お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

清く正しく、セレブらしい男女交際を目指しております。

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 今回の春休みは部活や宿題の他に、習い事と慎悟のデートとかで予定がみっちり詰まっている。…春休みが始まる前から私はすでに疲れていた。
 すでに習っている英会話に茶道に着付け、マナー教養教室に加えて、書道・華道・馬術…
 馬術は楽しみだ。自分が唯一希望した習い事だ。習字なら小学校の頃に習っていたから、書道はその延長線として考えたらいいとして…華道はねぇ…
 しかも次は高校3年生。エスカレーター式とはいえ、大学進学を控えているのだ…そして私には部活がある。私はバレーボール大会レギュラー出場を諦めていない。オリンピックの選手になれずとも、バレーを辞めるつもりは一ミリたりともないのだ。
 だからその両立が…大変なんだよ…!

「大丈夫、逆に前衛的な出来栄えが芸術だって評価されるかもしれない」
「私の絵のセンスと華道の出来栄えは関係ないでしょ!? 実際に作品を見てから言ってよ!」
 
 私達のやり取りを二階堂夫妻が苦笑いして見てるでしょ!
 二階堂パパママの前で言うことじゃないよ! あんた交際のご挨拶に来たんだよね? 私を貶しに来たの?!
 お付き合いを始めた私と慎悟の関係性は少しだけ変化が現れたようで、以前と変わらないように見えるのはいい事なのだろうか? 
 二階堂パパママはお付き合いを始めた相手が慎悟であることになんだか安心している様子だった。慎悟は信用されているな。

 飲食関係の会社を任されて経営している二階堂パパママと、輸入関係の会社を経営する加納父はもともと取引関係にあった。もうすでに両家の血を引く子息子女が結婚しているが、ここで更に私達が結婚したとしても特に問題はないらしい。お互いの家の絆がより強固になるだけで、権力のバランスが崩れるとかそういう恐れはないそうだ。
 何よりも二階堂パパママが変な男に嫁がせたくないから、よく知っている相手の方が安心だと思っているようだ。…宝生家とはその後どうなったのかと聞きたかったけど、宝生の単語を聞くと、パパママは嫌そうな顔をするのであえて聞かないことにしている。…当然のことか。

 二階堂家の当主であるお祖父さんにお伺いを立てた後に本格的な婚約話を取りまとめることになるから、学生らしい節度のあるお付き合いをするようにと2人に念押しされた。
 大丈夫だよ。もしも慎悟が血迷っても私がしっかり阻止してみせるよ。
 
「任せて! 清く正しい交際をしてみせるから!」

 パパママを安心させるために、私は力強く宣言した。



 3月も下旬だけど寒い日と暖かい日の差が激しく、周りでは体調を崩す人が多く見られた。私は健康そのものだけど。習い事の多さで辟易はしているけども、身体は元気だよ。
 修了式当日、無事に2学年を修了できた私はホッと一息ついた。あの学校でも本当に進級できない人が一定数存在するんだって。英学院こういう所シビアだよね。成績のことはお金じゃどうにも出来ないようである。
 それを考えると1年の時、よく進級できたよね私。幹先生のおかげであろうか。

「エリカさん、ごきげんよう」
「…ゴキゲンヨウ武隈さん」

 渡り廊下を通って部活に向かう私に声を掛けて呼び止めたのは、今日もモデルのように美しい勝ち気な武隈嬢だ。長く伸ばされた彼女の髪の毛から風に乗っていい香りが香ってきた。
 
「伊澄と呼んでとお願いしたのに…まぁ、いいわ。ねぇエリカさんの春休みのご予定はいかが?」
「あー…部活と習い事でとても忙しいです…」
「加納君との縁談が進んでいるから? …でもあなたには充分に教養が身についていたと思うけれど…」

 それはエリカちゃんね。私は全然駄目よ。

「…事件の影響で色々吹っ飛んでしまって」
「…まぁショッキングな出来事があると、今まで出来たことが出来なくなるとも言うものね。…忙しいなら仕方ないわ。夢子被害者の会の皆さんで別荘に行くからお誘いをしようと思っていたのだけど…」
「うん、会には入らないから遠慮しておくね」

 1ヶ月前にそんな話してたね確か。断ったのにまだ諦めていなかったのあなた。

「残念だわぁ」
「ぜひとも被害者メンバー一同で楽しんでおいでよ」

 被害者の会と言いながら全く悲壮感がないよね。…折角のお誘いだけども……もしも泊まりに行くなら、友人たちと行きたいなぁ。
 被害者の会のお嬢様方と私は友達ではないからね。多分お互いに気を遣うだけだと思うんだ。


■□■


 春休みに入って、部活と並行しながら私は新たな習い事を開始した。茶道や着付けとは違う、華道はやはり私のセンスでは無理そうな気がしていた。
 お師匠さんに付き添ってもらって一から習っていたけども、やっぱり私には芸術がわからなかった。お弟子さんの作品を見ても、どこがポイントなのかがわからないし、解説を聞いてもよくわからなかった。

「日本の四季折々の樹々や草花という命を切って花器に挿します。その生命を愛でる、生ける、生かす、客人をもてなす為に美しいものをより美しく表現する様式美、型式美を先達の教えから学び、稽古を重ねることで自らの美しい心と繋がり、磨き高める道です。…大丈夫ですよ。お花と触れ合っていく内に、華道のこころが理解できるようになります」
「……はい」

 上品でおっとりしたおばあちゃん先生は優しく指導してくれる。そんなおばあちゃん先生を慕うお弟子さんたちも優しく手助けくれる。それがとても申し訳ない気分になってしまうのは何故だろうか…
 はじめての華道は妙に気疲れしてしまった。皆優しく教えてくれたんだけどね、慣れていないことをして疲れちゃったの。
 それにしても華道の先生は茶道の考え方と似たような事を言っていたな。道を極めることで精神統一を図るみたいな…茶道はなんとなくわかるんだけど、華道でもそんな事出来るのかな? お花きれいだな、で終わるのではないのだろうか。


 所と日付が変わって、私はとある乗馬クラブに訪れていた。
 気分は最高だ。もうワクワクで今朝は早起きしてしまった。子供の頃ポニーに乗ったことはあるけど、乗馬らしい乗馬は今回が初めてだ。レンタルで借りた乗馬服はかっこいいし、私はウキウキであった。
 指導員の先生に連れられて、クラブ内の案内をされていると、グラウンドで白い馬を操る女性の姿があった。
 ひらりと障害物を飛び越え、難なく地面に着地する。馬と人が一体となって風のように駆けていく姿は、クラブ内にいる人の注目の的となっていた。

「わぁ、かっこいい…」
「確か彼女は…二階堂様と同じくらいのお年の女性ですよ。昔からうちのクラブをご贔屓にしてくださっていて」
「そうなんですか…」

 乗り慣れるとあんなことが出来るのか。わぁ、私も早く乗りたいな。馬と仲良く出来るだろうか。
 先程の彼女は大会でも華々しい成績を収めているそうだ。これは憧れるしかないであろう。彼女もエリカちゃんと同じセレブなのかな? と思っていたら、まさかのまさかであった。

「あら、エリカさん、あなたもここのクラブだったのね」

 白馬の王子様ならぬ、白馬のお嬢様が私の目の前に現れたのである。先程優雅に馬を操っていた女性は、武隈伊澄嬢だったのだ。瑞沢ハーレムの一員であるメガネの賀上氏の婚約者である。
 私は彼女に称賛の眼差しを送る他なかった。こんなにすごい特技を持っている人だったとは…!

「すごいね…馬に乗り慣れててカッコよかったよ」
「ありがとう」

 武隈嬢はニッコリと余裕のある笑みを返してきた。これがお嬢様か…と私は息を呑む。私がこうなるとか想像できないんですけど…

「今からレッスンなの?」
「うん。初心者だから、色々教えてもらわなきゃいけなくて」

 思ったんだけどその辺のお嬢様ってどのくらい習い事しているんだろう。

「…武隈さんて、どのくらい習い事しているの?」
「私? …そうねぇ…乗馬と英語と中国語の他にバレエとピアノに…昔は習字やマナー教室にも通っていたわね」
「あ、そうなんだ…」
「人によってはもっと習っていたり、習い事一本に縛っていたりするから個人差はあると思うけれど」

 茶道とか華道は習っていないのか。それも家の方針のひとつなのかな。
 エリカちゃんは私が習っているものの他に、ピアノや料理を習っていたけど、運動系は一切習っていなかったようだ。
 阿南さんも色々習っているけど、共通のものは一部だけだったな。
 文化祭やクリスマスパーティで衣装に関して大変お世話になった、手先が器用な元クラスメイト・井口さんは洋裁・和裁を習っていると聞いたことがある。得意なものを磨くのはいいことだよね、うん。

「二階堂様、そろそろ…」
「あっすいません。じゃあね武隈さん」

 ついつい話し込んでいたが、私には初心者レッスンがあったんだ。指導員の先生に呼ばれたので、私はそこで武隈さんと別れた。

「背筋はまっすぐにして、骨盤だけ猫背にする形で座ってください」
「えっ骨盤だけ猫背?」

 先生の言っている意味がいまいちよくわからなかったけど、座り方を間違えるとおしりが痛くなるそうだ。
 とはいえ私は乗馬初心者のため、初っ端から馬を走らせるわけではない。馬に騎乗した後は先生が手綱を握って誘導して、コース内を一周ゆっくり回ってその日のレッスンは終わった。緊張しちゃっていたので、馬に乗って楽しむ余裕がなかったけど、回数を追うごとに余裕も生まれるものだろうか。
 いつか武隈嬢のように馬で駆けてみたいものである。


 お次は書道だ。
 書道の方は習字がより芸術的になった感じなので、全然問題ない。毛筆でもいいけど、ペン字のほうがキレイになりたいなぁ…
 好きな言葉を書いてくださいと言われたので、私は「東洋魔女」と4文字で書いた。書道の先生は単語について一切突っ込むことなく「ここの止めが、ハネが」とアドバイスをしてきた。だが私はバレーボールがしたくてたまらなかったのだ。
 だって去年の今頃の私、バレーの自主練してたのよ? 習い事が割り込んできたせいでバレーする時間が半分になっちゃったのよ!? 発狂しそうですわ!

 そんなこんなで彼氏ができたと思えば、婚約話に転がり、そのために習い事が更に増えた私の毎日はますます忙しくなったのである。
 高校最後の1年はバレー一筋に過ごすのは厳しそうだが、なんとかバレーボールが出来るように頑張ろうと思う。
 

■□■


「馬めっちゃ可愛かったから、今度慎悟も乗馬しにおいでよ!」
「…乗馬は尻が痛くなるから苦手なんだ」

 カレーデートをしながら乗馬のお誘いをしたら、慎悟に苦手だと返されてしまった。どうやら乗馬経験者だったらしい。
 慎悟なら絶対に乗馬姿様になるはずなのに残念だ…

「じゃあ、私が馬を乗りこなせるようになったら見に来てよ。それならいいでしょ?」
「わかった。…あんたは運動神経がいいからすぐに乗りこなしそうだな」

 そう。運動神経には自信があるんだ。芸術系はいまいちだけど。あと勉強ね。

「乗馬クラブが武隈さんと同じだったんだ。その武隈さんがまぁ馬に乗るのが上手でね! めっちゃカッコよかったんだよ!」
「あー…そういえば何かの乗馬大会で金賞とっていたな…」

 有名だったのか。英学院には馬術部なんて無かったよね。管理とか敷地の問題かな。武隈さんがクラブで乗っていた真っ白な馬は私物なのだろうか…

「怪我しないようにしろよ。あんたバレーボールしているんだから」
「わかってる。予選控えてるから無茶はしないよ」

 確かに乗馬クラブの指導員の先生にも馬の事故もゼロじゃないからと色々注意を受けたな。気をつけなきゃ。
 落馬は本当に危ない。調子に乗らないようにしないと。

「またバレーの試合見に行くよ。…無理はするなよ」
「うん。慎悟こそ私の華麗なスパイクに惚れ直すなよ?」
「去年は怪我してて弱っていたくせに、あんたはすぐに調子に乗るよな」
「うるさいなー」

 今年は6月にインターハイ予選があるのだ。今度はもう依里はいないし、監督も代替わりしてしまったけど、それでもまた誠心高校と戦いたい。
 エリカちゃんとして生きることとなって、彼氏ができて、こうして沢山の習い事をしてお嬢様教育を受けていたとしても、やっぱり私はバレーが好きだから。
 私は目の前にいる慎悟を見て、去年の今頃を思い出していた。去年はインターハイ予選出場を目指して、努力していた自分が今はこうしてのんびり彼氏とデートしているのだ。
 すごい変化である。

「…前はバレーが全てだったんだけどねぇ…」
「ん?」

 私の世界の中心はバレーボールだった。 
 今もバレーへの愛は変わらないけれど、そのうち慎悟がその隣に並ぶかもしれないよね。
 私のつぶやきに対して慎悟が訝しんでいるが…教えてあげない。

「カレーが美味しいなって言ったんだよ」

 春の気配が近づく春休み。毎日習い事にヒィヒィ言っていても、それでも頑張れるのは慎悟がいるから。
 私は大好きなカレーを大好きな人と一緒に楽しんだのだった。

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