくがモットーだもん! …でもぴかりんと阿南さんは別だよ?」
「き、去年のことまだ根に持ってんのあんた…」
「当然です。頑張りますわ」
私とぴかりんと阿南さんはバレー部なんだからちゃんとお手本になるべきなの!
バレーに組分けされた幹さんが不安そうにしていたので安心させつつも、2人に念押ししておいた。
補欠合わせて8人いる女子バレーチームだが、今年は阿南さんもいるから3人バレー部がいることになる。去年よりもきちんと指導ができるであろう。
「みんなで楽しくやろう! で、早速なんだけどストレッチをしたらボールに慣れる練習から始めようか!」
練習をしながら思ったけど、やっぱりボールに触れている瞬間は幸せだ。この感触が恋しくて仕方がなかったんだ。
バレー初心者のクラスメイト達に慣れてもらうためにキャッチボールの練習をしていた。私はそれを見守っていたのだが、少し離れた場所で練習している男子たちの姿を見つけた。
その中には男子バレー部の生徒はおらず、みんな授業で習った程度の腕前しかないようだ。私はそれを見て唸る。そしてぴかりんと阿南さんにこの場を任せて、男子たちの元に近づいた。
もったいない。筋は悪くないのに、姿勢がおかしい。バレーに関することでは黙っていられない私は、直々に指導しに向かったのだ。
「違うよ、アンダーハンドパスをするときの姿勢はこう」
「へぁっ?!」
背後から腰を鷲掴んでレクチャーされたことに驚いたのか、同じクラスの男子が変な声を出していた。
「ごめん、驚かせた?」
「えっ、あっ…二階堂様…」
心臓がバクバクしているのか、足は内股気味に、胸を両手で押さえて振り返っている男子は少々乙女チックなポーズになっているが、今はそんな事どうでもいいか。驚かせてごめん。
「ここの男子チームは全員バレー初心者?」
「そ、そうですね。授業で少しかじったくらいで」
「…あんた、男に対してそういう行動を取るなよ…」
乙女ポーズを解除した男子に問いかけていると、ボールを手にとった慎悟が表情を歪めて注意してきた。きれいな顔しているのにまたそんな顔しかめて…
ところで、そういう行動とは…?
「…え? …あぁ、今のセクハラに当たるのかな? ゴメンね、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「いえっ大丈夫です!」
「良かったらちょっと私が教えようか? 何も出来ないよりは出来たほうがクラスマッチも楽しいでしょ?」
「…だけど」
「いいからいいから」
渋っている慎悟の腕を掴んで強引に女子チームのいる場所に誘導する。腕を引けば慎悟は引っ張られるがまま歩いていたので、別に嫌がっているわけではないようだ。
遠慮なんかしないで素直に甘えなさいってば。
てなわけで、男子を加えてのバレー初心者指導を始めた。
ぴかりんには少々呆れた目を向けられたが、良いじゃないの。同じクラスなんだから協力しようよ。これを機会にバレーに興味を持ってくれる人が増えたら嬉しいじゃん。
「そうそうそう! 上手上手!」
バレー部生じゃない初心者には、大げさに褒める。これが相手のモチベーションに繋がると思うんだ。だって興味ない、経験ない事をして叱責されるのは誰だって嫌じゃん。
うん、だけど今のは本気で心から出た褒め言葉だよ?
「…笑さんうるさい」
「なーんだよ、慎悟ってば運動神経良いじゃん! 今まで隠してたの?」
「…隠してたとかじゃないけど…運動は嫌いじゃない」
「そっか! 実に育てがいがあるよ!」
教えると教えただけ吸収する慎悟。他の男子も徐々に上達していくが、慎悟の上達ぶりは群を抜いている。
やっぱ身長あるとその分高い位置からアタックできるからいいなー……そういえば、慎悟の頭の位置…変わった?
「…慎悟、身長伸びた?」
「え…? さぁ…春先よりは伸びたと思うけど、計っていないからわからない」
「…裏切り者!」
「はぁ?」
なんだよ! 大して苦労してないのに何故背が伸びるんだよ! こっちは156cmのまま、成長が止まってるんですけど!
この理不尽さを慎悟に八つ当たりをして憂さ晴らしをする。慎悟はアホを見る目を向けてくるが、私は至って本気である。
羨ましい! 身長分けてくれよ!
「おーいエリカちゃん、エリカちゃんもバレー専攻なの?」
「あ、二宮さん。てことは二宮さんもバレーですか?」
「うんそう…駄目だよ? 男の子いじめちゃ~」
二宮さんが私を半笑いで見てくる。もしかしたら先程のやり取りが聞こえていたのかもしれない。
「…だって身長が伸びたんですよこいつ。ズルいです」
「そりゃあ男は女の子より背が高い奴が大半なんだから仕方がないでしょ」
「…理不尽」
牛乳飲んだりプロテイン飲んだり、魚や肉、野菜とバランスよく食事しているのに、目標は程遠い。
伸びない。何故伸びないのよ! 私は悔しくて歯噛みした。
「まぁまぁそんなに膨れないの」
「上からギュッギュと押さえつけるの止めて下さい。縮むから」
二宮さんは笑いながら私の頭に手を乗せた。頭をワシワシ撫でてくる二宮さんに苦情を言うと、さらにワシワシ感が増した。さてはわざとだな…
「じゃあ頑張ってね」
「はーい」
二宮さんもクラスのチームで練習があるようで、そっちに向かっていった。私も練習途中なので、指導を再開しようと思って振り返ると能面みたいな顔した慎悟がそこにいた。
その冷たい表情に私は一瞬固まってしまう。
「…どうした?」
「……別に」
じゃあなんで怒ってんだよ。無表情だけど目と声がめっちゃ不機嫌じゃん。
放置か? 指導放置されたのが気に入らないのか? それとも寂しかったのか?
「そんなに怒らないでよ。寂しかったのか? あとでチョコレートあげるから…」
「いらない」
しまったなぁ。こうなると慎悟しばらく機嫌直らないんだよなぁ。
慎悟は私に背を向けるとボールを手に持って、自主練をしに行ってしまった。
うん。さっきよりも上手になっているな。…だが改善の余地がある。あそこ直したら絶対にもっといいサーブが打てるんだけど…
おだてながら指導したら聞き入れてくれるだろうか?
私はそろそろと背後から近寄って、直したほうがいい箇所をレクチャーしようとしたら、慎悟に怒られてしまった。太ももに触ったことが気に障ったようだ。
「男の体に気安く触るな!」
だってもっと足を広げたほうがいいと思ったんだもん…そんな怒らなくてもいいじゃないの。
私がそう言うと「触るんじゃなくて口で言え」と頬を赤くさせた慎悟に念押しされたのであった。
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