お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

私と彼は友達。だから渡すのは義理だよギリ。

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「エリカ、あんた本当に大丈夫なんでしょうね?」

 昼休みに食堂まで移動していた私に、ぴかりんが念押しするかのように問いかけてきた。
 私はムッとしてすかさず言い返す。

「ちゃんと勉強してるよ、失礼な」
「そっちじゃない! 加納君にあげるチョコの話!」

 てっきりテスト勉強の話でもしているのかと思ったら、バレンタインの話だったらしい。テスト前にはいつも勉強しろと言われるから、拍子抜けしてしまった。

「あぁ…今日の帰りスーパーに行ってくるよ。ちょっと大きめのスーパーのほうが品揃えがいいし。…いや、デパ地下のほうが売っているかなぁ」
「二階堂様…! 本腰を入れてくださったのですね…! きっと、きっと加納様は喜んでくださると思いますよ!!」
「……」

 なんだかなぁ。
 2人に強制されて用意する感じだから義務感が強い。慎悟はそんな形で貰っても嬉しいと感じるんだろうか。…まぁいいか。いつもお世話になっている義理だって言えば。
 用意する本人よりも、楽しそうにはしゃいでいる2人に置いていかれている心境だが、私はとりあえずバレンタインに慎悟へ贈り物をするつもりだ。
 
「加納様になにを渡されるんですか?」
「んー…当日まで秘密。どこかでネタバレしたらつまらないからね」

 それにしても皆テスト勉強はいいのだろうか。私と違って頭が良いから問題がないのだろうか。
 キャーキャーとはしゃぐぴかりんと阿南さんを置いて一足先に食堂に辿り着いた私は、注文のついでに食堂のおばちゃんに声を掛けた。

「あっおばちゃん、お願いがあるんだけど…」

 私がお願い事をしている時、隣にいた幹さんは私達の話の内容を耳にして不思議そうにしていたが、当日になればわかるから秘密にしておいてねと頼んでおいた。 
 アレに関しては、私には自信がある。私の部屋にも研究に研究を重ねたデータが残っているはずだ。だけどそれがなくともちゃんと覚えているから問題ない。

「二階堂様」
「あ、丸山さん」

 お昼ごはんのカツ丼を食べていた私に丸山嬢が声をかけてきた。修学旅行に行っていたせいか、学年の違う彼女と久々に会った気分である。慎悟を追ってこの学校に入学してきた彼女から同席してもいいかと聞かれたので、私は幹さんの了承を得て許可した。
 ちなみに阿南さんとぴかりんは未だに現れない。一体なにをしているんだろうか。
 丸山さんはオッシャレーなパスタランチだった。小さなサラダと、ティラミスっぽいデザート付きだ。美味しそうだけど絶対にお腹すくやつだよね。少食なのかな。
 それを上品に食べ進めていた丸山さんだったが、ポツリと小さく呟いた。

「…二階堂様は、バレンタインにどなたかへお渡しになるんですか?」
「え? …あぁ、まぁ」
「…慎悟様に?」

 慎悟にバレンタインにプレゼントをあげるのかと尋ねられた私はギクリとした。
 以前私は、彼女と慎悟をくっつけようと裏工作をして、ことごとく失敗を重ねていたのだ。当事者しんごにも止めろと言われてからは何もしなくなったけど、ここでその話をされると気まずいものがある。

「…いつもお世話になってるし、たまにはね…」
「…油断していましたわ。二階堂様にはその気がないと思っていましたのに…」
「うん?」

 なにが?
 私が疑問に思っているのに気づいていないのか、丸山さんは此方をまっすぐ見つめてきた。
 その瞳は好戦的で…私は戦いを挑まれているような気持ちになった。

「ですが…いつまでも油断していたら泣きを見ますわよ? …私、本気を出すことにいたしましたから。ご覚悟なさってくださいまし」
「う、うん?」

 うん…間違いなく戦いを挑まれているな…あれ、もしかして私はライバル認定をされたの?
 そもそも油断ってなに? まるで私が慎悟を狙っているかのような口振りだが、私は慎悟と付き合いたいと一度も口にしたことないよ? そりゃ彼からは好意を持たれているし、デートっぽいことをしたことはあるけど…それまでだ。私は奴を頼りになる仲間だと思っているだけである。
 …キスしたとかその辺りは、淡水の夕日の雰囲気に流されただけだと思う。きっとそうだ。
 邪魔はしないから勝手に頑張ってくれよ。

 丸山さんは私の返事には興味ないらしい。ただ言いたいことを言いに来ただけみたいである。

「私は今回手作りのお菓子にしようと思いますの。二階堂様はどんなものをご用意なさるの?」
「ゴメンね。内緒なんだ」
「そうですか…」

 私と重複しないようにしても、他の誰かと被ると思うよ。丸山さんは私の返答にアッサリ引き下がった。
 大丈夫、間違いなく被らないから。


 食事を終えた丸山さんが離席してしばらくして、隣で私と丸山さんのやり取りを眺めていた幹さんが静かに問いかけてきた。

「…二階堂様は、加納様のことをどう思われてるのですか?」
 
 まさか幹さんにそんな問いかけをされるとは思わなくて、私の反応は3秒くらい遅れてしまった。

「…ど、どうって…弟…あ、いや…心強い仲間みたいな。頼りがいのある奴だよね」

 同じ学年で弟扱いはおかしいな。私は訂正して、当たり障りのない回答をしたのだが、幹さんはしばし黙り込んで私をジッと見つめていた。
 メガネの向こうの理知的な瞳に心の中を覗かれているような気分になって居たたまれなくなった私は、そっと彼女から目を逸らした。

「……二階堂様がなにを怖がって、ご自分の気持ちから目を背けようとしていらっしゃるのか存じませんけど…」

 幹さんは静かな声音で、諭すように言った。

「加納様ならきっと大丈夫だと思いますよ」
「……あの、私達は別に恋愛関係ではなくてね?」
「わかりました。そういう事にしておいてあげます。仕方のない人ですね」

 幹さんは出来の悪い子に対する口振りで私の否定の言葉を流してしまった。なんでそんなに穏やかな菩薩の微笑みを私に向けてくるの?
 違うんだって。私は恋愛なんて出来ないんだって。この身体は私の物じゃないんだ。エリカちゃんの体だもの…
 でもそんな事彼女に言っても理解されない。

 私はエリカちゃんの人生を奪う事になってしまったのだ。
 エリカちゃんは恋に破れて世を儚んだようなものだ。なのに私だけが幸せになるなんて許されるはずが無いじゃないの。
 生きていられるだけで幸運なのに、これ以上幸せになってしまったら……罪悪感で苦しくなってしまう。

 それに…初恋の時に味わったあの苦しみを、もう味わいたくないのだ。
 

■□■


「えっちゃん…これは…?」
「バレンタインだから作ったんだ。隠し味にチョコレート使ってるんだよ」
「嬉しいわ。お昼に頂くわね」

 バレンタイン当日の朝、私は昨日から仕込んでおいたものを二階堂パパママに手渡した。ちゃんと味見もしたよ。美味しくできていたから、きっと気に入ってくれるはずだ。
 私は仕事に向かう彼らを見送ると、自分も学校に出かける準備を始めた。…今日は学校中チョコレートの匂いがするんだろうな…
 タッパーに詰めたものを風呂敷に包むと、学校のカバンと一緒に持ち上げた。 
 学校についたらまずこれを食堂のおばちゃんに預けなくてはならない。

 
 寄り道していた為、いつもよりも遅めの時間に教室に入ると、もう既にチョコレートを収穫していた慎悟。今年もモテモテである。リアルハーレム野郎の二つ名は伊達ではないな。
 私はチョコレートを紙袋に収めている慎悟に声をかけることにした。

「おはよー。すごいねぇ、流石モテる男は違うねぇ」
「…おはよう」
「羨ましいぞ。私は全然貰えなくなってしまったからね」
 
 身体が違うとこうも貰えなくなるんだね。正直去年のバレンタインは物足りなかったよ。
 
「あのね、私も用意したんだよ。お昼になったら食堂でおばちゃんに声かけて。用意してもらうように頼んであるから」
「……あんたが? 俺に?」
「いつもお世話になってるからね!」

 ちゃんと口に合うように作ったから大丈夫だよ! 何かは昼休みまでのお楽しみ。
 慎悟は訝しげな顔をして私を見てきた。なんだよ、私だってやるときはやるんだぞ。

「お返しはチ○ルチョコみたいなお手頃価格のもので良いよ!」

 これでミッションコンプリートである。
 私は友人たちの元に向かって、任務完了したと達成感に満ちた顔で宣言したのだが…

「馬鹿! そこは一緒に昼食とろうって誘うところでしょうが!」
「もう一回やり直してきてください!」
 
 理不尽な怒られ方をした。
 お昼って…慎悟だって友達と約束してるだろうし、女子から呼びだされる可能性があるじゃないの…
 私は渋っていたのだが、ぴかりんと阿南さんに引っ立てられて、慎悟のもとに逆戻りすると、昼食に誘うように促された。半ば強制的にである。
 
「ほら、エリカ。加納君に言うことあるでしょ」
「…良ければ今日お昼ご飯を一緒に食べませんか…」

 その誘いに慎悟はOKしてくれたけど、なんだかとても複雑そうな顔をしていた。
 ほら困ってんじゃん! 言わんこっちゃない!
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