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お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。
英語話せない私がアメリカに留学することを想像してみた。言葉の壁にぶつかるだけです。
しおりを挟む「あれ? なにそれ」
帰りのHRの後に、慎悟が担任の先生に呼ばれて何かを受け取っていたので、机に戻ってきた彼に何を貰ったのか尋ねてみた。
「…あぁ、留学の手引きだよ。先生に頼んで取り寄せてもらった。前々から留学するのは決めていたんだ」
見せてもらった冊子には「留学を希望されている方へ」というタイトルがデカデカと表紙を飾っていた。
「…そっかぁ留学するんだ……どのくらい?」
「おそらく…1年くらいかな。行き先はアメリカで、留学する大学も目星つけてる」
その言葉に私はショックを隠せなかった。1年という長さだけでなく、慎悟が外国に行ってしまうという事実にだ。
いや、意識高い慎悟なら先々のことを考えて行動するに違いない。彼が将来のために学びに行くのだとわかっている。遊びではないのだ。
だけど1年…それを考えると寂しくなってしまった。その間ずっと会えないのだ。連絡するにも時差があるから、なかなかタイミングが合わないだろう。頻繁に渡航できるわけでもない。
しかも多国籍な自由の国アメリカじゃん? すっごい優秀でボインな美女に慎悟が骨抜きにされて帰ってくる可能性もあるじゃん? そうなれば私は太刀打ちできない…!
私は俯いて、ボソリと呟いた。
「…留学先で浮気しないでよ。金髪美女連れて帰ってきたりしないでね…」
「…心配なら笑さんも留学したらいいのに」
「あんたみたいに英語話せないんだよ私は!」
無茶言わないでよ! 私は未だお察しの英会話能力だってのに…留学なんてしたら言葉の壁にぶつかってしまって心折れる予感しかないわ!
「1年もいたら嫌でも話せるようになるさ。…俺と離れ離れであんた、耐えられるのか?」
「それは…慎悟もでしょうが」
ふん、と慎悟は鼻で笑っていた。鼻で笑うのやめてくれないかな。
「笑さんはそういう場所に行ったら、すぐに馴染みそうだけどな」
「私、英会話の先生とハートで会話している現状なんだよ? 行っても意味なくない?」
「俺が留学するのは、大学入ってしばらくしての予定だよ。多分2年になった頃辺りかな。考えるならまだ時間があるさ」
なんだよ、簡単に言ってくれちゃって。
悔しくなったので、私は慎悟の背中に抱きついた。私だけが寂しいみたいで…悲しいじゃないか…
慎悟の肩におでこをぐりぐりしていると、彼のお腹に回している手首を掴まれたので、ぐっと力を入れてやる。
「…英語はきっとこの先、仕事で役に立つよ。自分のために考えてみたらどうだ?」
「んー…ママに相談してみる…」
それはそうなんだけどね…パパとママにも外国語習得してほしいと言われているけど、前途多難すぎる私の会話力…
学力レベルからして私と慎悟は別の学校への留学になりそうだけど、現地で色んな人と触れ合って言語を学ぶというのは私の英語の苦手意識の改善にもなるとは思う。
でも、喋れもしない私がいきなり行ってもなぁ…英語勉強すればするほど意味がわからなくなってきたんだもの…
「あらあら、加納様ったら顔がにやけていらっしゃいますよ?」
「えっ!?」
阿南さんが面白い物を見てしまったかのように声を掛けてきた。私はその決定的瞬間を目撃するために素早く慎悟の顔を見るために前に回ったが…慎悟の顔はいつもの落ち着いた表情のままだった。
「貴重なニヤケ顔見たかったのにー!」
「そんな顔していない…ほら帰るぞ。今日も家庭教師の先生とテスト対策するんだろ」
「阿南さんが写真撮ってくれたら良かったのに!」
「申し訳ございません。…櫻木様達がいらっしゃらなくてよろしゅうございましたね」
その言葉にハッとして、私は辺りを見渡した。…いない。良かった…
阿南さんに具体的にどんな顔をしていたかを聞いていたら、慎悟に腕を引っ張られた。
「帰りたいなら先に帰っていなよ」
「いいから…じゃあな阿南」
「さようなら、おふたりともお気をつけてお帰りくださいね」
どんどん阿南さんから引き剥がされていく私。阿南さんはそんな様子をあらあらと微笑ましそうに見送っている。
慎悟はどんな顔をしていたの!? 気になるじゃないの!
「…ケチ」
阿南さんには見せるのに私には見せてくれないのか。いいじゃん減るもんじゃないんだからと慎悟に文句を付けていると、慎悟にジロッと視線を向けられた。
「あんたが今やるべきことは?」
「…べんきょーです」
クッ…! そこを指摘されると何も言えない…!
私がムッとして黙り込むと、慎悟が手を握ってきた。
「…テストの結果が前回よりも上がっていたら、カレーおごってやるから」
「……わかった、頑張る…」
カレーにつられている私は子供か。
なんだろうなぁ、1年早く生まれたからリードしてやろうと思うけど、慎悟は私よりも大人びている部分があって、うまく転がされている気がする。
悔しい気持ちもあるけど、それがなんだかむず痒い…
「えー…じゃあ慎悟が主席になったら私もなにかご褒美あげるよ」
「…俺のほうがハードル高くないか?」
「その代わり慎悟が食べたいものなんでもごちそうしてあげるよ! あ、でも私のお小遣いの範囲内でお願いします」
チョコレートビュッフェとかあればそこに連れていくとか出来るんだけどなぁ…私がなにが食べたいか考えておいてねと声をかけたが、慎悟にこの言葉は効かなかったようである。
「せいぜい頑張るよ」
「なんか弱気な発言だなぁ」
「幹は強敵すぎる。俺だって万能じゃないんだからな」
「えー」
まぁ幹さんがすごいのは私が身を持って知っている。でも慎悟はそれに加えて、他の勉強もしているんだ。充分すごいと思うけどな。
「慎悟が努力家で頑張り屋さんなのは知っているよ?」
「何だよ急に」
「充分すごいって意味」
私は慎悟の手を引っ張って先を急いだ。早く帰ってお互いに勉強しなきゃね!
うん、私もグダグダ言っていないでテスト勉強頑張ろう。慎悟が頑張っている姿を見ていたら自然とそう思えたのであった。
その後、家庭教師の井上さんの指導の元でテスト前の追い込みをして、とうとうやってきた中間テストで私は…燃え尽きた。
テストはいつもよりも解けた気がする。幹さんの今までの尽力と新たに加わった秀才井上さんの指導力のお陰であろう。
最終日の最後の科目を終えると、私は屍のようになっていたけども、その後すぐに部活に復帰したので気力を取り戻すことが出来た。
なんたってもうすぐインターハイ予選なんだ。
私は燃えていた。インターハイ予選突破はもちろんのことだが、8月開催の最後のインターハイ、次こそは2回戦突破を目指そうと。
■□■
「それでね、今度慎悟がカレー屋さんに連れて行ってくれるんだ~」
「良かったですね二階堂様」
テストの結果がまた上昇していたので、私は約束通り、慎悟にカレーをごちそうしてもらえることになった。
今までに何度かカレーデートには行ったけど、それでもやはりカレーは特別だ。ほら、私前世がカレーの国の人疑惑があるからさ…
3学年1学期中間テストの結果が張り出された。主席は安定の幹さん、次席が慎悟で、3位が上杉となった。慎悟と上杉は何点かの差である。いつものことだけど。
頭のいい人たちは本当に変態だな…彼らの頭の中はどんな仕組みをしているのだろうか。私は順位表を見て、肩を竦めた。
私に勉強を教えていた時もぶっちぎりの主席だった幹さんは、今回私に教える事無く、自分の学習に集中できていたようだ。
全教科満点取る人って世の中に存在するんだなぁ…
私がちらりと幹さんを見ると、幹さんは不思議そうに首を傾げている。今までは私の指導でフルパワーで挑めなかったにしても…どこまですごいのかな幹さん…
私の成績が上がったにしても、あそこに名を連ねることはない。50位以内とか絶対無理…
「…やっぱり主席は無理だったな…」
傍に近寄ってきた慎悟が順位表を見上げて、ため息を吐いていた。次席でも十分すごいのに、ため息って。
「次席おめでとう。すごいね! どうしてふたりともそんなに勉強できるの? 頭良すぎてじゃない? やっぱり変態だね」
私が純粋な疑問を問いかけると、慎悟に何いってんだコイツみたいな目を向けられた。だってそうじゃない。同じ人間に思えないよ。
「ふふ、それでしたら二階堂様はバレーボールの変態になりますよ?」
「私は自覚してるから大丈夫」
人間は何かしら変態な部分があると思うんだよ。私はバレーボールに関しては変態だと自分でも思っているよ。
「油断するなよ。次は期末テストだ」
「待って、まだ日にちが開いてるでしょ? 期末テストは7月だよ?」
やっと中間テストが終わったのになんで期末テストの話を持ち出すの?
私は十分頑張った。テストが明けた後の開放感くらい味あわせてくれないか。
「6月はインターハイ予選であんたはそっちに気が持っていかれるだろ? それで勉強が後回しになって、結局期末テスト前に焦る…違うか?」
「やめて、私の行動パターン推理するの」
「当たってるだろ」
意地悪な奴め! 私がペシっと慎悟の二の腕を軽く叩くと、お返しに頭をグワシと掴まれた。ワッシャワッシャと撫でられるオプション付きである。
「今勉強したことはその後の為になる。いくらこの学校がエスカレーター式でも気は抜くなよ」
「わかってるよー。もー、髪の毛が鳥の巣になるでしょうが」
なんで頭を撫でてくるのよ。頭良くなれっていいたいの? 丁度いい位置に頭があるからとか言ったら怒るよ。
「あ、おふたりとも、彼女達がこっちに来ますから逃げたほうが宜しいかと」
幹さんが加納ガールズたちの気配を察知したらしく、私達に警告してくれた。私も慎悟も、彼女らの最近の勢いに少々辟易していたので、その警告に従って速やかに避難することにした。
その時、私はとある人物の後ろを通り過ぎた。
彼は順位表を睨みつけるように見上げており、いつも彼の側にいる少女の姿はそこにはなかった。
そういえば私と同じクラスの彼女は最近元気がない。体育祭のあの出来事以来、彼女と彼が一緒にいるところを見ていない気がした。
私がその彼の後姿を眺めていると、何処からか「あらっ!? 慎悟様!? ここにいらっしゃったはずなのに!」という巻き毛の大きな声が聞こえてきたので、私は足早にその場を離れたのであった。
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