お嬢様なんて柄じゃない

スズキアカネ

文字の大きさ
200 / 328
お許しあそばして。お嬢様なんて柄じゃございませんの。

いつまで居座るつもりなんだ。

しおりを挟む

 三浦君は「デートの邪魔してごめんね」と口では言っていたが、ずっとそこに居座っていた。ていうか慎悟の隣で本読んでた。
 図書館内のため静かにしなくてはいけない。早々に会話を切り上げて、各々読書をしていたのだけど、いつまで三浦君はこの場に居座るのか……私はすごく気になっていた。
 彼とも仲良くしたいのはあるが、今日は慎悟と2人きりのデートをしているんだ。急に割って入ってきて堂々と居座られると……普通に困るよね。
 図書館に到着して本を読み始め、三浦君と遭遇してから時間が更に経過して…早くも時刻は正午を過ぎていた。
 お腹が空いてきたんだけど、お昼はどうするのだろうか……。私はスポーツ医学の本を読みながら、ちらりと目の前に座る慎悟と三浦君に視線を向けた。ふたりとも本に集中しているので声を掛けにくいなと思っていたら、三浦君が本から視線を外した。
 
「そうだ、久々に再会できたんだ、食事を奢らせてよ」
 
 その提案に、読書にふけっていた慎悟も読むのを中断して顔を上げていた。
 ……本音を言うと、全く知らない初対面の人、しかもエリカちゃんを知っている相手と一緒に食事とかちょっと気まずいなぁ。
 だけど、慎悟にとっては親友だ。久々の再会になるのではなかろうか。私はちらりと慎悟に視線を向けた。

「…どうする?」

 慎悟は一応私の意見を聞き入れようとはしてくれている。だけど本人の目の前で気まずいとか言いにくい。

「…いいよ。久々に会えたんでしょ?」

 今日は慎悟の行きたいところに行こうと思っていたから、今日くらいはいいか。また日を改めて2人きりでデートしたらいい。
 そんなわけで3人で昼食を取ることになった。
 図書館を一旦後にして、私達が向かったのは図書館直ぐ側にあるスペイン料理店。4人がけのテーブル席で、私が慎悟の隣に座ると、斜め前の席に三浦君が座っていた。

「ここ、結構美味しいんだよ。いろんな物を頼んで皆でシェアしよう。二階堂さんは好き嫌いはない?」
「大丈夫だよ。スペイン料理かぁ、普段あまりお目にかからないから楽しみだなぁ」

 ランチの時間帯ではあるが、単品の料理も提供してくれるようである。メニュー表を見たら、普段あまり口にすることのないメニュー名がずらりと並んでいた。

「あっ慎悟、ぴんちょす! ぴんちょすがあるよ!」
「前菜代わりに頼むか?」
「うん、うん! これ名前がいいよねぇ響きが好き」
「味じゃないのか」

 1年の時のクリスマスパーティで、慎悟から色々教わった料理名の中で一番印象深かったぴんちょす。これは名前が印象深すぎて最初に覚えた。去年のパーティーでも食べたよ。
 メニュー表を見ていたら、お米料理も載っていた。パエリアってスペイン料理だったっけ? 私はお米が食べたい気分なのでパエリアをリクエストしておいた。他にもアヒージョやスパニッシュオムレツ、自家製ソーセージの炭火焼などを頼んでいた。

「お待たせいたしました、ガスパチョになります」

 注文してすぐに冷製トマトスープがテーブルに到着した。ちょっと酸っぱいけど、暑い夏にはぴったりな野菜たくさんスープだ。それから間もなくぴんちょすが届いたので、私はウキウキしながらそれを摘んだ。

「所で二階堂さんはバレーではどのポジション担当なの?」

 ポテトサラダの上にアンチョビが載っかっているぴんちょすを咀嚼して味わっていると、三浦君にバレーボールの担当ポジについて質問された。私は口の中のものを飲み込んで口を開いた。

「ん、スパイカーだよ?」
「…スパイカーってさ、俺の記憶が間違っていなければ、攻撃担当だよね? …身長もだけど、腕力も必要なんじゃない?」
「うん、だから筋トレも欠かさずにやって、2年前よりも逞しくなったよ」

 華奢で、風が吹けば吹っ飛びそうな可憐なエリカちゃん。とてもじゃないがバレーボールに向いた体格でもないこともあり、私が憑依した時に肉体改造をとにかく頑張った。今では健康的な筋肉が身に付いたと自負している。

「そう言われてみたら中等部の頃より逞しくなったような…」
「この鍛えた筋肉で強いスパイクを打ってみせるよ」

 腕を持ち上げると、二の腕をバシバシ叩いて、ピチピチの筋肉を見せつけた。
 ふと思ったけど、私思いっきり三浦君の前で地を出してしまってるな。…まぁいいか。

「そんなこと言って、また空回りして廃人になるなよ」
「ゔっ…でもほら見てよ、この鍛えられた二の腕を!」

 横から釘を差して来た慎悟に、二の腕の筋肉アピールをしてみた。今日はノースリーブのワンピースでデートに参上したので、二の腕の筋肉がよく見えるはず…!
 慎悟は目を細めて二の腕を見ていた。そして、小馬鹿にしたように鼻で笑った。

「…鍛えられた…ねぇ…」
「何その反応! 慎悟こそ本よりも重いもの持たない生活しているくせに……!?」

 半笑いする慎悟のバカにしてくるような反応にムッとした私は、隣に座る慎悟の二の腕を服の上から掴んで…目を見開いた。

 私よりも、鍛えられているだと…?
 鍛えに鍛えて一回り逞しくなった今の身体。ぐっと腕に力を込めて見たけど、それでも慎悟の二の腕のほうが逞しかった。…多分同じ年齢でスポーツをしている男子に比べたら細身のはずだ…目の前の三浦君はテニスをしているだけあって腕も足もしっかり筋肉がついている。それに比べたら細身に見えたのに。
 …趣味程度でたまにスポーツする慎悟のほうが、部活で汗をかいている私よりも鍛えられているって何? 
 ぎゅうぎゅうと慎悟の腕を揉んでいたら、慎悟から「痛い」と小言を頂いた。
 ついつい妬みの心が噴出してきて、慎悟の腕の筋肉を圧縮してやろうと手が勝手に……どういうことだ。

「…重い本を使って負荷かけてるの…?」
「そういうわけじゃないけど…」
「あはは、二階堂さん負けず嫌いなんだね」

 身長も負けて、筋肉量でも負けて…その辺は私のほうが頑張っているのに何故だ…さてはプロテインでも飲んでいるのかあんた。はたまた運動している事を知られたくなくて嘘付いてるの? 私彼女なのに秘密にしちゃうわけ!?

「男のほうが筋肉が付きやすい体質だから仕方がないよ。まぁでもスポーツには筋肉が不可欠だもんな。悔しくなる気持ちはわかるよ」
「そうだよ、この筋肉があればもっと強いスパイクが打てるのに!」
「身長をよこせの次は、筋肉よこせか」

 慎悟に呆れた目で見られたけど、私は今までの努力が性差に負けたというのが悔しゅうて悔しゅうて…
 慎悟が私の彼氏で男という事実の前に、1人のスポーツ選手として悔しいんだ…!

「スパニッシュオムレツと自家製ソーセージの炭火焼になります」
「わぁ、おいしそう」

 だけどその悔しい気持ちは美味しそうな料理の到着で何処かへと飛んでいった。美味しいものは正義だ、うん。
 その後、魚介と季節の野菜のアヒージョとパエリアがやってきて、私達は美味しい料理に舌鼓を打っていた。

「美味しそうに食べるよね、二階堂さん。ご馳走する甲斐があるよ」
「だって美味しいものは美味しいもの。しかめ面で食べるほうが失礼でしょう?」
「悪いとは言っていないよ。…ただ、前の二階堂さんとは180度性格がガラリと変わっているから驚いてるんだ」

 三浦くんの言葉に私は笑顔で返した。このやり取りも何度もした。今更動揺しないよ。 

「二階堂さんがこんな子だったなんて知らなかったよ。…今まで猫かぶってたの?」
「…もう自分を偽る必要もなくなったの」

 エリカちゃんを知っている人間なら必ずそこが引っかかる。いくらエリカちゃんがボッチマスターでも、同じ学校にいたんだから雰囲気くらいは把握しているであろう。
 猫をかぶっていた云々は…どうだろう、かぶる猫が存在しないことがそもそもの問題だ。エリカちゃんのふりをしようと思ったことがないんだもんな。ていうかエリカちゃんを知らなかったから出来なかったとも言う。
 三浦君はふーんと気のない返事をしていたが、その瞳は探るような目をしていた。

「慎悟とも全然仲良くなかったし…そもそもこんなにおしゃべりとは思わなかったな」
「事件を機に生まれ変わったの私」
「…ま、凄惨な事件だったもんね。無理もないか」

 興味津々というわけでなく、ちょっと気になったから質問しただけのようである。三浦君は私を探るような目を止めて、パッと視線を慎悟に戻すとガラリと打って変わって、友好的な笑みを浮かべた。

「なぁ、慎悟。8月に別荘行かね? 久々にテニスしようぜ」
「…お前は受験があるだろ。俺達のような内部進学組とは異なって、大学受験のいちばん大事な時期なんじゃないのか?」
「だぁいじょーぶだよ! ずっとテニスするわけじゃねーし、もちろん勉強もするさ」

 三浦君は「約束な!」と半ば強引に慎悟とお泊まり会の約束をしていた。とても嬉しそうだ。その笑顔からは好意しか伝わってこない。彼が慎悟を心から信頼しているのがわかる。大好きなんだな。
 いいじゃないの、青春ぽくて。
 是非テニスをする慎悟の姿も見てみたいが、親友同士の時間を邪魔するのは野暮ってものだな。

 別荘か…セレブっぽいね。
 二階堂家にも一応別荘はあるみたいだけど、それは一族共用の別荘。パパママは多忙だからあまり利用しないみたい。
 …従妹の美宇嬢の母親である叔母さんはよく利用するみたいだよ。この間パパが「紗和が夏休みいっぱい別荘を利用すると言っていた」とぼやいていたもの。

 お祖父さんの長女である一番上の伯母さんは他家へお嫁にいったとはいえ、二階堂の会社を任された旦那さんのサポートをしているみたいだ。加納家からお嫁さんをもらった息子さんは跡を継ぐために一緒に会社経営している。
 伯父さんやパパも同様だ。皆いろんな形で二階堂家に貢献している。
 だけど一番下の叔母さんはそうでもない。嫁入り先でのんびりまったり過ごしつつ、事業を手伝うわけでもなく、実家に頻繁に出入りしているそうだ。それは悪いことではないが、一番下の妹さんだけが何もせずに甘い汁をすすっているように見えるのは、私が彼女に対していい印象がないからなのだろうか…
 
 二階堂家はちょっと複雑みたいで、お祖父さんの今の奥さんは後妻で、その人の子供は4番目のその叔母さん…紗和さんだけなんだとパパから聞かされたことがある。パパ含めて上の3人は前妻の子供で、前妻…エリカちゃんの実のお祖母ちゃんは30代の若さで病にてこの世を去ったそうだ。
 そのせいか紗和さんは後妻から溺愛され、お姫様のように育てられ…上3人の兄姉とは差別されて育てられたとか…ちょっと微妙な関係らしい。
 パパは小学生の頃に実母を亡くして程なくして新しい母が登場して妹が生まれて…継母に差別されて、戸惑いはしたみたいだけど、当時中学生だった一番上のお姉さんがしっかり面倒見てくれたこと、当時お世話してくれていたお手伝いさんが母親代わりをしてくれたこと、そしてお兄さんも一緒になって遊んでくれたから寂しくはなかったみたい。

「知らない話で退屈だったか?」

 私が二階堂家の事情を思い出しながらぼんやり食事をしていると、隣に座る慎悟から肩を叩かれた。ついつい考え事をしていただけだよ。「そんなことないよ、ごめん考え事してた」と返しておいた。
 その時、斜向かいに座っている三浦君が私を探るような目で観察してきていた。

 ……彼のその行動がやっぱりどこかに引っ掛かった。最初の違和感は気のせいではないのかもしれない。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる

奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。 だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。 「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」  どう尋ねる兄の真意は……

処理中です...