お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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さようなら、エリカちゃん。ごきげんよう、新しい人生。

再見台湾! 修学旅行が終わったと思ったらテストがやってきた。女子たちの関心はテストよりもアレらしいけど。

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「そういえば、お土産にお茶と小物しか買えてないや私」

 バスに乗り込む手前で私がそうぼやくと、慎悟が空港に行く前にお土産屋さんに寄るよと教えてくれた。
 よかった。大人たちはお茶でいいだろうが、弟はお茶よりもお菓子がいいだろう。それと二階堂家でお世話してくれるお手伝いさんや運転手さんたちにもなにか買って帰ろう。

「それにしても…ぴかりん達どこに行ったんだろう…」

 移動中は友人たちと一緒だったので、帰りのバスでも一緒に座るつもりだったが…友人たちは未だ行方不明。適当に座っていたらそのうちやってくるだろうか…

「早く奥に詰めてくださぁ~い」
「おい…」
「後ろが詰まっていますので、奥へお詰めになってお席へお着きください」

 ドン、と背中に慎悟がぶつかってきたかと思えば、その更に後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。どうやら慎悟はその声の主に押されたらしい。
 それが誰かって…ぴかりんと阿南さんである。幹さんはその後ろにいるのだろうが、2人の体に隠れて姿が見えない。

「あっみんなどこにいたの!? 私のことまた仲間はずれにしたでしょ!」

 修学旅行なのに! 友達との大事な思い出なのに皆ひどいよ!
 私はクレームを訴えたのだが、友人たちはそれが聞こえていないように振る舞っている。

「早く座ってよ。ほんとあんた達って焦れったいよね~」
「…余計なことするなって言っているだろ」
「さぁさぁ、二階堂様は窓際で、加納様はそのお隣に」

 慎悟も文句を言ってるが、彼女たちは華麗にスルーして私達を隣同士に座らせていた。
 …妙にこの間から慎悟と2人きりにさせようとするよね、ぴかりんと阿南さん…まさか、まさかとは思っていたけど、私と慎悟をくっつけようとしていないか? 問い詰めようにも狭いバスの中だ。他の人の耳もあるので止めておいた。
 私は仕方無しに座席へ腰を落ち着けると、シートベルトを着用した。…台湾の運転怖いんだよね…安全運転でお願いします。

「慎悟はお土産、お茶以外でなにか買った?」
「…そういえばお茶しか買っていないな。観光途中で土産屋に寄ればよかった」

 確かに。観光地を見て回ったものの、お土産に出来そうなものがあまりなかったんだよね。寄り道してお土産屋さんに寄ればよかったね。

「色々買い物ができそうな台北101に行けばよかったね」
「いや、この後寄る場所でなにか適当に買えばいいさ」
  
 3泊4日の修学旅行は色々あったようで、あっという間に終わってしまった。

「…私も慎悟みたいに中国語話せたら、もっと旅行楽しめたのになぁ」
「まずは英語を日常会話レベルになってからにしたほうがいいよ。中国語は難しいからいきなりだと断念すると思う」

 台湾のお年寄りは日本語が出来る人が多く、私が言葉を理解できていないとわかると日本語で話してくれたんだ。…折角フレンドリーに接してくれたんだし、言語がわかればもっと会話できたのになと残念に思ったんだ。
 ここは異国で、辺りを行き交うのはやはり異国語。自由行動の観光中はすぐ傍に慎悟がいたから寂しくはなかったけど、やはり言葉がわからないのは複雑なんだもん。
 ……でも、修学旅行は楽しかったし、まぁいいか。

「…楽しかったね」
「そうだな」
 
 こうして私達は無事修学旅行を終えて日本へと帰国した。
 
 
 私は天才ではない。昔からやって来たエリカちゃんと違って、最近習い事を始めたばかりなのだ。急に伸びるわけがない。
 慎悟の言う通り、地道にやっていくしかないんだ。

 私はエリカちゃんにはなれない。エリカちゃんに憑依していようと、私は私にしかなれないんだ。
 未だにどんな生き方をしたらいいのか迷いがあるけど、今は目の前の課題を地道に片付けていくしかない。
 

■□■


 修学旅行を終えると、再び学校生活が始まった。早速テスト週間に入って部活が休止となってしまった私のテンションがだだ下がりなのは察していただけるかと思う。
 修学旅行期間も合わせて部活が出来ていない…ボール、ボールに触りたい…ギブミーボール…

「…バレーできないなら…私には生きている意味が…」
「また悪い病気が出てきたな」
「加納様。私が責任持って二階堂様に勉強させますので、ご心配なさらないでください」
「いつも世話掛けて悪いな、幹」

 幹さんお手製のプリントを見て机に突っ伏す私の前で、幹さんと慎悟がそんなやり取りをしていたのだけど、慎悟の言い方に私は引っかかった。

「ちょっと待って、私の保護者みたいな言い方止めて? 余計なお世話だよ」
「二階堂様、心配してくださっているのにそんな言い方は良くないですよ?」

 幹さんに窘められてしまった。
 だって私は年上なのに…いや、年下の子に勉強教わっている時点で私のプライドなんて関係ないんだけどさ。
 私がなにも言い返せずに唸っていると、慎悟は頭をワシャワシャしてきて「幹の時間を貰ってるんだから、期待を返せるようにちゃんと勉強しろよ」と念押ししてきた。そして鞄を持つと教室を出ていってしまった。今日は自習室にて1人で勉強するみたいだ。

 私は決して怠けているのではない。勉強を頑張ろうという意志は持っているのだ。ただバレーが純粋に恋しいだけであって…

「さぁ、勉強いたしましょう」
「…よろしくおねがいします…」

 今回も幹先生とマンツーマンでのテスト勉強会が開催された。教室には私と幹さんの2人きりである。
 あ、ぴかりんと阿南さんもいるけど、今は私の牛乳を買いに行っている。私がサボらないように逃げ道を塞ぐ手段に出たみたいだ。…牛乳を買いに行くついでにちょっと休憩していたのがサボりとみなされたらしい。
 私はイマイチ信用がないようだ。

「まずは弱点を見つけるために小テストを行います」
「えっ」

 まさかの抜き打ちテストからのスタート。そうきたか。

 ──ガラッ!
「二階堂様!」
 
 幹さんのテスト開始の合図を待っていると、阿南さんが扉を乱暴に開けて教室に転がり込んできた。
 いつも淑女然とした阿南さんの慌てた様子に私だけでなく、幹さんもぽかんとしていた。

「バレンタインですわ! バレンタインに加納様へ手作り菓子を贈るのです!」
「…え?」

 テストじゃなくて、ばれんたいん? …バレンタイン…バレンタインねぇ…
 私は誰かにあげたことが一度もなく、自分が送る側に立つことが想像つかなかった。

「いやでも私貰う専だし…」
「あんたはなにを呑気なことを言っているの! 加納君がどれだけ競争率高いかわかってないの?!」

 ぴかりんまでなにを言っているんだ。慎悟が競争率高い? そんなの慎悟と仲良くなる前から知ってるよ。

「…慎悟がモテるのはよく知っているよ…私が言っているのは、私は今まで誰かにあげたことなんかないからさ…」
「以前宝生様に差し上げていたではありませんか」
「……思い出したくない過去なの。捨て去りたい過去なの」

 墓穴を掘ったので、自分の黒歴史みたいな言い方をして誤魔化す。
 そうよね、エリカちゃんは宝生氏にあげたことあるよね。だけどわたしにはあげた経験がないの! 女子力皆無でごめんなさいねー!

「ていうかなんで私が慎悟にあげなきゃならないの! あいつ、女の子から腐るほどチョコ貰ってるんだから私のチョコなんか要らないでしょ」

 去年のバレンタインの時に慎悟の収穫量見たもん。お返しが大変そうだと思ったもん。
 それを更に私からあげたら慎悟の負担が増えるってものだし、そもそもなんで私があげなきゃならないのかって話だよ。

「ばっか! あんたいつも加納君に迷惑ばかりかけてるでしょうが! お礼も兼ねて渡すのよ!」
「…義理チョコってこと?」
「負担になりたくないと仰るなら、お返しはいらないと申せばいいだけですわ! …まぁ加納様は絶対にお返しするでしょうけど…」
「んー…でも作ったことないもん」

 お菓子なんて作ったことないよ。板チョコ溶かして型に流すような簡単な手作りチョコは他の人のチョコに見劣りしちゃうし。だけど凝ったものは作れない。…チ○ルチョコじゃダメなの?
 慎悟にお世話になっているのは確かなんだけど……私からバレンタインチョコぉ…? 違和感しかないんだけど。

「大丈夫です。私が作り方をお教えいたしますわ」
「……勉強は?」
「…1日くらいはいいですよ」
「幹さん?」
 
 勉強しましょうと張り切っていた幹さんが矛盾したこと言い出したぞ。
 ……ここで断固拒否したら3人はどうなるんだろうか。めんどくさいな~。…チョコ…たくさんもらってもさぁ…消費に困らない? 賞味期限の問題もあるじゃない。いくら慎悟がチョコレート好きでも……
 …あ、そうだ。ひらめいたぞ。

「…わかった」
「では、日にちを調整して」
「ううん、私一人でなんとか出来るから。チョコレートを使えばいいんでしょ?」
「…え?」

 チョコが入ってたらバレンタインの完了でしょ? あれならきっと慎悟の負担にはならないはずだし、私でも出来る。
 当日が学校だからなぁ…どうやって慎悟に渡そうかな…

 私はどんなものにしようか頭の中で思い巡らせた。
 それを渡したとき、慎悟は喜ぶだろうかと想像するとなんだか楽しくなってきた。

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