お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
132 / 328
さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

デートではない。カレーランチです。

しおりを挟む

 3学期といえば、一般的な高校だとこの時期は大学受験シーズンで忙しいのだろうけど、英学院は中高大一貫校だ。大学部進学希望の生徒には進学試験があるものの、基本的にエスカレーター式である。
 英学院から外部の学校を受験する人は忙しいのだが、内部進学を目指す2年生の私は忙しくない。とは言っても今度大学見学しに行こうとは思っているけどね。これでも進路のことはちゃんと考えているのだよ。学部見学のついでに大学のバレー部も見たいな。


 その日は土曜日だった。部活をしていない生徒はお休みだが、部活生は校内で活動していた。

「あの、スポーツ特待受験に来たんですけど、会場はどちらになりますか?」

 売店も食堂もお休みのため、お昼ご飯を買いに一旦学校外のコンビニに行こうと、部活のジャージ姿のままぴかりんと一緒に入門ゲートへ向かって歩いていたのだが、そこで声を掛けられた。
 懐かしい公立中学のセーラー服を身にまとったベリーショートの女の子。顔が小さいのでその髪型がよく似合っている。背はぴかりんの170cmよりも高い。多分生前の私くらいはある。彼女の奥二重の瞳は緊張しているように見えた。

「あぁ、ここを真っ直ぐに行って突き当りを左に向かって。あなたもスポーツ特待枠なんだね」

 ぴかりんが受験会場までの行き方を教えてあげていた。そういえばぴかりんはスポーツ特待生だったな。

「はい、バレー枠で」
「なら入学できたら一緒に部活できるかもね。ね、エリカ」
「そうだね。頑張ってね」

 私は特になにもおかしなことは言ったつもりはない。ただ激励したつもりだった。
 だけどベリーショートの彼女はエッと言いたげな視線を向けて、疑わしげに私を観察してきた。
 なに? なんでそんな目で見てくるの? エリカちゃんの美少女具合に驚いているの?

「ところで時間は大丈夫なの?」
「あっいけない! すみませんありがとうございます! それじゃ失礼します!」

 ぴかりんの指摘で彼女は試験時間が迫っていることに気づいたらしい。頭を下げるとものすごい勢いで走って会場のある方向へと消えていった。
 その姿を見送りながら隣のぴかりんが笑った気配がした。

「懐かしいなぁ。私も緊張してこの門くぐったっけ」
「…スポーツ特待試験って具体的になにするの?」
「ペーパーテストと作文、それと面接かな。中学の時のスポーツ成績結果が一番重要だけどね」

 なら誠心高校の推薦入試と一緒かな。偏差値的にペーパーテストはこっちのほうが難しそうだけど。…英学院の奨学生は授業料とか色々免除なるし当然のことか。
 私の感覚で高校入試がだいぶ前のことに感じるけど…3年前だもんね…

 私達は「さっきの子受かるといいよね」と話しながら、目的の昼食を買うためにゲートを通過したのであった。
 

■□■


 だいぶ前に私は西園寺さんと一緒にカレーを食べに行った。その際に寂しがっていた慎悟にも「今度なにか食べに行こう」と話を持ちかけていたけど、なんだかんだで出かけることが叶わなかった。

「だから今度の日曜に私とカレーを食べに行こう!」
「…突拍子もないな」
「西園寺さんと行ったお店が良いならそこでもいいし、他のお店でもいいよ!」

 週が明けての月曜日。1時間目の授業が終わった後に、慎悟をカレーランチに誘ったら慎悟は胡乱げに見上げてきた。
 何だその顔は。カレーだぞ。カレー嫌いなのか?

「あ、甘い物のほうが良かった? そういえば動植物園近くの高級ホテルでスイーツバイキングやってるってテレビで出てたよ」

 カレーが嫌なら慎悟の好きなものでいいよ。…まさか女子みたいにダイエット中とか言い出さないよね? 
 私が慎悟の返事を待っていると、慎悟は深々とため息を吐いていた。

「…別にカレーでいいよ」
「ならお店は…折角だから西園寺さんが他にも見繕ってくれていたお店の中から選ぼうか」

 私はスマホの液晶を付けて、以前西園寺さんから貰ったメールに載せられたカレー店のホームページを慎悟に見せようとした。

「俺が探すからいい」
「…えっ」

 慎悟はホームページを見る前から却下してきた。
 いや、でもこの中からでいいじゃん…探すの手間かかるし、この中に行ってみたい店が他にもあるんだよ…

「カレーならなんでも良いんだろ」
「そんな…なんでもってわけじゃ…」
「じゃあどんなのがいいんだ」

 慎悟は私の好みのカレー屋について事細かに聞き出すなり「2時間目始まるから席に着けば」と私をあしらった。
 私の扱いが雑! 今に始まったことじゃないけどさ!
 
 そんなこんなで日曜に慎悟とカレーを食べに行くことになったのだが、周りの人には内緒にしておいてくれと慎悟に頼んでおいた。他の人に知られたら何処からか加納ガールズが聞きつけるからさ…
 あの人達怖いねん。前から目をつけられてたけど、クリスマスパーティ以降更に当たりがひどくなってきたの。今だって教室の出入り口に加納ガールズがいないかチラチラ見ながらお誘いしているんだよ。

 折角なので、車ではなくて電車で行こう! と提案すると、慎悟は「車のほうが早いのに…」とボヤいていた。たまには良いでしょ! 


 約束の日曜日の朝、私は日課の筋トレとストレッチを済ませると、朝ごはんをとった。
 二階堂夫妻は普段の仕事の疲れを癒やすために日曜は遅くまで起きてこないのだが、その日は私と同じ時間に朝食をとっていた。

「今日慎悟とカレー食べに行くんだ」

 私は何気なしに、友達とカレー食べに行くという話をしたのだが、それを聞いた二階堂ママが目を輝かせた。

「デート!? 洋服はもう決めてるの!?」
「デートじゃないよ。ランチするだけ。カレーで汚しちゃまずいから動きやすい服にしようとは思っているよ」

 エリカちゃんの洋服はスカートが多い。エリカちゃん自身はパステルカラーが好みだったようで、淡い色の服が多数。可愛いんだけど、私はそれが物足りなく感じていた。
 …正直楽なパンツスタイルの服が着たい。なぜならスカートは動きにくいから。笑の体では私服のスカートとは縁がなかったので尚更、不便さを実感している。
 なので最近は洋服買い替えの時期になったらさり気なくスカート以外の服を買い足してもらっている。
 今日は先日買ってもらったデニムジーンズと適当なニットとスニーカーで出かけるつもりだったのだが、二階堂ママにダメ出しされた。

「ダメよそんな色気ないコーディネートなんて! デートならオシャレしなきゃ! ちょっとした工夫が大事なのよ!」
「だからデートじゃないってば。ただのランチだよ…」
「えっちゃん! 四の五の言わずにスカートを着ていきなさい!」

 キャメルニットにくすんだピンクのバルーンスカートを着せられた私は、二階堂ママによってメイクとヘアアレンジをされて送り出された。わぁ、編み込みヘアのエリカちゃんもかーわいいー。現在の髪の長さは肩にかかるくらいである。更に伸びたらまたショートにしようかな…
 もう準備だけで疲れた。二階堂ママは元気ね。

 私は待ち合わせしている駅まで車で送ってもらい、駅のロータリーで降ろされた。
 駅にある時計で時間を確認すると待ち合わせの15分前。少し早めに到着してしまったなと思ったけど、どこかで時間をつぶすことなくそのまま真っすぐ待ち合わせ場所まで歩を進めた。
 
「笑さん」
「慎悟もう着いてたの? 早いね」

 彼とは券売機前で待ち合わせをしていたが、慎悟は待ち合わせ10分前なのにもういた。いつから待っていたんだろう。

「切符も買っておいた」
「えっ、いつの間に! 私が買い方を教えてあげようと思ったのに!」

 以前丸山さんと3人で動植物園トリオデートに行った時、私は説明せずにさっさと3人分購入してしまった。だから今日は慎悟に買い方を伝授しようと思ったのだが、既に購入済みだなんて…そんな……

「…そんな気がしてた」
「調べたの? 誰かに聞いたの?」

 教えるの楽しみにしてたのに! もうっどうして先に買っちゃうのよ!

「…券売機の指示に従えば買えたよ。あんた俺の事をバカにしすぎだろ」
「バカにしてんじゃなくてお坊ちゃんは庶民の乗り物なんて乗らないでしょ?」

 慎悟はいつも車移動しているじゃない。新幹線や飛行機は普段から乗ってるだろうけど、電車やバスのイメージがないんだもの。だから切符の買い方知らないと思ったんだもん。

「たまには乗るさ」
「えーほんとにぃー?」
「怒るぞ、笑さん」

 おっと、慎悟が不機嫌になり始めたのでこれ以上からかうのはよしておこう。
 駅の改札前の電光掲示板に視線を向けると、5分後に到着する電車が目的地方面だ。それを逃したら15分くらい待ちぼうけになってしまう。

「次の電車が来るよ、急ごう!」

 私は慎悟の手をとると改札に向かって歩き出した。思ったけど慎悟は手が冷たいな。冷え性か。
 本格的なカレー久しぶりだなぁ!
 カレーを早く食べたい一心で私は電車のホームを目指していた為、電車の到着を待っているその間も慎悟と手を繋いでいた事実に全く意識が向かなかったのである。
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

処理中です...